Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P191  生き餌

 ボールパイソンに餌を与える場合の方法は、基本的に三種類ある。生きたネズミをケージのなかに入れる、死んだネズミをヘビに与える、死んだネズミをケージの床面に置いておき、ヘビが好きな時に食べられるようにしておく、の三つである。これら三つの方法には、大きな違いがある。

 生きたネズミがヘビを襲うという話は、たいていの飼い主が耳にしたことがあるだろう。我々自身は、イエネズミがヘビを危険な存在だと見なして、身を守るためにヘビに襲いかかったのを一度も見たことがない。だから、もしそういうことが実際におきたのなら、それはとても珍しい出来事だと思う。実際のところ、事実はまったく逆である。そもそもネズミはヘビがどういうものであるかを理解できていないらしい。ネズミがヘビの背中を行ったり来たりしたり、その上で座っている姿のほうがよく見かけるだろう。とは言え、生きたネズミがペットのヘビに対して不必要な危険を与える場合もある。

 「ネズミの攻撃」と呼ばれる事件は、次のようにしておきる。生きたネズミがヘビのケージのなかに入れられる。しかし、いかなる理由によるものか、30分を過ぎてもヘビはネズミを食べようとしない。ただ単にヘビは空腹ではないのかもしれない。たいていのヘビのケージの内部には、ネズミが食べられるようなものは一つしかない。それはヘビである。小型の温血哺乳類であるネズミは新陳代謝がとても速いので、すぐにお腹が空いてくる。数時間もすれば、ネズミはお腹がペコペコになる。すると、ネズミはヘビの体をガリガリと齧りはじめる。ネズミに齧られたヘビは、戦ったり身を守ったりせずに、逃げる。これが自然界ならば、ヘビはその場から完全に去ってしまうだろう。しかし、ケージのなかでは、ヘビに逃げ場はない。しばらく逃げ回った後、ヘビは頭を守るようにして体を丸めてとぐろを巻く。ヘビがじっと動かないのをいいことに、ネズミはヘビの肉をむさぼり食う。しばらくして戻ってきた飼い主は、事件を目の当たりにして恐怖におののくことになる。ヘビの被害はかすり傷から致命的な重傷まで、程度はさまざまである。

 この話から得られる教訓は、ボールパイソンに生きたネズミを与える時には、必ずネズミと一緒にネズミ用の餌もケージに入れておくように、ということである。さらに、ヘビとネズミの様子をよく観察すること。少なくとも、30分後にチェックするように。30分たってもネズミが食べられていないようなら、多分ヘビはその後も食べないだろうから、ネズミを取り出しておくこと。ネズミがケージ内にいる時に、あなたが用事で席をはずしたり他の事に気をとられたりしても、ケージのなかに何か適当な食べ物があれば、少なくともネズミはその餌を食べて空腹感を満たすことができるだろう。他に餌があるにもかかわらず、ネズミがヘビを襲ったという例は今まで聞いたことがない。

 我々はこんな恐ろしい話を聞いたことがある。ヘビが生きたネズミを絞めつけたところ、ネズミが苦しまぎれにヘビの目に噛みついてえぐり出したとか、ヘビの顎や舌鞘を食い破ったとかいうものである。たしかにヘビが噛まれることはあるが、それは稀な出来事であり、実際に怪我をするのはさらに稀である。ボールパイソンがネズミに対して正確な攻撃をして、しっかりと巻きつくと、非常に強く絞めつけるので、ネズミは口を閉じることもできないほどである。

 普通、絞めつけによる死はとても早いものである。ヘビに関する多くの本に書かれていることとは違い、ヘビはネズミの胸部の周囲に猛烈な力を加えることで、ネズミの心臓を停止させる(あるいは、少なくとも十分な血流が流れないようにする)。血流が止まることにより、ネズミは数秒で意識を失う。我々が観察したところ、ヘビがネズミを窒息死させるのは、むしろ稀なことではないかと思う。

 ネズミに噛まれたことのあるヘビは、何ヶ月も餌を食べなくなる場合がある。ヘビに死んだネズミを与えていれば、こうした問題もあらかじめ避けることができる。もしあなたのヘビがこういう状態になったら、じっと我慢して、ヘビがその気になるのをひたすら待つことをお薦めする。やがて、空腹をおぼえたヘビは再び餌を食べるようになるだろう。もう一つの方法は、別の種類の餌(普通はヒヨコか小鳥)を与えてみることである。この方法の欠点は、ヘビが空腹を満たしてしまうので、さらにネズミに見向きもしなくなってしまう可能性があることである。

 ずっと餌を食べていなかったヘビに生きたネズミを与えると、ヘビの食欲を刺激することがあるというのは事実である。しかし、LOHNS症候群(※「P187 餌やりの歴史」参照)にかかっているヘビに生きたネズミを与えるのは、良いことではない。もしヘビがすぐにネズミを食べずに、ネズミがヘビの体の上を歩き回るようなことになったら、ヘビのストレスが増加して、LOHNS症候群が悪化してしまう場合があるからだ。

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