Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P55  変異体の重要性

 ボールパイソンは美しい。この本のなかで写真とともに紹介されているきらびやかな変異体の数々に酔いしれたとしても、普通のボールパイソンもこの上なく美しいヘビだということを、どうか忘れないでほしい。この本の各所には、野生で捕獲した普通のボールパイソンの写真が多数掲載されているが、それらは皆すばらしい外見をしている。スーパー・パステルやモハーベ系のボールパイソンを見て、驚嘆の声をあげるのはたやすいが、脱皮したばかりで、飼育状態もよく、ツヤツヤとした普通のボールパイソンを見て気絶することも忘れないように。

 この章では、ボールパイソン変異体の新たな世界を紹介する。ここで言う変異体とは「外見」あるいは「表現型」という意味である。“新たな世界”と書いたのは、1990年代半ば以前には、変異体はほとんど知られておらず、ボールパイソン変異体も注目されていなかったからである。しかし、その後の10年間で、ボールパイソン変異体は多くの点で爬虫類繁殖の世界を支配するようになってきた。

 今日では、本書のような大型本ですらカバーしきれないほどの、さまざまな色と模様が存在している。毎週のように、どこかのブリーダーの孵化器で新たな変異体が誕生し、新たに発見された変異体がアフリカから輸入されているように思える。我々は当初、ボールパイソンの世界における全ての変異体を紹介するつもりだったが、すぐにそんなことは不可能だと気づかされた。仮に現在知られている全ての変異体の写真をかき集めることができたとしても、この本の印刷が終わる頃には、新たな変異体が登場していることだろう。そうする代わりに、現存しているさまざまな色・模様の変異体の美を讃え、数多くの華やかなボールパイソンの美しい写真とともに紹介していこうと思う。

 ボールパイソンのブリーダーにとって興味のある変異体は、大きく2種類に分けられると考えている。「ワイルド変異体」は一つの変異、単一の対立遺伝子の発現によって作り出された変異体である。ワイルド変異体のほとんどは、アフリカで採集されたか孵化したものである。たとえば、現在飼育されている全てのクラウン変異体は、1990年代はじめにアフリカから輸入された6匹のクラウンの子孫である。また、全てのスパイダー変異体は、野生で捕獲された一匹のスパイダーの子孫である。ワイルド変異体を作っているのは、ボールパイソンのブリーダーではない。それぞれの変異体を作っているのは、外見に影響を与える遺伝子の突然変異である。

 1960年代以降、数多くのボールパイソンがアメリカに輸入されてきた。今から考えると、その当時輸入されたヘビのなかにも、さまざまなワイルド変異体が含まれていたはずなのだが、輸入業者も飼い主もほとんど無視していたのだろう。我々が探し出せたかぎりにおいては、一番最初にワイルド変異体の写真を収録した書籍は、『ウガンダのヘビのガイドブック』(1974年)である。それはとても変わったボールパイソンの写真で、1960年代後半にヒューストン動物園で展示されていたものらしい。そのヘビは“黄色”と記されており、その正体が何であれ、我々が知るかぎり、これと同じ変異体は他には存在していない。

 ワイルド変異体に関するもう一つの古い記録は、イギリスに輸入されたアルビノのボールパイソンである(1983年)。1980年代半ばには、アメリカにおいて、数匹のアルビノと少なくとも1匹のパイボールドが飼育されていた。

 二番目の変異体は「デザイナー変異体」である。デザイナー変異体のボールパイソンは、自然界では見られないものを作り出すために、ブリーダーが二つ以上のワイルド変異体を組み合わせて作り出したものである。ある意味、ボールパイソンのブリーダーにとって、ワイルド変異体はパレットの上の絵の具だと言える。それらを混ぜあわせて、全く新しい外見を作り出せるからである。ワイルド変異体は数十種類あり、現在でも新種が続々と発見されている。そしてまた、複数のワイルド変異体を何世代にもわたって選択繁殖させる組み合わせも、何十通りも考えられる。こうしたことを考えると、今後誕生するであろうデザイナー変異体の数は、驚異的な数になるだろう。

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