Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

繁殖スケジュール(続き)

排卵期

 4回の脱皮期間のうち、3回目の脱皮は「排卵前脱皮」と呼ばれることもあり、卵胞が急速に成長する時期である。通常、メスが3回目の脱皮を終えた時には、卵胞は直径約20mmにまで成長している。もしメスが餌を食べているなら(この時期に大食いするメスもいる)、我々は適度な量の餌を数回与えた後、メスがまだ食べたそうにしていても、餌やりを中断する。メスの脱皮が終わった直後、メスのケージのなかにオスを1週間ほど入れておくが、これはあくまでも、脱皮前の時期にカップルが交尾をしていたことを確認するための最終確認のようなものである。

 排卵期以前には温かい周辺温度が良かったのだが、排卵期を迎えた今は違う。繁殖の温度に関する項目を参照してもらえばわかるが、我々は必要に応じて、排卵前脱皮を終えたメスを27℃以下の空間へと移動させている。我々の経験上、生殖サイクルのこの段階にあるメスを温かい場所で飼育していると、その結果、早期排卵がおきてしまう場合がある。また、卵黄形成の逆転がおこり、卵胞のサイズが縮小してしまうといった場合もある。

 脱皮から2週間後、我々は餌やりを中断する。オスはケージの外に出す。ケージの前面の涼しい場所に、太ったメスが安心して過ごせるサイズのシェルターを置く。それから、ケージの背面にあるヒーターの電源を入れる。この章の前の項目でも説明したが、我々が日光浴用の熱源として利用しているのは、7.6×41cmのFlexwatt社製のヒートテープである。それをメスが入っているケージの背面と底面に設置する。ヒートテープはレオスタット(加減抵抗器)で制御されており、温められた場所が30〜31℃になるように調節されている。最初のころは、夜間(午後6時〜午前6時)だけヒートテープの電源を入れておく。

 生殖サイクルのこの段階にあるメスは、卵胞が成熟して36〜40mmにまで成長しているため、体重が重くなっている。飼育環境や温度が正しければ、メスは毎日シェルターのなかでとぐろを巻いているだろう。メスは毎晩涼しいシェルターを離れて、ケージの背面の温かい場所へと這っていき、夜のほとんどをそこで過ごすだろう。もしメスが夜間に体を温めないなら、メスの状態について判断が正しかったかどうかを吟味する必要がある。メスはとても太っているだけで、我々が予想したような排卵期にあるのではなく、今はまだ卵胞成長期の段階だという可能性もある。そういう場合には、超音波診断器を取り出してきて、卵胞のサイズを確かめることになる(実際には、日光浴の行動をするかどうかが、確かな判断の基準になる)。

 この時期になると、我々は一日に数回、メスの状態をチェックする。近いうちにメスが排卵するので、それを実際に確認することができれば、将来の出来事のタイミングをはかるのに、その日付が非常に役立つからだ。

 この時期、メスは非常に大きくなっている。また、落ち着きもない。腹の部分が膨れているので、腹を下にしていると落ち着くことができず、体を横にして寝転がっていたり、腹部を上にしてひっくり返っていたりする。超音波を使って調べると、卵胞は直径30mm以上になっていることがわかる。

 やがて(通常は脱皮の4〜5週間後)、メスが排卵するようになる。排卵しているメスはケージの床面にぺったりと伏せ、顎を床につけ、集中しているように見える。胴体の真ん中には、大きな膨らみがある。排卵しているメスのボールパイソンは、大きなブタを飲み込んだアミメ・パイソンの小型版のように見える。あるいは、小さなフットボールを飲み込んだようにも見える。膨らみはだいたい8〜24時間ほど続き、その後、排卵前の元の体型へと戻る。各卵管のなかの卵子を待ち構えているのは、卵管漏斗の皺のなかに蓄えられていた精子の大群である。それぞれの卵子は卵管漏斗を通過して、受精した後に、卵管を下っていって、卵殻が作られる場所へと運ばれていく。メスが正式に「妊娠した」と言えるようになるのは、メスが排卵した後のことである。

 メスの排卵を確認した後は、ヒーターの電源を24時間入れっぱなしにしておく。メスは毎日、シェルターと温かい場所とを何度も行き来するようになる。排卵の2週間後にメスの脱皮期間が始まり、通常は排卵の20〜21日後にメスの脱皮がおこなわれる。

 

産卵期

 通常、生殖サイクルの第4段階の始まりとなる脱皮は「産卵前脱皮」と呼ばれている。メスが産卵するのはこの脱皮の20〜40日後だが、たいていのメスは25〜30日後に産卵する。

 脱皮の後、我々は妊娠したメスを専用の巣箱(ネスト・ボックス)へと移動させる。我々が使用しているのは大型の収納箱で、それをメラミン樹脂製のラックの上に置いている。こうした引越しをおこなう理由は、今までメスを飼育していたケージでは、通気性が良すぎて湿度を保持できないからである。我々は産卵期のメスを、十分に湿度の高い環境で飼育する必要があると考えている。

 産卵用のケージには、少し湿ったミズゴケを7.5〜10cmの高さに敷きつめる。ケージの背面と底面に、7.6×41cmのFlexwatt社製のヒートテープを設置して、床材を温める。ヒートテープはレオスタット(加減抵抗器)で制御して、温められた場所が30〜31℃になるように調節する。巣箱の前面には水の入ったボウルを置き、背面の熱源とは離しておく。

 その後の30日間で、メスはケージの背面の温かい部分に、ミズゴケを自分の好きな形に敷きつめる。ミズゴケは乾燥して、ほどよい硬さのクッションになる。産卵の前にはミズゴケが乾燥しているのがよい。霧吹きにぬるま湯を入れて、定期的にケージの四辺にスプレーしてやれば、内部の湿度を高めることができる。こうすれば、水分はケージの端部分、もしくは乾燥したミズゴケの下にたまるので、ミズゴケのクッションが濡れることはない。

 日光浴と徘徊を繰り返して1ヶ月が過ぎた頃、メスはクラッチ(卵)を産む。普通、卵は夜の間に産まれるので、朝になってから発見することになる。互いにくっついた白い卵のクラッチの上でメスがとぐろを巻いているのは、実に美しい光景である。メスとクラッチは、ケージの背面のミズゴケのクッションの上にいる。メスは胴体の側面を卵に押しつけるようにしてとぐろを巻き、胴体の前半と頭部を使って卵の上にうまく覆いかぶさっているので、卵はほとんど見えなくなっている。メスは卵の周囲にとぐろを巻いてじっとしている。ビルマ・パイソンやブラッド・パイソンのメスの場合、体を小刻みに動かして、熱を発生させてクラッチを温めるのが普通なのだが、ボールパイソンの場合には、そうした行動は見られない。抱卵しているボールパイソンのメスは体温を調節しない…つまり、新陳代謝率を上昇させて体温を上げるような行動はしないことがわかっている。

 ボールパイソンのメスは、クラッチから引き離すようなことをしなければ、卵が孵化するまでずっとそばにいて抱き続ける。時々、とぐろの上の部分をほどいて、舌をチロチロと動かしたり鼻先でつついたりして、やさしく卵をチェックする。その後、再びしっかりと卵を包み隠す。ボールパイソンのメスは、水を飲んだり日光浴をするために、最大で数時間ほどクラッチを離れることがわかっている。卵を抱いている時に、メスが餌を食べたという報告例もある。通常、抱卵しているメスは、卵の面倒を見ながら脱皮をおこなう。これは他のパイソン種においてはめったに見られない行動である。

 我々は、産卵後24時間以内に、抱卵しているメスから卵を取り上げる。メスが今まさに産卵をしているところだったり、産卵を終えた直後だった場合には、卵が完全に乾くまで(通常は2〜4時間ほど)、卵とメスを一緒にしておく。

 メスから卵を取り上げる前には、ケージのなかに手を伸ばし、メスの首の下に手を入れて、まっすぐに持ち上げながら、やさしくとぐろをほどいて卵の上部から離す。卵が見えるようになったら、HBの鉛筆を使って、それぞれの卵の上に小さなX印をつける。卵に印をつけたら、とぐろを巻いているメスの体を卵の周囲からそっとほどく。卵を取り出すためにメスの体を持ち上げる時も、メスがミズゴケの近くにいるようにする。そうすれば、クラッチから卵の一つがはがれ落ちても、遠くまで転がっていくことはない。メスをクラッチから離したら、すぐに予備ケージにメスを入れる。

 メスを持ち上げようとすると、卵にしがみつこうとする場合もある。しかし、ほとんどのメスは咬みついたり攻撃的になったりすることはない。しかし、時々、卵を守るかのように咬みつこうとするメスもいる。こうした場合には、メスを持ち上げる時に、頭にプラスチックのコップをかぶせるとよい。

 次に、卵の重さを量る。我々はいつも、鉛筆を使って、クラッチの重さと日付を卵の一つに書き込んでおく。卵は孵化容器のなかに入れ、容器ごと孵化器のなかに入れる。

 それから、母親のほうに注意を戻し、全ての卵が体の外に出たことを確認するために、その腹部を上下になでて、注意深くチェックする。メスの体重を量り、巣箱ではなく、昔のケージのなかに戻す。餌を与えるのは、脱皮が完全に終わってから(通常は産卵の3〜4週間後)である。

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