Hebidas ヘビダス  ヘビの病気マニュアル

P57 餌やりの頻度と肥満

 爬虫類の獣医が一番よく聞かれる質問の一つは、「ヘビにはどれくらいの頻度で餌をやればいいのでしょう」というものだ。これは重要な疑問であり、複数の答えが提示されてきた。野生のヘビの研究によると、温帯地方に棲むヘビは、おおむね1年間に自分の体重の2〜4倍の餌を食べるとされている (1982年、フィッチの報告による)。あまり動かない性質や性格をもったヘビの場合は、必要量は2倍程度で十分だが、活動的なヘビの場合には、4倍くらい必要であると考えられている。この情報を参考にしつつ、ペットのヘビの多くがケージのなかで運動を制限されていることを考えると、平均体重1ポンド (約454g)のヘビは、1年間に2ポンドのマウスが必要であるということになる。マウスの平均体重が0.11ポンド (約50g)だとすると、体重1ポンドのヘビを養うためには、1年間に約18匹のマウスが必要ということだ。ヘビの活動期間が8ヶ月で、冬眠期間が4ヶ月だと仮定すると、2週間に一度の割合でマウスを与える計算になる。ただし、この推定試算量はあくまでも活動的ではないヘビの場合であり、生殖期や成長期に必要なエネルギーに適用することはできない。
 別の方法として、ヘビの代謝速度にもとづいて、必要エネルギーを計算するというやり方もある。必要なエネルギーをキロカロリー (Kcal)で表現すると、それは動物の体重 (kg)の10倍を0.75乗したものに等しいとされている。故に、体重1ポンド (約0.45kg)のヘビは1日に5.5キロカロリーが必要だということになる[(0.45×10)0.75=5.5Kcal]。マウス1匹には約85キロカロリーが含まれているので、生殖や成長といった余分なエネルギーを考えなければ、1匹のマウスがあれば、体重1ポンドのヘビを15日間 (約2週間)維持するのに必要なエネルギーを満たすことができるということになる (1993年、メイダーの報告による)。
 これら二つの手法は、体重1ポンドのヘビを維持する必要エネルギーの計算には十分有効である。しかし、たいていの飼い主は、これらの計算値以上に餌を与えており、特にヘビのブリーダーは、成長や繁殖をさせるために過剰なエネルギーを与えようとしているだろう。ヘビの生殖期が終わった後も過剰に餌を与え続けた場合には、結果として肥満を招くことになる。卵を産むメスよりも、オスのほうがはるかに肥満になりやすい傾向がある。このことは、オスよりもメスのほうがはるかに多くのエネルギーを必要とするのではないかという爬虫類繁殖家の主張を裏付けるものである。
 このことは筆者や他の多くの専門家の観察によっても裏付けられている。多くの種において、メスはオスよりも満足させやすい傾向をもっている。おそらくメスはオスよりも多くのエネルギーを必要とするために、より定期的に食べ、かつ、餌の選り好みも少ないのだろう (1993年、シーゲルとコリンズがヘビの性差についてくわしく紹介している)。
 ヘビが太っているかどうかをどうやって判断すればよいのだろう? 肥満を示す一般的な目印は次の二つである。1:ウロコの間から肉が見えている。 2:きちんととぐろが巻けない。 筆者が観察した肥満のもう一つの目安は、“脂肪の線”があるかどうかである。これは体重の重いヘビが長時間とぐろを巻いていた時に、ウロコにできる縦方向の皺のことである。こうした過剰な脂肪は、人間で言うところの三段腹やビール腹と同じような皺を作り出す。そして、皺にはさまれたウロコは逆方向に折れ曲がってしまう。
 人間や他の動物の時と同じように、ヘビの肥満も数多くの重度の健康障害と関連している。そのなかには、心臓病、腫瘍、妊娠率低下、代謝機能異常、筋骨格異常などが含まれる。肥満した動物は寿命が短くなる傾向もある。そのため、肉体が機能するのに必要なエネルギー量以上に餌を与え過ぎないようにするのが大切である。先に紹介した方法を使えば、体調維持に必要な量は計算できるが、成長期や生殖期に必要な食事量は、その2〜3倍になるだろう。それ以上に餌を与えれば、かなり太り過ぎのヘビになるだろう。
 ヘビが肥満だと診断された場合、減量ダイエットをしてもいいだろう。食べる餌の量を徐々に減らして、体調維持レベルにまでおとすのだ。そのためには、先に紹介した方法で、ヘビの最適体重にもとづいて体調維持レベルの餌の量を計算し、数ヶ月かけて、ゆっくりとその量に近づけていかなければならない。具体的に言うと、肥満のヘビがいて、計算によると体調維持に必要な量が1週間にマウス1匹だったとする。しかし、そのヘビは現在1週間に3匹のマウスを食べているとする。その場合、次のように餌の量を減らしていけばよい。最初の1ヶ月は餌の量を25%減らす (12匹×75%=9匹)。2ヶ月目はさらに25%減らす (9匹×75%=6.75匹)。3ヶ月目には無事に体調維持レベルにまでたどり着けるだろう。進歩状況を確認するために、ヘビの体重チェックはできるだけすること。
 ※肥満のヘビに対して、絶食させてはならない。ごく稀にだが、さまざまな胃腸障害や代謝機能異常をひきおこす可能性があるからだ。

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