Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P171  考慮すべき事柄

 ヘビが餌を消化する際には、熱が発生する。このことに気づいていない飼い主も多いのだが、狭い空間のなかで大きめの餌を消化しているボールパイソンの体温は、周囲の温度に比べて少なくとも1〜2℃上昇する可能性がある。胃のなかに餌が残っている数匹の大型のボールパイソンを輸送用の断熱箱に入れたところ、そのヘビから発生した熱で箱のなかの温度が上昇してしまい、箱を開けた時にはヘビたちがぐったりしていたことが実際にあった。

 我々は幼体や亜成体のヘビを飼育する際には、温度を適度に保って日光浴用の場所を作らないことにしているのだが、これは消化活動によって熱が発生するという事実をうまく利用しているからである。我々は成長期にあるヘビを小型のケージに入れているが、彼らが餌を食べると、ヘビ自身から発生した熱でケージの温度が温かくなる。もし同じヘビを大型のケージで飼育していたとしたら、温かい日光浴用の場所か小さな隠れ箱が必要になってくるだろう。小さな隠れ箱のなかで餌を消化中のボールパイソンは、トーストと同じくらい温かくなる。また、餌を食べた後のボールパイソンは、紙の床材の下にもぐりこんで、小さな温かいテントを作ることもある。

 お腹が空っぽで何も食べていない時のほうが、ヘビは高温や低温の環境に対して耐えられる。我々は冬の嵐が来ている間はヘビに餌を与えないようにしている。もし停電になってヘビ飼育室の温度が下がったら、餌を消化中のヘビよりも空腹のヘビのほうがはるかに耐久力がある。同じことは夏にもあてはまる。猛暑の日が続いた時には、ヘビに餌を与えないほうがよい。電力供給が一時停止して、数時間ほどケージの温度をコントロールできなくなってしまう可能性があるからだ。ボールパイソンは食べ物がなくても健康を害することなく長期間生きられる動物である。だから、停電のようなやむを得ない状況になった時には、その能力を最大限に生かすようにするとよい。(厳寒期や猛暑期において)下手に給餌スケジュールに従ったりすると、かえってヘビの健康を害する恐れがある。

 時として、ボールパイソンの体温維持の欲求と安心感の欲求が葛藤をおこすことがある。こういう場合、ヘビはほとんど必ず体温維持よりも安心感のほうを優先させる。通常、隠れ箱はケージの冷たい部分に置かれるが、臆病な性格のヘビは安全な隠れ箱から出ようとせず、日光浴をしないことがある。これはガラス製のケージや水槽を使用している際に特に問題となる。そうしたケージでは、ヘビが外敵から身を守れないように感じてしまうからだ。別項でも述べたが、ヘビが日光浴をしているかどうかをちゃんと確かめること。こうした場合の問題の対処法は、ヘビの安心感が増すようにケージを覆うか、隠れ箱を追加して、温かい場所でも冷たい場所でも休めるようにすることである。

 ヘビが体温調節できるような飼育環境を作る際に、やってはならないもう一つの落とし穴は、温められた空気に関する問題である。ほとんど全てとまでは言わないが、多くのケージは日光浴用の場所で発生した熱を内部に保持するような作りになっている。日光浴用の場所で温められた空気は上昇し、ケージの上層部に滞留してしまう。通風孔はケージの側面下部にあるので、滞留した空気がケージの外に排出されることはない。ケージによっては、通風孔の場所にかかわらず、その作りが十分ではないため、温められた暖気が上昇して分散できないようになっている。だから、ケージの冷たい部分の床(及び床のすぐ上の薄い空気層)は冷たいが、その境界線から上の空気は温かく、時には温かすぎることもある。日光浴用の場所の大きさとその温度にもよるが、そこが温められていると、飼育ケージ内の空気はかなり温かくなっていることが多い。

 こうした状況は良くない。なぜなら、温かい空気を呼吸すると、ボールパイソンの核体温が急激に上昇することがあるからだ。思い出してほしい、ヘビはとても長い気管を持っており、それはおかしなほど細長い右肺へとつながり、右肺の末端部分は体の前に戻って脾臓と胆嚢がある部分につながっている。ヘビの体がこうした作りになっているのには、ちゃんとした理由があるのだ。

 ヘビには横隔膜がない。ヘビは肺を圧迫することで息を吐き出し、筋肉の緊張を解くことで息を吸っている。肺の後半三分の二は目薬容器のバルブのような役割を果たしており、肺の前半三分の一にある呼吸細胞から空気を排出した後、気管を通して新鮮な空気を体内に取り込んでいる。つまり、一見頑丈そうに見えるボールパイソンだが、実際には全体の四分の三に空気が詰まった空洞体だということになる。そして、その中心部にある空気は常に出たり入ったりを繰り返しているのだ。

 ケージ内の温かい空気はボールパイソンを温め、体温を低下させることができなくなってしまう。こうした場合、次のような問題をひきおこすことになる。飼い主が日光浴用の場所を必要以上に温めてしまったとする。そして、ボールパイソンが常にケージの冷たい場所にいて、一度も温かい場所にいないことに気づいた飼い主は、ヘビに日光浴をさせようとして、日光浴用の場所の温度を下げるべきところを、冷たい場所の温度をさらに下げてしまった。こうなると、ヘビは冷たすぎる床の上で温かい空気を呼吸することになり、いずれ健康を害してしまう可能性もある。

 もちろん、ボールパイソンを温かい環境で飼育すること自体が、必ずひどい事態を招くというわけではない。しかし、実際のボールパイソンの体温は、飼い主が思っているよりも高いことが多く、時には繁殖に悪影響を与えることもある。これはよくあるミスであり、我々も数年前にやってしまったことがある。その頃のヘビ飼育室の室温は現在よりも数度高く、29℃だった。そこにケージ内の温められた空気や消化活動による体内熱などが加わると、ボールパイソンの実際の体温は、ケージの一番冷たい部分にいる時でも30〜31℃になってしまう可能性がある。

 ヘビの飼育温度を毎年下げていると言っても、今現在の飼育温度が以前と比べてはるかに低いという意味ではない。我々が言っているのは、もっと微妙な差違のことである。我々は昔、「ヘビは普段は体を温めたくて、時々は体を冷やしたいと考えている」と思っていた。今は、「ヘビは普段は体を冷やしたくて、時々は温めたいと考えている」という前提のもとで飼育をしている。ヘビ飼育室の室温を数度下げたり、ケージの換気性を向上させることで、ボールパイソンがその気になれば平均体温を低くできるような形で飼育を続けている。我々の観察では、ボールパイソンはこうした低い温度のほうが健康的である。

 補助熱に関係したもう一つのミスは、ケージの積み重ねである。これはうっかりやってしまいがちで、見逃してしまう場合も多い。ケージを積み重ねて置いた場合、下のケージの温められた空気が上のケージも温めてしまい、三段目(最上段)にあるケージは一段目と二段目のケージから分散した熱により、さらに温められることになる。その結果、最上段のヘビは最下段のヘビよりもかなり温まってしまうことになる。もちろん、飼い主がこのことをちゃんと認識しているかぎり、これ自体は悪いことではない。

 また、ヘビ飼育室の明かりも温度に影響を与えることがある。我々がヘビ飼育室に使用している蛍光灯の列は、数時間でヘビ飼育室の室温を2.7〜3.9℃ほども上昇させることがある。このことに気づいていれば、その点を考慮に入れて温度維持に利用することもできるが、このことに気づいていないと、ヘビにとって問題をひきおこす場合もある。

 

P173  過熱の危険性

 この本の別の項でも述べたが、ここでもう一度繰り返しておこう。あなたがボールパイソンのために日光浴用の温かい場所を作ったとしたら、それがどんな種類のもの(ヒートロック、ヒートパッド、床暖房)であれ、その場所が温かくなりすぎないように気をつけること。それを手に持つか、1分間手を押しつけて、熱いのではなく、かすかに温かいと感じる程度でなければならない。もっといいのは、普通の温度計や(非接触型)赤外線温度計などを使って温度をはかることである。それも、一度ではなく、何度もはかること。熱源はよく間違いがおきて、過熱状態になりやすい。ボールパイソンのいる床の温度を32℃以上に上げる必要はなく、床温度が38℃以上の場合、重大な(時に致命的な)火傷をひきおこす可能性がある。

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