Hebidas ヘビダス  ヘビの病気マニュアル

P36 便秘

 一番便秘になりやすいのは、食べすぎで運動不足のヘビである。便秘をひきおこすその他の要因としては、普段よりも少し温度が低い、あるいは湿度が低いということが挙げられる。温度が低いと、ヘビは熱源に巻きつくことがあり、すると、運動不足のヘビはどうしても腸内の大便を数日間にわたって“焼いて”しまうことになる。その結果、大便はより乾燥し、より移動しにくくなるのだ。ケージ内の湿度が低いと、水分の蒸発率が増え、状況をさらに悪化させることになる。このまま何の手段も講じないと、ヘビの大便は岩のように固く乾燥する場合がある。大便のことをfecolithと呼ぶが、これは石の糞便という意味である。慢性的な便秘の場合でも、多くのヘビがそのまま食べ続けるので、かなりの大便がたまってしまうことがある。
 便秘にはさまざまな治療法がある。なかでも一番有効なのは、環境を改善することである。ケージのなかから空気を乾燥させる床材 (糞尿を吸収させるための木屑など)や、木や段ボールでできた備品を取り除くことだ。ケージ内部を乾燥させることがあるので、未処理の木材が側面に使われているケージを使用しないこと。また、ケージの近くに加湿器を置くとよい。ケージのサイズと備品を大きくして、ヘビの運動量を増やし、餌やりの頻度を減らし、より小さな消化しやすい餌を与えることも、便秘症状の改善に役立つだろう。
 便秘治療の第二の方法は、ヘビを数回ぬるま湯につからせることである。たいていの場合、1日1回15分ほどヘビを浅いぬるま湯につからせ、それを3〜4日繰り返せば、排便するようになる。それでも排便しないなら、ぬるま湯や低濃度のDSS (ジオクチル・ナトリウム・スルホン基琥珀酸塩)を浣腸する方法が効くだろう。1991年、フライは1987年のポール・マーフィーの報告を引用しながら、希釈液を胃管に注入する場合には、DSSの原液1に対して、水20の割合で薄めなければならないとアドバイスしている。また、フライは便秘改善の助けとして少量の酸化マグネシウム液やミネラル・オイルを使ってもよいと報告している。
 少量のミネラル・オイル (体重1kgに対して1ミリリットル)を胃管に注入する方法は昔から推奨されてきたし、実際うまくいくようである。しかし、ヘビへの注入は熟練者がおこなわなければならない。場所を間違えると、吐き戻しをしたり、オイルが呼吸器に入ったりして、結果として肺炎をひきおこす場合があるからだ。筆者たちが長年おこなってきて発見した、ミネラル・オイルのうまい注入法は、冗談まじりに“下剤マウス”あるいは“下剤ラット”と呼ばれている。要するに、ヘビがまだ餌を食べているなら、あらかじめ死んだマウス (あるいはラット)に適切な量のミネラル・オイルを注入しておき、それを与えるのだ。数日後、マウスやラットが消化されると、オイルが流れ出し、大便がやわらかくなり、数日から数週のうちに排便をするようになるというわけだ。ある研究者によると、カルシウム注射をすると、筋肉の状態が正常化されるので、便秘改善につながるという報告もある。ただし、筆者自身はまだこの方法は試したことがない。
 内科的な方法でも便通がない場合、外科手術によって糞便を除去する必要がある。しかし、一般的に言って、便秘問題に対する最善の方法は便秘を予防することである。ヘビに餌を与えすぎないこと。できるだけ広い活動スペースを与えること。適切な温度と湿度を保つこと。毎日ヘビに触ることがいい運動になるという研究者もいるが、触られるのが苦手な動物もいるということをお忘れなく。

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