Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P209  飼育しているボールパイソンを繁殖させるには

 20世紀前半においては、動物業者がボールパイソンを扱う機会は稀だった。ペットとして飼育されることも一般的ではなかった。20世紀半ばに書かれた有名な爬虫類繁殖家や動物園の爬虫類学者(たとえばディトマーズ、ポープ、オリバー、カウフェルトなど)の文献においても、ボールパイソンに関する記述はほとんどないか、あったとしてもごくわずかだった。ボールパイソンが大量に輸入されるようになったのは1960年代の後半であり、1980年代には飼育動物としてかなり一般的な存在になっていた。1941年、ボールパイソンが(卵ではなく)11匹の赤ん坊を産んだという報告があり(報告者の名前は不明)、ボールパイソンの生殖スタイルが疑問視されることになった。我々が知るかぎり、ボールパイソンが赤ん坊を産んだという報告例は他にはなく、現在、ボールパイソンは他のパイソン種と同じく、卵生動物であると認められている。

 シヴレは自然で採取した卵を孵化させたと報告しており(1972年)、その報告のなかで、今までボールパイソンは飼育環境下で繁殖したことはないと述べている。実際には、1969年以来、ヒューストン動物園で毎年ボールパイソンの繁殖がおこなわれていた。このことは、ボールパイソンの飼育繁殖に成功した初めての報告書(1973年)のなかで、くわしく語られている。その5年後、ロスはボールパイソンの飼育繁殖の成功例が13件あると述べている。1981年、ヴァン・ミーロップ&ベセッテは2匹のメスの飼育繁殖について報告しており、飼育環境にあるボールパイソンの卵が母親の力によって孵化した報告例はこれが初めてだと述べている。

 1980年代半ばには、ボールパイソンは簡単に手に入るようになっており、飼育するペットとしても一般的になってきた。この当時、ボールパイソンの飼育繁殖の報告例も増加していたが、ほとんどは小部数の地方誌や広報誌であり、ボールパイソンの飼育繁殖は依然として一般的なことではなかった。

 1980年代半ば以前には、輸入される個体のほとんどは成体だった。その頃から、輸入される赤ん坊の数と、全輸入数に占める赤ん坊の割合が、毎年増え始めた。こうした赤ん坊が飼育環境で育てられ、大きくなった時に繁殖に用いられるようになった。現代のボールパイソンの一族の基礎の大部分を作り出したのは、こうしたヘビたちである。

 1980年代半ばの時点では、飼育繁殖に成功して、今後も繁殖を存続していけるだけの十分な飼育数を確保していると言えたのは、ビルマ・パイソンだけだった。1990年代初頭には、毎年、数千匹のビルマ・パイソンが飼育孵化していた。アルビノのビルマ・パイソンを繁殖・販売して、財産を作った者や失った者もいた。飼い主たちはヘビを繁殖・販売することで、お金が稼げることに気がつきはじめた。

 1980年代には、ペットのヘビの繁殖がどんどん注目を集めるようになり、動物園の爬虫類コレクションとますます増える個人飼育家が互いに競い合うような形で発展していった。毎年おこなわれる「爬虫類の飼育繁殖と世話に関する国際シンポジウム」(IHS)も盛況で、その年の成果が披露された。1990年代になる頃には、ペットの爬虫類と両生類の繁殖は、爬虫類繁殖学の中心項目になっていた。

 ヘビの繁殖対象も移り変わり、1970〜1980年代にはキングスネークが大いに人気を集めていたのだが、1980年代後半〜1990年代前半になると、パイソンが注目を集めるようになった。当時、インドネシアが、それまで手に入らず飼育されたこともなかった珍しいパイソン種の多くを輸出しはじめた。また、ボールパイソンには見た目の異なる変異体が数多くいることも認知されるようになってきて、その当時は安い値段で輸入されていた。我々が1990年に30ドルで購入したボールパイソンは、1993年には1500ドルへとはね上がっており、その価格は上昇しつづけた。2001年には、少なくとも24種類のパイソンが、今後も繁殖を存続していけるだけの十分な数で飼育されていた。この文章を書いている時点では、たった1種類のパイソンだけが飼育繁殖されていない。そのパイソンとはハルマヘラ・パイソン(Morelia tracyae)である。他にも呼び方はあるかもしれないが、アメリカにおける爬虫類繁殖の歴史のなかで、1990年代は「パイソンの10年」と呼ぶことができるだろう。

 そして今、21世紀に突入して数年が過ぎ、他のパイソン種に対する興味が薄れていくなか、ボールパイソンに対する興味だけはますます増えている。未来の歴史研究家が21世紀の最初の10年を「ボールパイソンの10年」と呼ぶようになるのも、十分にありうる話だろう。

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