Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P11  防衛行動

 通常ヘビは危険を感知すると、その種に特有の本能的な防衛行動を見せる。この本能的な防衛行動というのは、怯えたヘビが見せる個々の反応を組みあわせた一連の動きのことである。ヘビの防衛反応としてよく見られるのは、突く、咬みつく、歯で切りつける、口を大きく開ける、シューッという音を出す、体をふくらませる、体を平たくする、排便する、排出腔線から嫌な匂いをだす、死んだふりをする、逃げる、舌をチロチロと出す、体の後部を打ちつける、尻尾を震わせる、吐き戻すといった例が挙げられる。言いかえると、怯えたヘビのほとんどはあらゆる努力をして、自分が危険かつ凶暴で不快な生物だということを見せつけようとしているのだ。

 ボールパイソンも他の種と同じような防衛行動を見せることは可能である。我々もここ何年かの間に、驚いたり怯えたりしたボールパイソンが先ほど挙げたような反応をしたのを観察したことがある。時には咬みつくことで自分の身を守ろうとする個体と出会うこともあったが、ボールパイソン種の場合には、こうした一般的な防衛行動ですら珍しいことだと言える。

 ボールパイソンは先天的に非攻撃的なヘビである。危険を感知したボールパイソンが、他のヘビのように攻撃的な、あるいは害のある反応を見せることはまれである。そうではなく、ほとんどのボールパイソンは頭を中心にしてとぐろを巻き、固いボール状になる。この行動をとった場合、ボールパイソンはボールのように丸まっているので、クロケットボールのように芝生の上を転がすこともできるほどである。ボールパイソンという種の名前は、この行動がもとになってつけられたものである。

 飼育環境に慣れたボールパイソンは人間を恐れていないので、なんとなくボール状になったり、あるいは全くボール状にならないこともある。飼育環境で育った個体の多くは自己防衛のためにとぐろを巻くことはないだろう。一方、臆病な個体や野生で捕獲した個体は、一度とぐろを巻いたら、全ての人間が視界から消え去るまでとぐろをほどくことはないだろう。これは時には数時間にも及ぶことがある。我々は、何年も飼育しているにもかかわらず、ほとんどいつもとぐろを巻いているボールパイソンを飼っていたことがある。

 ボールパイソンがとぐろを巻くのは外敵の多い環境で進化した結果だと考えられる。つまり、とぐろを巻くのは、外敵から頭部を保護するための効果的かつ受動的な手段というわけである。ボールパイソンがとぐろを巻くのは、他の脊椎動物(ブタハナヘビ、リンカルス、アメリカ・フクロネズミなど)が死んだふりをするのと同じ自己保存原理にもとづいているように思われる。捕食動物のなかには反応のない獲物を無視するものもいるからだ。バスタードの報告(1969年)によると、とぐろを巻く行為はさまざまな種類のヘビで観察されており、そのなかにはカラバー・ボア、ラバー・ボア、パシフィック・ボア、グリーンパイソン、マッドスネーク、ウルフスネーク、ブライダルスネークなどが含まれている。

 ゴーズラの報告(1998年)によると、ガーナのヘビ狩り人たちはコブラはボールパイソンを食べていると信じているそうだ。ガーナ人によると、ボールパイソンがとぐろを巻くのはコブラに飲み込まれないようにするためらしい。コブラに咬みつかれたら、毒にやられたボールパイソンの体は緊張が解けるはずなので、これが事実だとは思えないのだが、経験豊富な現地人の言うことが正しい場合もあるので、この件に関しては今後さらなる調査が必要だろう。

 ボールパイソンは固くとぐろを巻いている状態でも周囲の様子を知覚しており、脱走する機会を狙っている。我々は、とぐろを巻いたボールパイソンをその場に残して席をはずし、少しして戻ってきたら脱走していたといったことを何度も体験している。おそらく自然界においてはこうした行動が役に立つのだろう。捕食動物の気がそれたら、すぐにとぐろをほどいて近くの安全な場所に逃げ込めるからだ。

 

P11  ボールパイソンの人気度

 現在、ボールパイソンはあらゆるヘビのなかでもまたとない人気を誇っている。毎年、何万という数のボールパイソンが購入され、その数は他のパイソン類の合計数を上回っている。飼育環境にあるボールパイソンの数は多く、世界中の飼い主が簡単に手に入れることができるようになっている。ほとんどのボールパイソンは、野生で捕獲したばかりの個体でも、飼い主にシューッとうなったり、匂いをスプレーしたり、便をひっかけたりしないため、それがもてはやされて、ペットとしてはもっとも人気のあるヘビになっているのだろう。

 ボールパイソンは、ヘビの飼育繁殖が一般的になるずっと以前から、数多く飼育されていた種だった。過去30年の間に、ボールパイソンは爬虫類学界における成功例の一つとなった。現在では、毎年数千個のクラッチが飼育環境下で孵化し、その数は年々増えている。この本のなかで、我々はボールパイソンの並外れた色と模様のバリエーションを最大限の努力とともに紹介していきたい。その比類ないバリエーションは、現在飼育されている他のどんなヘビにも見られないものである。こうした特異な外見をめざして選択繁殖をおこなうこと、そして新たなデザイナー変異体を作り出すこと。爬虫類学においてボールパイソンが重要な価値を秘めているのは、そうしたことが可能だからである。この本を執筆している段階では、ボールパイソンは今までどんなヘビもなしえなかったほど、飼い主とブリーダーの双方の注目を集めている。

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