Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P251  人畜共通感染症

 人畜共通感染症とは、動物から人間に感染する病気のことである。ボールパイソンの場合には、人畜共通感染症は少なく、めったにおこることではない。とは言え、動物を触った後には、必ず手をしっかりと洗うというのは、衛生上の基本である。免疫不全症候群の人は、爬虫類や他の動物に触れる際には、特に注意しなければならない。

 サルモネラ菌や爬虫類から感染したサルモネラ中毒は、長年にわたってメディアの注目を集めてきた。(ボールパイソンを含む)全てのヘビがサルモネラ菌を保有することができる。実際、ボールパイソンにおいて、いくつかの菌株(血液型亜型)が発見されたという報告がある。ヘビの場合、サルモネラ菌の症状がでないことが多いのだが、ヘビが保有しているほとんどのサルモネラ菌は人間には感染しないと思われる。我々は今までに25000匹以上のヘビや、数千の(ヘビ以外の)爬虫類とともに過ごしてきたが、そうした経験から言わせてもらえば、我々は一度もサルモネラ菌に感染したことがないし、我々の知るかぎり、数百(あるいは数千)の飼い主や動物園の飼育係が爬虫類からサルモネラ菌をうつされたというケースも一件もない。

 間違いなく、人体に病気をひきおこすサルモネラの菌株は、爬虫類の体内で正常な状態へと変化したと考えられる。実際、爬虫類からサルモネラ菌をうつされる場合よりも、生の鶏肉を不適切に扱ったり、ペットの犬から菌をうつされてサルモネラ中毒になる場合のほうが、はるかに多い。動物の権利を守る活動をしているグループのなかには、ペットとして動物を私物化することに反対している一部の集団がいる。彼らはサルモネラ中毒の危険性を訴え、これこそアメリカ国民の健康を脅かす重大な脅威であると述べ、このことだけを根拠にして、一般市民が爬虫類を飼育するのを禁止しようとしている。我々の直接的な経験と観察から言わせてもらえば、そうした重大な脅威が存在しているとは到底思えない。たしかに、乳幼児や免疫不全症候群の人たちがサルモネラ菌に感染しないように気をつける必要はある。しかし、ボールパイソンから人間へサルモネラ菌がうつることは、きわめて稀である。

 だから、ボールパイソンやその他のヘビを使って(参加者にヘビを触らせたりするような)体験学習をおこなう人は、消毒用のウェットティッシュを準備しておくようにするといいだろう。そうすれば、子供たちはヘビに触れた後で、手を清潔にすることができる。参加者のなかには、免疫不全症候群の人がいるかもしれないのだから。

 ボールパイソンと関連したもう一つの恐ろしい人畜共通感染症は、Q熱である。Q熱の媒介源は、Coxiella burnetiiという名の世界中に広まっている細菌である。牛・羊・ヤギなどが、この桿菌の主な保菌動物であると考えられている。野生のパイソン(Python molurus)においても発見されている。しかし、ボールパイソンはCoxiella burnetiiを保有していないことが知られていることも明記しておこう。

 Q熱は人間においては重病となる可能性がある。Coxiella burnetiiに感染した人間の約半分が、病気を発症する。急性のQ熱は、以下に挙げる症状の一つあるいは複数が急激に襲ってくることから始まる。高熱、激しい頭痛、全身の疲労感、筋肉のこわばり、意識朦朧、のどの痛み、悪寒、冷や汗、空咳、めまい、吐き気、下痢、腹痛、胸の痛み。熱は通常、1〜2週間続く。患者は体重が減り、少なからぬ数の患者が肺炎を併発する。肝炎を併発する患者もいる。急性Q熱にかかった患者の1〜2%が死亡する。

 Q熱とボールパイソンとの関連は、ある事件が原因となっている。1978年、ニューヨークにおいて、野生動物を輸入している業者の建物のなかで、鳥とボールパイソンの積荷を開けていた作業者の間に、Q熱が発生した。調査官はボールパイソンに3種類のダニがついているのを発見した。そのうちの1種はAmblyomma nuttaliというダニで、牛に寄生することを好み、Coxiella burnetiiを媒介するものとして知られていた。その後、建物のなかにいたボールパイソンとダニをくわしく調べたが、Coxiella burnetiiは発見できなかった。しかし、Q熱を発症した人々は、ダニもしくはボールパイソンから空気中に散布されたCoxiella burnetiiを吸い込んで、あるいは、ダニもしくはボールパイソンの乾燥した糞の粉末を吸い込んで感染したものと推測された。

 Coxiella burnetiiは、甘く見てはならない細菌である(事実、細菌兵器の候補としても挙がっていたくらいである)。しかし、アメリカにおいては、Q熱は稀な出来事である。ボールパイソンからQ熱に感染する確率は、かぎりなくゼロに近いと言っていいだろう。

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