Hebidas ヘビダス  ヘビの病気マニュアル

P131 外傷 (ネズミにかまれた傷、脱走時の傷)

 ヘビが治療のために獣医のところに持ち込まれる際、よくある理由の一つが、怪我である。怪我の大部分は、三つのグループに分けられる。一番よくある第一のグループは、ネズミである。生きたネズミをヘビのケージのなかに入れて、飼い主が目を離した隙におこるものである。第二のグループは、ヘビが脱走した時に見られるもので、すり傷、切り傷、裂き傷、やけどなどである。第三のグループは、故意によるもので、脱走したヘビが、ヘビ嫌いの隣人に見つかった時におこるタイプのものである。これら三種類の怪我は、重症あるいは致命傷になることもある。しかし、その全ては予防可能なのである。
 生きたネズミをヘビのケージのなかに入れたら、どんなに短い間でも決して目を離してはならない。こうした怪我を予防するには、死んだネズミを与えるのが最善の方法である。現在では冷凍ネズミ (マウス、ラット)が広く流通しており、値段も手頃である。頑丈なケージを使用すれば、他の二つのタイプの怪我も予防できるだろう。ネオデシャ・プラスチック社製の爬虫類ケージは、脱走ができないような構造になっている。本体部分は一体型になっており、スライド式前部扉はぴったり閉まるようになっている。とがった角部分もなく、ザラザラした素材も使用していないので、ケージ内で怪我をする可能性は低いだろう。
 もしヘビが怪我をしてしまったら、適切な治療法を決めるために、怪我の程度を見極めなければならない。ほぼ全ての咬み傷や傷口の開いた傷は、ばい菌に感染していると考えてよい。皮膚炎の章で述べたように、Silvadene Cream、Betadine、Polysporinといった局所用軟膏が有効だろう。しかし、時には抗生物質の注射も必要になる場合がある。軟膏は一日に一回患部に塗ること。そして、怪我は完治するのに数ヶ月かかることもある。もちろん、飼育環境や餌の不具合は改善する必要がある。さもなければ、治療が無駄になる。治療中は餌の量を増やすことをお薦めする。治癒を促進し、免疫反応を向上させるからだ。
 押し潰された怪我 (たとえば、ケージの蓋がヘビの上に落下した、ヘビが車に轢かれたなど)の場合、すぐに患部に流体を注射したほうがよい。そうした注射をおこなえば、ダメージを受けた部分の形をすぐに修復することができるだけでなく、血液の循環も向上させるからだ。筆者たちは、重症を負ったヘビがこの方法で治療をおこなって生き延びた例を見たことがある。このような場合、内臓にもダメージを受けている可能性があるので、抗生物質の注射 (あるいは経口投与)も当然おこなったほうがいいだろう。こうした事故で負傷したヘビには、事故後数週間は餌を与えないようにしたほうがよい。また、給餌を再開した時にも、小さな餌を与えるようにしたほうがよい。大きな餌だと、さらに傷を拡大し、治りかけていた傷口を開いてしまうことにもなりかねないからだ。
 骨格や脊髄の損傷もおこりうるし、時には重症になる場合もある。野生においてもペットにおいても、こうした怪我が何も治療しなくても治ってしまったという実例が数多くある。しかし、時には、怪我を修復する必要がある場合もある。たいていの獣医は、どんな治療が必要か (可能か)を判断するために、そうした動物のレントゲン写真を撮る必要があるだろう。この種の怪我の場合、脊髄が損傷していると、その部分から下が麻痺してしまうこともある。このようになってしまったヘビも生き延びて、ある程度回復し、やがては“背骨這い” (体の移動を補助する反射性動作)ができるようになるかもしれない。しかし、こうしたヘビは繁殖には不向きである。
 開いた傷口は、普通、傷口がふさがって治っていく。獣医であれば、開いたばかりの清潔な傷口を縫合して (糸で縫い合わせて)、自然治癒に手を貸すことができるかもしれない。こうした処置は、事故後数時間以内におこなう必要がある。それ以上時間が経ってしまうと、ほとんどの獣医は、傷口が汚染されすぎて塞ぐことができないと考えるだろう。咬み傷の場合はすぐに感染すると考えられるので、ほとんどの獣医はそうした傷を閉じようとはしない。

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