Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P55  変異体の命名

 変異体の名前は、変異体の外見と同じくらい多彩である。時々、どうやって名前が決まるのかと尋ねられることがあるが、そういう場合には、次のように答えることにしている。

 ボールパイソン変異体にどういう名前をつけるのか、あるいは、どうやって名前をつけるのかに関して、決定的なルールは存在しない。しかし、一般的な慣習といったものは存在しており、それは新種のヘビに名前をつける時と似たようなものである。

 ほとんどの場合、変異体を命名するのは、その新しい外見を持った初出のボールパイソンを所有している輸入業者あるいは飼い主である。変異体を命名するためには、所有者はその名前とともに、名前をつける元になった外見の説明を公表することが必要となる。

 ここで言う“公表”とは、その名前と説明が、さまざまな雑誌や書籍で出版されることを意味する。変異体の名前の多くは『Ball Python Manual』(1994年)のなかで公表された。バートレットは1995年の雑誌『爬虫類』のなかでキャラメル・アルビノを紹介したが、それを命名したのはヘビの所有者であるアーニー・ワグナーであると断り書きを入れている。新しい変異体の名前のいくつかは、価格表のなかで公表されることもある。現在においては、インターネットの人気掲示板やホームページなどに、新しい名前と説明を投稿することも“公表”だと見なされるようになってきている。“説明”とは目新しい外見を文字で描写することではあるが、インターネットに複数の画像を投稿するだけで十分だと見なされる場合も多い。

 時には、外見の遺伝法則について正確なことが判明する前に、変異体が手に入ったあるいは孵化した時点で、すぐに名前がつけられる場合もある。その変異体が唯一無二のもので、今までの他の変異体とは全く異なっている場合には、こうした迅速な命名も許される。

 時として、(遺伝子的には)遺伝可能な目新しい外見を持っていると思われるのに、全体的な外見は既存の変異体とよく似ているボールパイソンもいる。飼い主の推測によると、これは新しい変異体であり、未確認の不完全優性形質がヘテロ接合した外見だということになる。こうした場合には、目新しい外見(それがどんなものであれ)が遺伝可能な形質であることが明確に確認できるまで、慎重にじっくりと待ってから、命名をしたほうがいいだろう。現在、数多くのワイルド変異体が飼い主によって命名されるのを待っているところである。

 変異体の名前としては不適切な言葉があることも確かである。ある一つの系統に対して、“低メラニン症”“メラニン症”“ロイシン尿症(リューシスティック)”といった言葉を変異体の名称として使用するのは好ましくない。これらはその状態を説明する用語であり、多くの変異体に適用することができる。たとえば、“低メラニン症”と名づけられる変異体は少なくとも20種類は存在している。

 こうした説明的な用語の一つを中黒点(・)でつないで、変異体の名前を作り出すというのは可能である。たとえば、ただの“リューシスティック”はどこにもいないが、ある特定の系統のリューシスティックを指す言葉として、“青目・リューシスティック”という変異体名ならば、ちゃんと認知できるだろう。これは特定の系統に対してつけられた商品名と、外見を文字で説明した用語とのせめぎあいである。新しい変異体に名前をつけようと考えている人は、上手に区別できるような名前を考える必要があるということを覚えておいてほしい。

 “アルビノ”と呼ばれる変異体があるが、アルビノというのは唯一の系統ではない。実際、“アルビノ”という言葉が使われるようになって数年後に、“アルビノ”と呼ぶことのできる変異体は何種類も存在しているということがわかったのだ。こうなると、先につけた名前と、一般に広まっている名前との間で葛藤がおきる。現在では、“アルビノ”という言葉は、“初めて飼育繁殖されたメラニン欠乏症の黄と白の系統”を意味するものとして、一般に受け入れられて広く使用されている。

 変異体の名前として必要なもう一つの条件は、それが認められて使用されることである。提案されても定着しなかった名前もいくつか存在する。定着しなかった理由としては、その系統が続かなかったため、名前と外見自体が消滅してしまった例もある。また、その名前が一般に受け入れられなかったという場合もある。たとえば、“オパール”という名前は、広く使用されることがなかった。その後すぐ、“オパール”は“スーパー・パステル”にとって代わられ、後者のほうが広く使われるようになった。

 時には、二つの異なる変異体に、同じ名前がつけられることがある。この場合、最初に名前がつけられたほうに、その名前を使う権利がある。すでに存在している名前をつけられた変異体は、新しい名前を探さなくてはならない。

 時として、無関係な二つの系統(二つとも出自の異なる野生種で、異なる名前で呼ばれている)が、同じ変異の結果、同じ外見を生み出すことがある。こうした場合は、“互換性がある”と言われる。ある系統のヘビと別の系統のヘビを交配させ、その結果誕生した子孫が、それぞれの系統で誕生した子孫と全く同じ場合、その二つの系統は“互換性がある”ということになる。たとえば、野生で捕獲されてアメリカに輸入された数多くのアルビノはそれぞれ無関係であるが、我々の知るかぎり、全て互換性がある。

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