Hebidas ヘビダス  ヘビの病気マニュアル

P79 寄生虫

 外部寄生虫
 外部寄生虫 (特にダニ)は、脱皮不良の原因となり、血液や細胞液を吸うだけでなく、細菌感染の拡大にも関わっている可能性がある。とは言え、ダニの死骸から病原菌を培養することはできなかったというロスとマーゼックの報告 (1984年)も無視してはならない。また、ダニはかび菌・ウイルス・血管内寄生虫を媒介するとも言われているが、現在のところ、そうした証拠はほとんど存在しない。しかし、飼い主はあらゆる努力をはらって、ヘビにダニがつかないように予防し、もしダニがついたら、始末しなければならない。寄生虫の治療は家庭でもおこなうことはできる。しかし、害虫駆除に関しては、獣医に相談したほうがはるかに有益だということを忘れないように。もし一種類のヘビがひどい感染をした場合、もしくは、多数のヘビを飼育していて感染が拡大する危険性があるような場合は、すぐに獣医に相談したほうがよい。もし数匹のヘビしか飼育していない場合、もしくは、感染がひどくない場合は、自分で治療を試みて、寄生虫を退治することもできる。
 ヘビは多くの寄生虫を溺れさせようとして、何日も続けて水皿に浸かっている場合がある。ヘビがこうした行動をとった時には、ダニがいる可能性があると考えたほうがよい。ただ問題は、ヘビは呼吸をするために頭を水から出していなくてはならないため、ダニの多くが頭部に移動してしまうということである。昔からあるダニの治療法は、このヘビの行動を利用したもので、ヘビを石鹸水に浸けて、さまざまな油を (たとえばサラダ油やコーン油など。石油ではない)頭部に塗り、それと同時に、ケージを徹底的に消毒するというものである。ケージの消毒には、次亜塩素酸ナトリウムの希釈液 (水1クォートに対して1〜3オンス=水0.946リットルに対して29.57〜88.71ccの濃度の漂白液)が有効である。Sevin粉末 (5%)という商品は、ダニを退治するのに極めて効果の高い安全な方法であり、ケージにもヘビ自身にも使用できる (1992年、レベルの報告による)。レベル氏は、ケージを洗ってすすいだ後、ケージのなかに粉末を均等に散布し (深さは約3ミリ)、数時間 (時には24時間)ヘビをそのなかに入れておくとよいとアドバイスしている。ダニが退治され、ヘビも無事なようなら、ヘビとケージとよくすすいで乾かし、二週間後にもう一度同じことを繰り返す。しかし、このSevin粉末治療法は気をつけておこなわなければならず、ヘビが脱皮している時期には特にそうである。
 ヘビのダニ (Ophionyssus natricis)を裸眼で見ると、小さな黒いカブトムシのように見える。若いダニや卵は、小さな白い点としてなんとか見える程度である。一般的に、ダニが最初に発見されるのは水皿のなかである。数多くのダニの成体がそこで溺れているからだ。ダニはヘビの目の周囲に集まる傾向があり、眼窩の周囲に腫瘍ができたり、目が落ち窪んだような感じになることもある。目のふちを濡れた綿でかるく拭いてやると、何匹かのダニが採取できることがある。それらを顕微鏡で調べれば、診断を下すことができる。
 多くのひびや裂け目が入った未加工の木製ケージは、ダニを退治するのが極めて困難だとされている。ケージを塗装するか、木製部分を密閉するか、ケージそのものを捨ててしまうしかない。ケージ内の全ての備品を漂白剤に浸けるか、180℃の熱で15分間焼くか、捨ててしまうことだ。時には、同じ部屋にある全てのケージに対して、あるいは、少なくともダニに感染したケージと隣り合った全てのケージに対して、こうした処置をとる必要がある。多くの場合、Sevin粉末 (5%)治療をおこない、2週間後に同じことを繰り返せば、問題は解決できる。しかし、ダニを確実に退治するために、別の方法を試すのもいいだろう。
 その方法とは、No-Pest Strip (商品名)のようなVapona系薬剤の紙片をケージに入れることである。ある飼い主はNo-Pest Stripの代わりに、犬や猫用のノミ避け首輪 (25〜50%の濃度のVaponaを含有している)を同じように使用しているという。筆者たちは、飼育ケースの容量40リットルに対して、2.5センチの長さの紙片を使用したことがある。飼育ケースの天板の真上に置くとよい。また、穴を開けた小さな容器 (たとえばフィルムケースなど)に紙片を入れて、それをケージのなかに入れてもいいだろう。お薦めの方法は、紙片をケージの中 (または上)に5日間置いておき (その間、水皿はどけておく)、その後、紙片を取り出して、水皿を元に戻す。2週間後、再び水皿を取り出して、ケージの中 (または上)に紙片を5日間置く。治療後は、紙片をビニール袋に入れて、将来のために保存しておく。きちんと保管しておけば、数年は使える。
 注意点:最近、Vapona系薬剤の紙片の有効性に疑問を投げかける声がでてきた。どうやら、ダニが現在の有効成分に対して抵抗力をつけはじめたらしい (1983年、トッドの報告。1990年、ピーターソンとオールの報告)。さらに、この商品のヘビに対する安全性も疑問視されている。ガータースネーク (Thamnophis属)のある種が“一時的に麻痺した”というレベル氏の報告 (1992年)もあるし、この駆虫剤を使用すれば、あるパイソンは重度の神経症状を示す可能性があるというメイダー氏の指摘 (1992年)もある。たしかに、筆者自身も、Vaponaにさらされたガータースネーク (Thamnophis属)とウォータースネーク (Nerodia属)が、無気力状態になったのを観察したことがある。しかし、それにより、ヘビが死亡したことはなく、この商品は正しく使用すれば、かなり効果の高い安全な商品だと考えている。
 たいていの哺乳類用ノミ避けパウダーやスプレーは使用しないこと。これらの多くは有機リン殺虫剤であり、爬虫類には有毒である。獣医や爬虫類ブリーダーのなかには、マイクロカプセル・ピレトリン・スプレー (たとえば商品名Sectrol House and Pet Flea Sprayなど)を使用して、ダニ駆除に成功しているものもいるが、これらを使用して、若いボアが死亡したという報告もある。そのため、これらの商品を使う際には、十分気をつけるように。筆者たちはさまざまな種類のヘビにSectrol Sprayを使用して、治療に成功したことがある。その種類とは、パイソン属Python、ガータースネーク属Thamnophis、ウォータースネーク属Nerodia、アーススネーク属Virginia、ワームスネーク属Carphophis、ラインスネーク属Tropidoclonionである。グラハムのクレイフィッシュスネーク (Regina grahamii)の3匹のうち2匹は、この商品をスプレーした後、数日間、重度の神経症状を示した。つまり、これらのヘビは他のヘビと比べて、スプレー内のある成分に対して、より敏感であるという可能性が考えられる。その他の属のヘビは浸透力の強い皮膚を持つことが知られており、これが過敏症と関係しているのかもしれない。スプレーの影響を受けたヘビは2匹とも脱皮中あるいは脱皮前であり、影響を受けなかったヘビはそうではなかった。そして、影響を受けたヘビも、数日中に完全に回復した。
 最近、爬虫類専門の獣医が推薦しているもう一つのスプレーがある。それは自家製で、イベルメクチンと水を混合させたもの、あるいは、トリクロルホンと水を混合させたものである。イベルメクチン・スプレーは水1リットルに対して0.5ミリリットルのIvomecを加える (1992年、エイブラハムズの報告)。トリクロルホン・スプレーは水400ミリリットルに対して8ミリリットルの8%原液 (商品名Trichlorfon Pour On)を加える (1992年、ボイヤーの報告)。
 ボイヤーは、不透明な (脱皮前の)ヘビにはトリクロルホン・スプレーを使用しないようにと忠告している。この時期のヘビの皮膚は浸透性が高くなると思われるので、脱皮前の時期には、殺虫効果のあるスプレーを使用しないほうがいいだろう。獣医ならば、体重1キログラム当たり0.2ミリグラムのイベルメクチン (商品名Ivomec)を注射することもできる。一度注射を打ち、2週間後にもう一度注射するだけで、全てのダニを始末できるだけでなく、多くの内部寄生虫も駆除できるだろう。
 とは言え、どんな方法を使うにせよ、ケージを清潔にすることが最優先である。ケージ内の備品を完全に殺菌することができないなら (たとえば大きな木片など)、それを捨てて別の物にすることだ。外部から持ち込まれた物は全て、 (化学的あるいは物理的な方法で)完全に殺菌しなければならない。それがうまくいかないと、ダニの発生につながることにもなりかねない。
 新しいヘビは、ダニの発生をひきおこす一番の原因である。新しいヘビは全て、1〜3ヶ月間隔離して、この間ダニがいないかどうか定期的にチェックしなければならない。ダニはケージからケージへ急速に拡大するので、こうした処置をすれば、既存のヘビを害虫から守ることができる。
 屋外あるいはヘビの近くで育てられた国内産のマウスといった食物でさえ、ダニやその他の感染性生物が発生する原因となる。このため、寄生虫をコントロールするにあたっては、“清潔”なマウスを購入することも重要な要素となる。もしあなたがヘビに外国産の餌 (たとえば自然で捕獲したトカゲやヘビや鳥や哺乳類など)を与えていたとしたら、寄生虫をコントロールすることはさらに難しくなる。これらの餌を冷凍すれば、ダニが発生する可能性を低くすることはできるが、完全に駆除することはできない。
 
 内部寄生虫
 他の動物と同じように、ヘビにもワームのような寄生虫がいる場合がある。それらは通常、餌を媒介として宿主の体内に入り込む。ある種の寄生虫は、ヘビの皮膚を突き破って体内に侵入する。また、あまり掃除していないケージの汚れと一緒に飲み込まれることもある。また、ヘビは原生動物の寄生虫に感染する場合もある。ほとんどのワームと多くの原生動物は、早期に発見できれば、ちゃんと治療することができる。寄生虫がもたらす被害の種類、その生育タイプ、卵の外見といった点から考えると、ヘビに寄生するワームは基本的に犬や猫と同じ種類であると言える。それは鉤虫、蛔虫、鞭虫、サナダムシである。そのため、これらのワームの多くが、犬や猫に使われるのと同じ薬で駆除できるというのは驚くにはあたらないだろう。たとえば、フェンベンダゾール (商品名Panacur)、イベルメクチン (商品名Ivomec)、プラジカンテル (商品名Droncit)などである。イベルメクチンはいくつかのヘビの鉤虫・蛔虫・鞭虫を殺すことができる。プラジカンテルはサナダムシと吸虫を殺すことができる。フェンベンダゾールはとても効果の高い安全な薬で、鉤虫・蛔虫・鞭虫の他、おそらくは多くのサナダムシを殺すことができる。ボールパイソンによく見られるワームを駆除する際には、イベルメクチンよりもフェンベンダゾールのほうがはるかに効果が高いそうだ (1992年、クリンゲンバーグの報告)。筆者たちは、フェンベンダゾールが小型ヘビの治療に特に役立つことを発見した。小型ヘビにイベルメクチンを使用すると危険な場合があるからだ。また、最近捕獲されたばかりで寄生虫がたくさんいるようなヘビの場合も、イベルメクチンを使用すると危険な場合がある。筆者はまず最初にフェンベンダゾールで治療をおこない、それからイベルメクチンを使用するようにしている。
 ヘビに感染する原生動物の寄生虫で一番よくあるのは、アメーバと球虫である。アメーバはメトロニダゾール (商品名Flagyl)で治療でき、球虫はスルファジメトキシン (商品名AlbonまたはBactrovet)で治療できる。ヘビを治療する前には、顕微鏡で糞を調べて、寄生虫の種類を特定するように努力しなければならないが、新しいヘビを既存のヘビと同じ部屋に入れる前に、定期的な駆虫治療と隔離処置を組み合わせるというのは悪くない考えである。定期的な駆虫治療には、サナダムシがいるかもしれないヘビのために、イベルメクチンとプラジカンテルを使用すべきである。定期的な駆虫治療には、魚や両生類や爬虫類を食べているヘビも含まれる。たとえばブタハナヘビ属Heterodon、インディゴスネーク属Drymarchon、キングスネーク属Lampropeltis、サンゴヘビ属Micrurus、コブラ科Elapidaeなどである。
 定期的な駆虫治療には、フェンベンダゾールだけを使用してもいいだろう。ただし、全てのサナダムシを駆除することはできないかもしれないので、フェンベンダゾールは比較的“清潔な”ヘビあるいは小型ヘビ用に保存しておいたほうがいいかもしれない。もし確実な保証を得たいのなら、糞のサンプルを爬虫類専門の獣医のところに持ちこんで、寄生虫検査をしてもらうといい。どんなワームも (少なくとも種類名は)特定され、原生動物も検出されるかもしれない。獣医はどの薬をどれだけ使うのかアドバイスしてくれるか、もしくは、あなたの代わりに安全かつ適切な治療をしてくれるだろう。たいていの獣医は、ヘビの治療にとりかかる前に、ヘビをよく検査して注意深く体重をはかることを勧めるだろう。ほとんどの場合、これが望ましい治療のあり方である。
 注意点:この文章を書いている時点で、効果的な治療法が存在しないヘビの寄生虫も存在する。つまり、こうした寄生虫からあなたのヘビを守る唯一の方法は、適切な隔離処置をほどこし、管理体制を徹底して、ケージからケージへの感染を防止するしかないということだ。

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