Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P27  視覚

 シルマンはボールパイソンの目の構造や視覚色素を研究して、ボールパイソンの目の網膜は暗い場所において高い精度と感度を誇っているが、明るい場所においても複数の方法で順応していると結論づけた。彼らの観察によると、目の網膜の約90%は密集した杆状体(ロッド)でできていて、残りの10%は二種類の錐状体(コーン)でできている。そして、錐状体は杆状体に混じって全体に散らばっている。シルマンは、暗い場所においてもボールパイソンが物体(特に獲物のような動く物体)のほうに目を向けられるのは、密集した杆状体のおかげではないかと結論づけている。

 シルマンによると、ボールパイソンは優れた視力を持っている。ボールパイソンの網膜には、1平方ミリあたり457000個の杆状体があり、これは他の夜行性の動物とほぼ同じ密度である。たとえば、イエネコは1平方ミリあたり275000〜460000個であり、フクロウザルは216000〜478000個である。

 ボールパイソンが楕円形の瞳孔を持っていること自体が、ボールパイソンの目がいかに光に敏感であるかということの重要な証拠である。ボールパイソンはまぶたが無いため、虹彩がシャッターの役割を果たしており、敏感な網膜を守るのに欠かせない存在となっている。虹彩が変形して瞳孔を楕円形に変形できることの長所は、超極細のスリットを作り出せる点である。瞳孔が丸い場合、同じように閉じるのは物理的に不可能である。ある血統のヘビ(ボールパイソンを含む)は、感度の高い網膜に適応するために楕円形の瞳孔を進化させてきた。もし丸い瞳孔を持っていたら、太陽のもとでは失明していただろう。

 ボールパイソンの目の網膜にある二種類の錐状体は、1平方ミリあたり45000個の密度を持っている。これはフクロウザル(78000個)よりは少ないが、アメリカ・フクロネズミ(8000個)やイエネコ(27000個)よりははるかに多い。この数字は、ボールパイソンは明るい場所でも優れた視力を持っていることを示している。杆状体や錐状体のなかにある視覚色素は、特定の波長に対する感度と対応しており、このことから、ボールパイソンは色の識別ができるのではないかという可能性も考えられる。

 さらにおもしろいことに、二種類のうち片方の錐状体のなかにある視覚色素は、紫外線に対してとても感度が高いことがわかっており、ボールパイソンは人間の目には見えないものを見ていることになる。シルマンは、ボールパイソンの網膜には杆状体が多くて錐状体が少ないことから、紫外線を感知する錐状体は全体的な視覚にはあまり影響を与えていないが、環境のなかで異常な紫外線活動があった場合に、警告を与えている可能性もあると指摘している。唇鱗ピットの赤外線視力も考慮に入れると、ボールパイソンはまさに人間の視覚能力をはるかに超えた幅広い視覚でものを見ていることになる。

 ある種の動物(ヘビやトカゲを含む)は、紫外線を使って匂いの痕跡を残すことが知られている。ある種の化学物質は、紫外線の光を吸収したり反射したりする作用を持っている。シルマンは、ガータースネークがボールパイソンと同じ視覚色素と紫外線感知能力を持っていることを立証した。ガータースネークは他のガータースネークが残したフェロモンの痕跡を視覚映像として認識できるのではないかと、シルマンは推測している。さらに、ボールパイソンの獲物も紫外線で識別可能な痕跡を残しているのではないかという可能性も挙げている。錐状体は明るい場所でのみ機能することができるので、このことから考えると、ボールパイソンは昼間は動き回って獲物が残した匂いの痕跡を“見て”、夜になってから獲物を待ち伏せて襲うことができるのではないかと考えられる。

 飼育環境にあるアミメパイソンを研究したデ・コック・バニングによると、獲物に対する攻撃を誘発するのは、目から入力された視覚刺激だが、獲物への攻撃をコントロールするのは、唇鱗ピットから伝わってきた赤外線刺激だという。アミメパイソンの場合と同様に、ボールパイソンにおいても、獲物の存在に気づいて狙いを定め、接近して攻撃を命中させるという一連の行動には、間違いなく視覚と温度知覚が密接に結びついて関係している。しかし、目と唇鱗ピットからの情報が統合されているという現在の知識を考えると、その両者をわざわざ区別する必要もないと思われる。ボールパイソンはきわめて優れた視力を持った生物である。

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