Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P67  デザイナー変異体

 読者のなかには、前項の「ワイルド変異体」を精読して、非常に数多くのワイルド変異体が紹介されていると思う人もいるかもしれないが、これは全体の一部にすぎず、他にもたくさん存在している。現在、飼育繁殖されているヘビのなかでは、ボールパイソンのワイルド変異体の数が一番多い。その最大の理由は、過去数十年の間に膨大な数のボールパイソンがアフリカから輸入されたためである。毎年、ボールパイソン種から大量の標本が採取されていることになるので、そうした標本のなかに数多くのレアな変異体が含まれていても驚くにはあたらないだろう。

 デザイナー変異体は、ボールパイソンのブリーダーが作り出したものである。それは、自然界では見られない外見を持ったボールパイソンを作り出すために、変異体(ワイルド変異体およびデザイナー変異体)を組み合わせて繁殖させたものである。ブリーダーが親素材として使用できるワイルド変異体は何十種類もおり、第二・第三世代のデザイナー変異体のことも考えると、デザイナー変異体の組み合わせの可能性は何千種類も存在することになる。

 この項では、この本のなかで写真が掲載されているデザイナー変異体のいくつかを簡単に紹介していこうと思う。現在知られているデザイナー変異体の写真を多数集めることはできたが、その全てを収録したと豪語するつもりはないし、全種類を知っていると言うつもりもない。すでに数多くの種類が存在しており、その数は常に増え続けている。ほとんどの飼い主やブリーダーは自分が作った自慢のヘビの写真を喜んで送ってくれたため、この本に収録しきれないほどの写真が集まることになってしまった。

 この本に収録されている写真の下には「パステル/クラウン」といった合成名がつけられているが、これはそのヘビの外見がパステル変異体とクラウン変異体を組みあわせたものであることを意味している。こうしたヘビの場合には、その特徴を指摘するか、その美を愛でる以外に語るべきことはほとんどない。その写真を見て、読者自身が自分で観察して結論を出してほしい。

 「パステル/クラウン」というラベルのついたヘビは、パステルとクラウンとを交配して産まれた直接の子供を指しているとは限らない。たとえば、この場合においては、パステルの共優性形質とクラウンの劣性形質を交配すると、そこから産まれたクラッチ(卵)は、ノーマルの模様を持ったヘテロ・クラウンとなり、そのうちの半分はパステルであり、残りの半分はパステルではない。パステル/ヘテロ・クラウンの1匹が成長してクラウンと交配したとすると、そこから産まれる卵は、確率的には、クラウン(25%)、ヘテロ・クラウン(25%)、パステル/ヘテロ・クラウン(25%)、パステル/クラウン(25%)となる。

 ブリーダーの努力を正当に評価するためには、以下のようなことを考えることが大切である。まず、パステルのオスの幼体とクラウンのメスの幼体がいて、全てがスムーズに運んだと仮定しての話だが、パステル/クラウンを作り出すためには、最低でも3年はかかることになる。実際には、この2つの変異体が組み合わさった外見を持つヘビを作り出すためには、4〜5年はかかるだろう。デザイナー変異体を作り出す計画の多くは、望みの外見を生み出すまでに、7年以上かかるものである。

 実際のところ、多くのデザイナー変異体について、くわしいことはわかっていない。この本に掲載されている写真のヘビが、現存する唯一のヘビだという場合も多い。また、本書に掲載されているデザイナー変異体の多くが幼体やジュブナイル体であることに気づく人もいるだろう。1歳以上の個体は、あまりいない。これもまた、ボールパイソンのデザイナー変異体を作る計画自体が比較的新しいものだからである。

 現在は数匹の赤ん坊だけを元にして文章を書いているが、本書で紹介されている多くのデザイナー変異体が大量に繁殖されるようになれば、その系統にははるかに多くのバリエーションが存在していることが明らかになるかもしれない。あるデザイナー変異体の最初の1匹の外見は、その系統に典型的なものではなく、同じ遺伝子型を持つ他の個体は違う外見をしている可能性もある。もっと多くのヘビが生まれるまで、正確なことはわからないのだ。

 また、新種のデザイナー変異体の赤ん坊の多くは、成長とともに色が変化するということもある。時には、完全に成体となった後でも、変化する場合がある。多くのデザイナー変異体においては、今現在どんな姿をしているかということは正確に描写できるが、そのヘビが6歳になった時にどんな姿をしているかについては、推測することしかできない。

 そのため、ほとんどの場合、本書に収録されているデザイナー変異体の写真には、その名称と、写真を撮った人物の名前ぐらいしか書かれていない。写真そのものを楽しんでほしい。それらは美しい創造物であり、現在進行中の偉大な計画の一部なのだ。繁殖に興味をおぼえた読者は、以下の項目を読んでもらえれば、いくつかの疑問は解消できるだろうし、巻末の「付録2:変異体の一覧表」を参照しても、必要な情報は得られるだろう。もちろんインターネットなら最新の情報が手に入る。本書が本棚の隅でほこりをかぶるようになった後も、デザイナー変異体の繁殖計画はずっと続いていくことだろう。

 

デザイナー変異体の合成名について

 変異体の名称に中黒点(・)がついている場合、それはワイルド変異体を示している可能性もあれば、中黒点の前後にある2つの変異体が組み合わさったデザイナー変異体を示している可能性もある。変異体の名称に関する命名法には、統一されたルールが存在していない。

 現在のところ、たとえば「ブラック・パステル」という名前に出会ったとしたら、それがワイルド変異体かデザイナー変異体かを調べることが必要になってくる。もし名前が「アルビノ・ブラック・パステル」だったとしたら、2つあるいは3つのワイルド変異体が組み合わさったデザイナー変異体の可能性もあるので、話はさらにややこしくなる。今後、さらに多くのデザイナー変異体が誕生して市場に出回るにつれて、こうした混乱はさらに拍車がかかることになるだろう。

 こうした複雑な事情を考慮に入れたうえで、我々は次のような提案をしてみたい。新しいワイルド変異体の合成名をつける際には、中黒点(・)を使用する。新しいデザイナー変異体の合成名をつける際には、そのデザイナー変異体の親となった2つ(以上)のワイルド変異体の名前をスラッシュ(/)で区切るようにする。

 この法則に従うと、「ブラック・パステル」はワイルド変異体であり、「ブラック/パステル」はデザイナー変異体だということになる。本書のなかで、「アルビノ/ブラック・パステル」の美しい写真があったとすると、読者はアルビノとブラック・パステルを交配して作られたものだということがわかるだろう。

 命名に関する問題をさらにわかりやすくするために、新しいデザイナー変異体を作り出したブリーダーは、そのヘビに対して、説明的な単語ではなく、商品名をつけるようにお薦めする。つまり、「アルビノ/スーパー・パステル/ゴースト/モハーベ/ピンストライプ」ではなく、「ムーンビーム」、「パフボール」、「スモーガスボード(寄せ集め)」、その他ブリーダーがつけたい名前をつければよい。こうしたほうが市場的にも便利だし、新たなデザイナー変異体が登場するたびに増えていく名前の混乱を減らすこともできると思う。

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