Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P163  床材

 床材はヘビのケージに欠かせない要素であり、大きく分けて二種類の床材がある。一つはヘビがケージのなかに糞をした時に全部を交換するタイプのもの。もう一つはヘビが糞をした時に全部を交換するのではなく、汚れた部分だけを取り除いて部分的に清掃するタイプのものである。第一のタイプには、新聞紙・クラフト紙・ペーパータオルのような紙製品などが含まれている。これ以外にも、洗濯・再使用できる床材として、室内用・屋外用のカーペットをサイズに合わせて切断したもの、ふわふわしたテリークロス地のタオル、布おむつなどが使われているのを見たことがある。こうした床材の場合には、汚れたら必ず洗濯をする必要がある。ヘビが赤ん坊の場合には、我々は折りたたんだペーパータオルを何枚か重ねて床材として使っている。ヘビがうんちをしたら、ペーパータオルを丸めて捨て去り、新しいものと交換している。

 一番よく使われている床材は、おそらく新聞紙だろう。新聞紙は安価で、どこでも手に入れることができる。ヘビの飼い主がケージの床材として新聞紙を使っているのは、一風変わったリサイクルだと言えよう。新聞紙は約60年前からケージの床材として使われている。それ以前は(少なくとも、我々よりも年長の飼い主(そういった人は少ないが)から話を聞いたり、当時の爬虫類学に関する数少ない文献を読んだかぎりにおいては)、ヘビのケージの床材として一番よく使われていたのは、砂と砂利だった。けれど、ヘビの飼育にあたっては衛生管理が重要だということが一般に理解されるようになってきて、飼い主たちが吸収力もあって使い捨てのできる床材として新聞紙を使うようになったのだ。

 新聞のインクはヘビにとって有害ではないのかといった飼い主の不安の声を耳にすることがあるが、そうした不安を裏づけるような事実を見たことはない。新聞紙というのは毎日何百万という人間が素手で触るものなので、出版社は毒性のないインクだけを使用している。インクによってボールパイソンの体が汚れるというのは事実だが、そうしたインクの汚れが目立つのは、アルビノや体色の薄い種類だけである。汚れそのものはヘビの体から簡単に落とせるし、脱皮するたびに自然に消えていく。ただし、色のついたインク(特に赤)がヘビの体についた場合は、薄い赤やピンクの汚れとなって、表皮が炎症をおこしているように見えることがあるので注意したい。

 新聞紙・クラフト紙・ペーパータオルを使用するのが一番簡単である。ケージの底面にあわせて切ったり折り曲げたりするだけでよい。糞や尿がすばやく完全に吸収されるように、紙を何枚か重ねて使うのがコツである。新聞紙を使うことの利点の一つは、ほとんどタダだということである。だから、気にせずにどんどん使えばいい。我々の地元のリサイクル業者は、我々が望むだけの紙を喜んで提供してくれる。我々はゴミ箱のなかに飛び込み、紙を選別して、きれいな状態のものだけを取り出し、一度に40キロの新聞紙を持って帰ることもある。

 新聞紙に関して一番よく聞かされる不満は、ヘビが新聞紙の下に潜りこんで姿が見えなくなるというものである。他のペットのヘビと比較した場合、ボールパイソンはそれほど多くないとは言うものの、時には新聞紙の下に潜りこんで休むこともある。ヘビの種類が何であろうと、ヘビがそうした場所を選ぶのには共通した理由があるが、その最大のものは安心感である。ヘビが紙の下に潜りこむのは、紙の上にいると不安を感じるということではない。紙の下にいるほうが、より安心感を得られるというだけである。もしあなたのヘビがこうした行動をとっている場合、ヘビにシェルターを与えることで問題を解決できることもある。こうした状況を改善するもう一つの方法は、ケージの底面に紙を何枚か重ねて敷きつめた後、その上に丸めた紙を何個か置いておくことである。ヘビの多くはこうしたクシャクシャになった紙の下にいるのがとても好きである。ヘビの様子は簡単に観察できるし、ヘビが糞をした場合でも、一番上の新聞紙を交換すればいいだけである。

 ケージの底面に敷いた紙の下に潜りこむもう一つの理由は、そこの微妙な温度・湿度変化を求めているということである。ケージの設置場所にもよるが、紙の下の部分は上に比べて温度が温かかったり冷たかったりするが、湿度に関してはほとんど必ず下のほうが上よりも高くなっている。その理由(の一部)は新聞紙が吸湿性を持っているからである。吸湿性とは、周囲の環境から水分や湿度を吸収することである。また、もう一つの理由としては、ヘビ自身の呼吸にも水分が含まれているので、紙の下の狭い空間の湿度を上昇させることになるからである。ボールパイソンのなかには、脱皮をする時に、少しでも湿度を高めて脱皮をしやすくするために、紙の下に潜りこむものもいる。

 ボールパイソンのケージで広く使われている第二のタイプの床材は、粒子状の床材である。これにはさまざまな素材があって、木の切り屑、樹皮、つぶしたトウモロコシの穂軸、砂、鉢植え用土、玉砂利などがある。我々はボールパイソンの飼育にあたって、これら全てを使用した経験がある。

 こうした素材のなかで、特に気に入ったのはポプラの床材である。ポプラの床材はポプラの木の切り屑から作られた100%天然素材であり、木毛(壊れ物を梱包する時に使うポプラの木屑)を作る時にできる副産物である。ポプラの床材を使用する際には、ケージの底に床材を深さ5〜10cmにして敷きつめると一番いい状態になる。飼い主からポプラは使いにくいという不満を聞かされることがあるが、その理由はほとんど必ず、床材の層が薄すぎるからである。ボールパイソンがポプラに潜ったり穴を掘ったりする姿はほとんど見たことがない。その代わり、ボールパイソンはポプラの上で十分満足して、尻尾をひきずったり体が沈んだりする感覚を楽しんでいる。周囲の温度が低くなると、ケージの温かい部分(下から温められた場所か、熱源ランプの下の場所)のポプラのなかに隠れ箱を設置するようにしている。無論、隠れ箱のなかが熱くなりすぎないように注意して、定期的に温度をチェックしている。

 我々はあらかじめスケジュールを決めてポプラの床材を丹念に掃除しているわけではない。そうしたことは必要ないと思っており、どちらかと言うとできるだけ手を加えずにそのままにしておくほうがいいと考えている。ケージは毎日チェックして、その状態と臭いに特に気をつける。もし清潔な香りがしたら、何もしない。もし大きな糞あるいは食べ残した餌の匂いがしたら、その匂いの元を取り除く。2〜3ヶ月に一度、全ての床材を交換する。これがボールパイソンの効果的な飼育法である。ボールパイソンは清潔なヘビなので、こうしたのんきな飼育スケジュールでも十分である。

 ヘビが餌を食べている時に間違ってポプラを飲み込んでしまうのではないかという飼い主の不安もよく耳にする。我々は1977年からポプラを使用しており、その間にヘビがポプラを食べるのを見たこともある。しかし、たとえ口いっぱいにほおばったとしても、ポプラを食べてしまった結果、重度の問題をひきおこした例は見たことがない。ポプラそれ自体は無害なものである。たとえば、ポプラのおが屑は、安い缶入りペットフードのなかで“不活性成分”として使用されている。我々は何の不安もなくポプラの床材の上でヘビに餌を与えている。

 しかしながら、ある種の行動をとるヘビの場合には、ポプラの床材の上で飼ってはいけないこともわかっている。絶え間なく動き回り、ケージの縁を探ろうとして何度も床材のなかに顔を押しつけているようなヘビは、口のなかに床材を詰めこんでしまう可能性がある。こうした行動はアミメ・パイソンやビルマ・パイソンといった種には、よく見られるものである。この種のヘビをポプラの床材の上で数日間飼っていると、口のまわりが床材だらけになってしまう。こうした行動はボールパイソンにはあまり見られないとは言え、もちろん個体差はある。ポプラの床材を使うかどうかの最終的な決断は飼い主に任せるが、ポプラの床材や粒子状の床材は、ある種のボールパイソンにとっては適さない場合がある。

 ポプラの床材のなかには、白っぽい小さな虫やクモがついている場合がある。こうした虫のついた床材を使用した場合、ケージ内のヘビの体の上に、虫が這っているのを見ることができる。これらの虫の正体については正確にはわからないが、多くの場合、“木材シラミ”とか“ポプラダニ”と呼ばれている。その正体が何であれ、これが古いベニヤ板(未開封)についているのを見たこともある。この虫はヘビにつくダニとよく似ているが、ダニのようにヘビに寄生しているわけではない。しかし、体の上を絶えず動き回っているので、ヘビにとってはうっとうしい存在だろう。すると、ヘビはその悩みから逃れようとして、水の入ったボウルに入ることになる。ダニの退治法(別章で解説している)のほとんどが、この“木材シラミ”を退治する際にも有効である。我々はジクロルボス、カーバリル、ホウ酸(ダニ退治の章を参照)を使って、これらの害虫を駆除することに成功した。

 もしポプラの床材にこうした害虫がついているのを見つけたら、一番いいのは床材を購入する販売店を変えることだ。保管状態のいいポプラなら、何かに汚染されていることもなく、害虫がついていることもない。我々の経験から言うと、汚染された床材を売っていた販売店のほとんどは、ポプラを大きな袋に入れて材木置き場で保管していた店だった。

 注意点その1:ヘビのケージのなかでシーダー杉の切り屑を使わないこと。と言うより、木の種類にかかわらず、強い匂いのする切り屑を使ってはならない。「白松の切り屑」と表示された商品のなかには、ボールパイソンのケージでも安全に使用できる微香性のものがあるが、なかには針葉樹のきつい匂いがして、安全ではない商品もあるので気をつけたい。

 注意点その2:糸杉の藁(マルチ)やランの皮は床材として使われていたが、現在ではボールパイソンの健康を損なうカビを発生させる可能性があるとして敬遠されている。もちろん、全てのカビや菌類が危険なわけではない。しかし、ある種のカビはヘビの健康に有害な影響を及ぼすことが報告されている。

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