Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P220  繁殖スケジュール

 ボールパイソンは一年を通じて繁殖することが知られているので、以下に述べる生殖サイクルは、一年のうちいつでもおこる可能性がある。ただし、実際には、飼育されているほとんどのボールパイソンの場合、このサイクルが始まるのは10月から12月の間である。だから、この期間は特に注意を払うように。しかし、それ以外の時期にも、先入観を捨てて気をつけておくこと。ヘビがいつ繁殖期に入るのか正確に理解していると飼い主が思い込んでいるために、チャンスを逃してしまう場合も少なくない。だから、ヘビが“予定通りに”繁殖しなかった時でも、その後に繁殖するチャンスがあることを忘れてはならない。

 我々のもとには、パニックになった飼い主からの電話が何回もかかってくる。その内容は「もう6月(あるいは8月)になったのに、大事なメスのボールパイソンが餌を食べなくなってしまった。早く餌を食べないと、12月の繁殖シーズンに間に合わなくなってしまう」といったものである。そういう場合、我々はいつも「ケージのなかにオスを入れてみなさい」と答えることにしている。多くの場合、交尾がおこなわれ、“季節はずれの”生殖サイクルがはじまる。

 ボールパイソンのメスの生殖サイクルは、4回の脱皮期間のなかでおこなわれる。全生殖サイクルは、これらの脱皮期間によって、4つの時期に分けることができる。飼い主は脱皮を目安にして、生殖活動の推移を簡単に追うことができる。脱皮によって区別された4つの時期とは、卵胞成長準備期、卵胞成長期、排卵期、産卵期である。以下に、各時期のくわしい説明をしていこう。

 

卵胞成長準備期

 メスの卵母細胞は1年を通じて、直径2〜4mmほどしかない。生殖サイクルの1回目の脱皮の時に、卵母細胞は大きくなり始める。超音波を使ってスキャンすると、直径7〜9mmまで増大していることがわかる。

 通常、メスがオスと交尾をおこなうのは、この時期であり、メスが脱皮中の場合もある。我々はボールパイソンが脱皮をしている時には餌を与えないようにしているが、メスが脱皮を終えると、自然に餌を食べなくなったり、食欲が減少したりする場合がある。逆に、食欲旺盛になる場合もある。このメスの近くにいるオス(別のケージに入れられたオス)も、急に餌を食べなくなる場合がある。こうした現象の全てがおこるかもしれないし、全くおこらないかもしれない。この段階でメスが餌を食べなくなったとしても、通常は、交尾が終わった後に再び食べ始めるようになる。

 気をつけておきたいのは、メスの卵胞はとても小さいので、見た目は全く変わらないし、行動も変わらないように見えるということである。生殖サイクルの卵胞成長準備期に全く気がつかない飼い主も多いが、それはそれでかまわない。通常、何かがおこっていることを示す兆候は2つある。それは、メスが餌を食べなくなったことと、メスが引き合わされたオスと交尾をすることである。実際には、この段階で餌を食べなくなるメスはごく少数であり、たいていは餌を食べるのを一時的に中止して、またすぐ再開するものである。メスが交尾可能な状態になっていることを知る唯一の方法は、オスがケージのなかに入れられている時に、2匹が交尾しているのを実際に目撃することである。

 生殖サイクルのなかで、いつ交尾すると受精するのか、その正確な時期についてはよくわからない。ただし、直径わずか11〜12mmの卵胞を持つメスでもオスと交尾することはできるし、たった1回の交尾でも、4〜5ヵ月後には有精卵のクラッチが産まれるということはわかっている。受精がおきるのは、生殖サイクルのごく初期段階である。だから、クラッチの父親をどのヘビにするか、よく吟味して選ぶこと、そして後になって心変わりをしないことが重要になってくる。前項でも述べたが、排卵するのは数ヶ月先だとしても、一番最初にメスと交尾したオスがクラッチの父親になるというのが、我々の観察結果である。

 「オスとメスを引き合わせるのに一番いい時期は、メスが脱皮した直後である」というのが、ヘビのブリーダーたちの共通した意見である。脱皮直後のメスは艶と光沢があって、フェロモンをたっぷり含んだ皮が残されていて、それはまるでメスが服を脱いだようなものである。そんなメスと交尾したくないオスなどいるだろうか? 一般的にメスが脱皮した後に交尾をするというのは間違いない事実ではあるが、メスの脱皮が完全に終わったから、飼い主がオスとメスを引き合わせているわけである。我々の観察したところ、非常におもしろいことに、こうした一般的な常識とは逆に、ボールパイソンのカップルは、メスの脱皮期間の後ではなく、脱皮期間の途中に交尾をおこなう傾向にある。我々はメスが脱皮期間にある最中に交尾をするカップルを何度も見たことがある。それは、メスの体色がくすみはじめる時に始まり、脱皮途中には複数回交尾をおこない、脱皮が終了するまで続けられる。脱皮の終了とともに、交尾が終わってしまう場合もある。

 実際には、ほとんどのオスは、メスの許可さえあれば、1年中いつでも、どんなメスとでも交尾ができるようだ。脱皮途中の交尾について言えば、こうした行為は理にかなっているようにも思える。なぜなら、オスにとってメスを手に入れるのに一番いい時は、メスがぼんやりとうずくまり、周囲がよく見えず、むやみに動くと敏感な皮膚が傷つくおそれがあるような時だからだ。ボールパイソンの飼い主は、メスの脱皮が終わるまで待たないで、(脱皮途中の)メスとオスを引き合わせるほうがいいだろう。

 この卵胞成長準備期にあるメスと引き合わされたオスは、通常24時間以内に交尾をおこなう。若いオスや経験の浅いオスの場合には、求愛・交尾にいたるまでに数日かかる場合もある。次の段階まで交尾をおこなわないカップルもいる。

 

卵胞成長期

 4回の脱皮期間のうち、2回目の脱皮の終了とともに卵胞成長期が始まり、たいていは卵胞が直径12〜15mmにまで成長している(比較のために書いておくと、ほとんどのガラス製のおはじきは直径13mmであり、1円玉の直径は20mm、500円玉の直径は26mmである)。この時期に、オスがメスと交尾をしないのは、かなり異例のことである。

 メスの卵胞が成長しているのに気づいて、飼い主がメスに注目するようになるのは、たいていこの時期である。通常、生殖サイクルのこの段階にあるメスは、ずっと餌を食べてきて、そろそろ肥満が目立ち始める。そしてまた、飼い主がオスとメスとを引き合わせるのも、通常はこの時期である。交尾にもっとも適しているのは、この時期である。この時期にオスとメスが数回交尾しているのを見ると、生殖サイクルの主要任務は無事に終了したと安心するものである。

 この段階のどこかの時点で、メスは餌を食べるのをやめて、交尾が終わったら、また餌を食べ始めるかもしれない。時には、餌を食べていなかったオスが、交尾が終わった後に餌を食べるようになることもある。

 しかし、この時点で、ヘビの赤ん坊の価格を載せたプライスリストを公表するのは、時期尚早である。この先、トラブルが発生することもあるからだ。もしメスのケージにオスを入れなかった場合、メスは卵胞を体内に吸収してしまうので、卵は産まれないだろう。時には、予想外の時に卵胞吸収がおこることがあるので、飼い主はそのことに全く気がつかない場合もある。

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