Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P180  水の入ったボウル

 濡れた場所・湿った場所・水気のある場所は特に気をつける必要がある。そうした場所はさまざまな微生物が繁殖するのに適した条件を持っているからだ。ボールパイソンの飼育室には、注意すべき場所が4つあり、その部分に関しては湿気の状態に十分注意して清掃をしなければならない。その4つの場所とは、流し台、水の入ったボウル、ヘビの糞尿、ゴミ箱である。

 通常、清掃活動の中心となるのは、飼育室のなかの流し台とカウンターである。そこは清潔な空間でなければならない。では、どの程度清潔であればいいのか? それはあなたの家の台所の流し台と同じくらいのレベルだと考えればいいだろう。流し台は見た目もきれいで、いやな臭いがしてはならない。ゴミはなく、どんな廃棄物も残してはならない。流し台の近くにゴミ箱を置いておけば便利だというのは、風水の専門家でなくともわかることだろう。

 ゴミ箱の中身が濡れてしまった時には、ゴミ箱を空にして、掃除して、乾燥しなければならない。我々は蚊の繁殖場所と化したゴミ箱を見たことがある。これは良くない。ゴミ箱はヘビ飼育室のなかでも一番清潔な場所の一つとなるのが望ましい。

 ヘビ飼育室の流し台の清掃方法は、台所の流し台の清掃方法と同じようなものである。普通は、「Ajax」や「409」(注:アメリカで販売されている洗剤の商品名)を使ってこするか、あるいは、石鹸と水でゴシゴシこするだけでも十分だろう。しかし、台所で生の鶏肉を切った後、まな板等を消毒しておいたほうがいいのと同じように、ヘビ飼育室の流し台やカウンターにも、10%の漂白剤やクロルヘキシジンといった消毒薬を使ったほうがいい時がある。

 清潔な飲み水を提供することは、動物を飼育する際の基本原理である。水の入ったボウルは清潔を保たなければならない。とは言え、ほとんどの場合、ボウルはただ洗うだけでよい。人間が水を飲む場合でも、毎回グラスを消毒する人はあまりいないだろう。ヘビ用のボウルも人間のグラスと同じことで、清潔にしておく必要はあるが、必要以上に清潔にする必要はない。清潔かどうかを判断する基準は次のようなものである。あなたがボウルを掃除し、再び水を入れてケージに戻す時、あなた自身がそこから水を飲みたいと思えるかどうかである。

 我々が強くお薦めするのは、使い捨てのボウルである。我々は10年以上、安価なプラスチックのカップをボウルとして使用している。一週間に一度、あるいはヘビが水のなかで糞をした時は適宜、古いカップを捨てて、新しいものに替える。この方式は我々にとって有益な革新となり、ガラス製のボウルを使用していた頃に比べて、時間と労力を大幅に節約できるようになった。それと同時に、ボウルの管理の不備によっておきる問題の発生率を劇的に減らすことにもなった。

 我々が使っている使い捨てのボウルは、食料品店で使用しているプラスチック製のカップで、レストランの備品を扱う業者から大量にまとめ買いしている。また、地元の食料雑貨店の食堂コーナーでも、カップを小口購入することができた。小型のボールパイソンの場合には240ccのカップを、成体の場合には480ccのカップを使用している。どちらのサイズも白もしくは透明の薄いプラスチックで、ふちの部分は丸くなっている。

 ボールパイソン飼育者の多くは、同じボウルを使い続けている。たいていは底が平らで、240cc〜600ccの水が入るガラス製か陶器製のものである。こうしたボウルの扱い方を誤ると、複数のヘビの間に病気が蔓延する原因となる場合がある。一般的に微生物は湿気の多い環境で一番よく活動するものであり、飼い主の手が濡れていると、ボウルから別のボウルへと微生物を伝染させてしまう場合があるからである。ケージ内の備品に微生物がついていたら、ヘビを守ることはできない。病気の原因となる微生物が備品を媒介として、ケージからケージへと伝染しないように気をつける必要がある。

 ボウルを掃除する際に一番よくある過ちは、“濡れた親指”だろう。普通、我々はボウルの内側に親指を入れて持ち上げるので、当然親指は濡れることになる。それから、ボウルを空にして、掃除して、再び水を入れてケージのなかに戻す。この時も、親指は水のなかに入っている。その後、親指を消毒することなく、次のケージに移り、濡れたままの親指でヘビに触れ、ボウルを交換するというものである。

 炭酸カルシウムやその他のミネラル成分を多く含んでいる硬水が水道水として使われている地域では、ガラス製や陶器製のボウルを清潔に保つのが難しいかもしれない。ボウルから水分が蒸発すると、溶けていたミネラル成分が沈殿し、ボウルの内側に岩のようなミネラル層を少しずつ作り出し、やがて石鹸を使って洗ってもとれないほどこびりついてしまう。石化したミネラル自体はヘビにとって無害なものだが、ギザギザした層のなかに微生物が入り込み、掃除をしても除去できなくなってしまう。もしあなたが硬水の地域に住んでいるのなら、台所や風呂場のタイルの目に詰まったミネラルや石鹸バリアを分解する作用のある家庭用洗剤を使って、時々ボウルを掃除したほうがいいだろう。無色の酢にボウルを一晩つけておいても、ほとんどのミネラルを分解除去できるだろう。

 飼い主のなかには塩酸を使用する者もいる。塩酸はこびりついた分厚いミネラル層も簡単に溶かしてしまうからだ。塩酸は低濃度の塩化水素酸溶液で、水泳プールの水素指数(pH)を調整するために使われることもある。しかし、これは危険物なので、お薦めはしない。ほとんどの飼育者は、こんな危険な化合物を使う必要はない。塩酸は重度の火傷をひきおこし、衣服を焼き、毒性のガスを放出して、肺に永続的なダメージを与える力を持っており、過度に吸い込むと急性中毒死をひきおこすこともある。我々がこの危険な薬物に言及しているのは、ミネラル層を簡単便利に除去できる方法を探している飼い主が、その方法として塩酸に関する記述を見つけてしまうかもしれないからである。塩酸は簡単に入手でき、ある種の清掃をおこなう時にはとても効果のあるものである。しかし、塩酸を扱う場合には、ゴム手袋をつけて屋外でおこなうことをお薦めする。掃除をする空間はしっかりと換気をおこない、十分気をつけて掃除をおこなうこと。

 我々の経験から言うと、ボウルの清掃の不手際から伝染してしまった微生物のなかで一番多いのは、ボールパイソンの腸にいる微生物群と同じ鞭毛原生動物やアメーバである。普通、こうした生物は他のヘビの糞と接触することにより伝染する。時にはヘビがボウルのなかで糞をして、ボウルの清掃が不十分だったために、他のケージに感染を拡大してしまうケースもある。一般的に言って、こうした生物のほとんどは、全てのボールパイソンの腸の内部でよく見られるものであり、問題をひきおこすことはない。しかしながら、ボウルの清掃の不備により感染してしまう危険な病原体も存在している。

 アメーバ症は重大な腸の病気であり、通常はEntamoeba属のアメーバが原因である。このアメーバはボールパイソンを含む多くの種類のヘビの腸で繁殖している。この病気は嚢胞を媒介として感染する。嚢胞とは、ある種のアメーバがカプセル状態に変化した一時期のことで、この時に感染したヘビの糞を通じて他のヘビに伝染していく。感染したヘビがボウルのなかで糞をすると、危険なEntamoebaが急速に他のヘビにも伝染し、甚大な被害をもたらすこともある。平和なヘビ飼育室に、見た目は健康そうなボールパイソンが新しくやって来る。しかし、その体内には病原体Entamoebaが潜んでおり、ボウルの清掃ミスや隔離手続きの不備などにより、飼育室のヘビ全体に感染が拡大してしまう。これがアメーバ症の流行の典型的な例である。

 動物園の世界では、ボウルの清掃に関してしばしば語られる一つの逸話がある。それは1960年代後半にフォートワース動物園でおきた出来事である。その当時、爬虫類部門の部長だったジョン・メアテンスが、終業前にテーブルでくつろいでいた従業員たちに近づいていった。メアテンスは手にガラス製のボウルを持っていたが、水の入ったボウルの底には大きな糞が沈んでいた。メアテンスは従業員の鼻先にボウルを突きつけて、こう言った。「私が今朝7:30に来た時には、この糞はすでにあった。今日、君たち全員がこのボウルのそばを何度を通り過ぎた。だが、誰一人としてヘビに清潔な水を与えようとはしなかった。明日もここで働きたいと思うのなら、今すぐこのボウルから水を飲みたまえ」 当時そこの従業員で、後にサンアントニオ動物園の園長となったジョー・ラズロは、当時のことをこう語った。「部屋を出て行った者もいたが、ほとんどはその水を飲んだよ」 誰もアメーバ症にはかからなかったし、その日以来、フォートワース動物園でのボウルの管理は、細部まで気をつかうようになった。

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