Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P40  脱皮の条件

 ボールパイソンはもともとアフリカの一地域に棲んでいるヘビで、その地域は一年のほとんどが高温多湿であり、時には何ヶ月も雨が降らないこともある。いろいろな文献を読んで得た知識から判断するかぎり、そもそもこうした地域の多くには、池や湖がほとんど存在していない。そのため、乾季においては、ボールパイソンの多くは水を飲んで楽しむこともできないだろう。それでも、こうした地域の大部分において、乾季の時でも湿度は高いままである。ボールパイソンが棲息している生態学的地域の湿度状況に関する文献は数少ないが、それら全てにおいて、相対湿度は80%以上だと記録されている。

 そこで、ペットのボールパイソンが楽に脱皮をするためには、高い湿度の条件が必要なのではないかという推定が導き出される。しかし、実際には、我々が観察してきた事実はそれとは異なるものである。この件に関して、いくつかの重要ポイントを説明してみたい。

 まず、第一の重要ポイントは、多くの飼い主がケージの状態を知ろうとして湿度をはかっているが、それらは不正確であり、誤解を招きやすいということである。湿度をはかるために使われる安い商品のほとんどは、大ざっぱな数値を出すのが関の山である。仮に正確な数値が得られたとしても、ほとんどの飼い主は、ケージ内の場所が異なれば湿度も異なるといった事情を考えていない。

 たとえば、乾いた新聞紙は、周囲の空気から水分を吸収する好湿性(吸湿性)の物質である。ケージの底に新聞紙を敷くと、水蒸気を吸収して重くなる。よくあることだが、ヘビが新聞紙の下に潜ると、紙の上よりも下のほうがかなり湿度が高くなる。ヘビが隠れ箱のなかにいる時は、ヘビの呼吸による水分放出のため、隠れ箱の外よりも中のほうが湿度が高くなる。ポプラの床材(非常に吸湿性のある素材)を使用している場合には、しばらく前にポプラを敷いたケージよりも、新しくポプラを敷いたばかりのケージのほうが、湿度が低くなる。天井の低いケージは、天井の高いケージに比べて、床面の湿度が高くなる。通気性の悪いケージは、通気性のいいケージよりも湿度が高くなる。

 ヘビのケージにおける湿度の主な発生源は、水の入ったボウルである。ボウルがどの程度の湿度を作り出すのかは、そのボウルに入っている水の表面積による。水の深さは関係ない。水の入ったボウルはそこにあるだけで、常に水分を蒸発させて湿度を高めている。ケージのなかの水分は、ケージの外の乾燥した空気に引き寄せられて、着実にケージの外へ出て行く。ケージの湿度を高める一つの方法は、ボウルの直径を大きくすることである。もう一つの方法は、通気性を減らすことである。そうすれば、外に逃げる水分を減らすことができる。

 湿度を高めるための人為的な工夫であれ、ケージ自体の欠陥であれ、通気性が悪いというのは、一般的に言って望ましいことではない。高温多湿で通気性の悪いケージは、細菌・カビ・菌類の温床となる。ボールパイソンが一番健康に生きていけるのは、中〜高湿度の通気性のよい乾燥したケージである。

 「あなたがたのケージの湿度はどのくらいですか」という質問をよく受ける。実は我々自身もよく知らない。少なくとも正確な数値は知らない。基本的に気にしていないのだ。湿度レベルなんか、どうでもいいというのではない。それどころか、我々はヘビにとって適切なレベルになるように、ケージ内の温度と湿度の状態を常に微調整している。

 それが第二の重要ポイントである。我々は、ヘビが人間の手を借りることなく上手に脱皮したら、理想的な湿度レベルだと考えるようにしている。動物の飼育管理の世界においては、飼育条件が完全に正しいかどうかを明確に示せることは稀である。ボールパイソンの飼い主が努力すべきことは、ヘビが上手に脱皮できる最低湿度の環境を作り出すことである。

 第三の重要ポイントは、ボールパイソンが幸せに生きられる湿度範囲は、かなり幅広いということである。覚えておいたほうがいいのは、ヘビ飼育室の湿度がどうであれ、ケージ内の湿度はそれよりも高い(時にははるかに高い)場合がほとんどだということである。脱皮時における問題は、冬場にヘビ飼育室の温度が高い場合、もしくは、夏場に室内でエアコンを使用している場合におこりやすい。こうした状況においては、ヘビ飼育室の湿度が20%以下に下がる場合があり、あまりにも湿度が低いために、水の入ったボウルから蒸発する水分量よりも、ケージから逃げてしまう水分量のほうが多くなってしまう。

 気温が快適な場合の屋外における標準的な湿度レベルが、ボールパイソンにとってはちょうどいいだろう。アリゾナ州トゥーソンの屋外では乾燥していて、ボールパイソンがうまく脱皮できないかもしれないが、ソノラ砂漠(アリゾナ州南部からメキシコ北部にかけて広がる砂漠)に住むほとんどの人が使っている水冷式のクーラーがあれば、屋内の空気の湿度を大幅に高めることができる。実際には、改造した水槽であれ、ヘビ専用のケージであれ、たいていのケージは、飼い主がわざわざ変更を加えなくても、ボールパイソンにとってほぼ完璧なレベルの湿度を保てるような作りになっている。

 

湿度

 ボールパイソンや他のヘビを飼育する際の湿度の重要性を軽視するつもりはない。湿度と脱皮の間には明らかな相関関係があり、湿度が低いと脱皮問題をひきおこしやすい。脱皮に問題があるかどうかの目安は、皮が残っているかどうかだが、特にひどい結果になることはない。問題を改善する方法は、ケージの湿度を上げることである。これは、以下のような方法で、簡単におこなうことができる。水の入ったボウルの直径を大きくする。毎日、床材の上にわざと少量の水をまく。日光浴用の場所を、ヒートランプではなく、床用ヒーターに替える。通風孔をケージの上部から側面に変更する。ヘビを小さなケージに移す。隠れ箱を置く。その他、ちょっとした工夫で、違いを作り出すことができる。

 ボールパイソンは湿度の高いほうが元気に生きられるというのは間違いない事実である。フロリダ州やルイジアナ州に住んでいる飼い主は、ボールパイソンを網戸タイプのケージに入れて、ヘビ飼育室の窓を開けっ放しにしていても、脱皮に関する問題をおこすことはない。それよりも乾燥した地域に住んでいる飼い主は、水の入ったボウルから蒸発する水分をなかに閉じこめておけるようなケージを使用しなければならない。

 しかし、ボールパイソンの飼育にとって、高い湿度は必要不可欠のものではない。もっと大切なのは、ボールパイソンは長時間湿った状態に耐える必要はないということである。ボールパイソンは通気性が悪いと、いずれは健康障害をひきおこしてしまう。高湿度で通気性の悪い状態でボールパイソンを飼育するのは、わざわざ病気を招き寄せているようなものである。爬虫類学者の名言に『(湿った環境よりは)乾燥した環境で間違ったほうがよい』というのがあるが、この件に関しては正にその通りである。

 必要以上に湿度が高い状態も、ボールパイソンの脱皮に悪影響を与えるということを理解していない飼い主が多い。我々は複数のパイソン種において、こうしたケースを実際に見てきた。そのなかには、若いボールパイソンも含まれていたが、老いたボールパイソンはいなかった。若いボールパイソンが湿気の多すぎる環境に長時間いると、表皮のなかのケラチン層と脂質層によって作られる防水膜が破壊されてしまう。

 この問題の最初の徴候は、ヘビの体に皺ができ始めることである。実際には、これは“プルーン”と呼ばれるもので、人間が指を長時間水につけておくと、指先がプルーン(干しスモモ)のようにシワシワになるのと同じ原理である。問題は、皮膚がプルーン化したボールパイソンの幼体は、乾燥しすぎたために皺ができたように見えることである。そのため、経験の浅い飼い主は判断を誤って、ヘビの飼育環境の湿度を上げてしまう。こうして、さらに湿度が増えてしまうと、水疱や皮膚感染をひきおこし、脱皮する時に、古い皮がその下にある新しい皮膚と分離するのに悪影響を与えてしまう。成体のボールパイソンの場合でも、話の流れはほとんど同じだと思われる。しかし、我々自身はまだこの目で見たことはない。こうした場合、若いボールパイソンは結果として皮膚病に感染して死亡する場合がある。

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