Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P24  味覚

 味覚と嗅覚はともに化学物質を受容する感覚として密接な関係にあり、その二つを区別することは難しい。しかし、ヘビが持っている感覚受容体のなかでも、(味を感知する)味蕾は一番未発達な器官であり、ほとんどのヘビにおいて、味覚は大幅に減退あるいは全く失われているというのが定説となっている。ボールパイソンは特にくわしく研究されたが、今のところ、どんな種類のヘビの舌にも、味蕾は発見されていない。アトベ氏はマムシ(Gloydius brevicaudus)の口蓋にある鋤鼻器官の入り口近くに、味蕾が集まっているのを発見したと発表したが、ゴリス氏はボールパイソンを調べたが、味蕾は発見できなかったと発表している。

 

P25  聴覚

 ヘビは耳が聞こえないというのは嘘である。「ヘビは耳が聞こえない」という誤解は、何十年にもわたって定説とされてきた。ヘビの外見的な特徴の一つは、体の外側に耳の穴がないということである。こうした特徴のせいで、「ヘビは耳が聞こえない」と表現されることが多かった。聖書(詩篇第58章4節)においても、「彼らは耳の聞こえないコブラのように耳をふさいだ」と書かれている。

 行動反応を観察することで、史上初のヘビの聴覚実験をおこなったのは、マニングである(1923年)。マニングはガラガラヘビを被験体として選んだが、それはガラガラヘビが音に反応して尻尾を振るのではないかと期待したからだった。実験の結果、中程度の強さの低周波音に対してヘビが反応することもあったのだが、マニングは「ヘビは聴覚を持っておらず、体の下にある床の振動に反応しているらしい」と結論づけた。

 1978年、ウィーヴァーは、「動物が音に反応しないといっても、その動物が聴覚を持っていないという証拠にはならない」と指摘した。我々の観察も、この指摘と合致するものである。我々は自然及び飼育環境におけるヘビの行動を観察してきたが、その結果、我々はヘビには聴覚があると以前から確信している。しかし、ほとんどのヘビは防衛手段として迷彩・偽装(カモフラージュ)に完全にたよりきっているので、驚いた時でも身動きすることはめったにないのだ。ほとんどの場合、ヘビは突然何かの音がしても、表面的には何の反応も見られない。これは、もし動いたら、カモフラージュの防衛効果が無くなってしまうからである。

 実際、生理学的な研究により、ヘビは空気振動を感知することがわかっている。ヘビは内耳だけでなく、体の表面を使って、空気中の振動や地表面の振動を感じとることができる。これを身体聴覚と呼んでいる。この内耳聴覚と身体聴覚を統御する中心聴覚路については、まだわかっていない。実験によると、ヘビは空気振動・地表面振動の双方に対して、体を動かして反応することもわかっている。ヘビはある特定の音を解釈して理解し、それに応じた攻撃/防衛行動をとることができる。この事実は、これまで考えられていたよりも、聴覚刺激がヘビの行動において大きな役割を果たしているのではないかということを示唆している。

 ヘビ(ボールパイソンを含む)は、頭の両側に発達した内耳を持っている。それぞれの内耳は耳小柱によって方形骨とつながっている。耳小柱とはヘビの耳にある単一の骨で、もろくて細長い棒状で、中央部分には“あぶみ骨底”と呼ばれる平らな円盤がついた形をしている。方形骨は顎の角度を形成している頭蓋骨の後部にある骨で、頭蓋骨の下顎部とつながっている。ほとんどのヘビにおいて、方形骨は柔軟な関節によって頭蓋骨と下顎部とつながっている。この柔軟な接合部のおかげで、ヘビは大きく口を開けて、大型の獲物を飲み込むことができる仕組みになっている。

 方形骨は全体的に幾分平らな形をしている。下の部分は頭部に沿う形で横方向に伸び、下顎の関節部分を作っている。方形骨はねじれているので、軟骨頭蓋とつながっている上の部分は、頭部の表層部分とほぼ平行になっている。このため、方形骨は側頭部の皮膚に伝わる振動を部分的に感知することができるようになっている。方形骨が振動を感知する部分は、耳のある爬虫類において耳の穴があるはずの場所と、ほぼ一致している。

 ヘビは空気振動を側頭部の皮膚で感知していると考えられている。こうした振動は皮膚の下の方形骨に伝わり、方形骨は耳小柱につながっている。すると、今度は耳小柱が振動して、内耳の入口部分を覆う位置にあるあぶみ骨底が振動を内耳へと伝える。そして、内耳のなかで、振動は神経パルスへと変換され、その情報は脳へと伝達される。言い換えると、ボールパイソンの耳は基本的に人間の耳と同じ仕組みで働いている。一つだけ違うのは、顎の部分にある皮膚が鼓膜の役割を果たしているという点である。

 ウィーヴァーの報告(1978年)によると、彼が実験に用いたゴーファースネークは、平均的な音量の40〜2000ヘルツの周波数の音を聞くことができ、低い周波数ほどよく聞きとれたという。ボールパイソンの耳の構造もゴーファースネークと非常に似通っているので、ボールパイソンの聴力もほぼ同程度だと推測することができる。人間の声の周波数は80〜3000ヘルツの範囲内にあり、ほとんどの声は500〜1000ヘルツの範囲内にある。すなわち、ボールパイソンに関してよく聞かれる質問の答えは、次のようになる。「ええ、あなたが話しかけると、ヘビはちゃんと聞こえますよ」

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