Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

健康問題(続き)

吐き戻し

 ヘビはうまく吐き戻しができるような体の作りにはなっていない。ヘビにとって、半分消化されたヌルヌルしたラットを吐くのは、一苦労である(余談だが、ヘビが吐き戻した半分消化されたラットの後始末をしなければならない時に、飼い主が吐き戻さないでいるのも一苦労である)。他の医学的な問題と同様に、ボールパイソンが吐き戻しをするのは珍しいことである。だから、吐き戻しが医学的問題の兆候になっている場合もあるが、必ずしもそうだとは限らない。健康なボールパイソンも吐き戻しをする時がある。

 ファンクの定義によると、吐き戻しは食べたばかりで原型を保っている餌を吐き出す行為であり、一方、嘔吐は胃もしくは腸の前部にあった餌を吐き出す行為を指している。ファンクは両者を区別することは難しいと述べており、本書においても同じ意味で用いることにする。吐き戻しを誘発する可能性のある原因のいくつかを以下に示す。

 温度が熱すぎた場合。温度が38℃以上になると、ボールパイソンは胃腸管上部にある餌を吐き戻す場合がある。

 温度が低すぎた場合。温度が18℃以下になると、ボールパイソンは胃腸管上部にある餌を吐き戻す場合がある。

 餌が大きすぎて、うまく消化できなかった場合もある。ヘビが大きすぎる餌を食べていることに気づいたら、ヘビが餌を飲み込もうとしている途中であっても、餌(齧歯類)の腹部の表面をハサミで切り開いてやると、ヘビが餌を消化しやすくなる。齧歯類の腸が飛び出すかもしれないが、それでもヘビは気にせずに、ちゃんと飲み込んでくれるだろう。齧歯類の腹を切り裂くと、ヘビの消化液が餌の内部に浸透するのが速くなるので、それだけ消化の速度が速くなる。

 飲み込んだ餌の動物についていた有害物質が原因で、ヘビが吐き戻しをすることもある。我々は、餌のネズミについていたノミ取り粉のせいで吐き戻しをしたヘビをたくさん知っている。

 ヘビが病気にかかっている場合もある。吐き戻しの原因が、クリプトスポリジウム症、封入体疾患、アメーバ症、あるいはその他の病気にある場合もある。

 なんらかの腫瘍ができて、消化管の一部が詰まっている可能性もある。

 ヘビは驚いた時にも、吐き戻しをすることがある。ボールパイソンにおいては、こうした行動を見たことはないが、概してヘビは驚いたり、闘争するか逃亡するかといった危機的な状況に追い込まれたりすると、その反応として、体重を軽くするために急いで吐き戻しをおこなう場合がある。我々は、神経質な性格の1歳のスクラブ・パイソンが、ドアの閉まる音に反応して吐き戻しをしたのを見たことがある。

 餌を食べた後、手荒に扱われた場合もある。餌を食べた直後のヘビに触れるのは良くないというのは、おそらく全ての飼い主がどこかで耳にしたことがあるだろう。実際には、餌を食べた後のボールパイソンがハンドリングによって吐き戻しをするのは珍しいことであり、通常は、餌を食べたばかりのヘビに触っても大丈夫である。ヘビはそんなに簡単に餌を吐いたりはしない。しかし、手荒く扱った場合には吐き戻すこともあり、大きな餌を食べた時などは特にその傾向が強い。

 ヘビが吐き戻しをした時に問題となるのは声門である。声門は気管の末端部にあたり、口の基底部分にある開いたチューブ状の器官である。実際には、声門の開口部には二つの弁があり、閉じられるようになっているが、息を吸ったり吐いたりする際には必ず開いていなければならない。吐き戻しのなかには、大量の消化液やその他の体液を伴うケースも多く、吐き戻された余分な液体が声門のなかに入り込んでしまうと、必然的に重度の呼吸器感染をひきおこしてしまうこともある。

 何の理由もなく吐き戻しをするパイソン種は見たことがない。ヘビが吐き戻しをした時には、今までに挙げたような理由の一つが関与しているものである(後になってから、わかる場合もあるが)。

 よくあることだが、ボールパイソンが吐き戻しをすると、飼い主はその後すぐに餌を与えようとする。ヘビをできるかぎり早く最大サイズに成長させたいと頑固に願っている飼い主などは、ヘビが吐き戻しをすると、給餌のスケジュールが遅れると考えてしまう。また、吐き戻しの原因は餌が大きかったせいではないかと考えて、すぐに小さな餌を与えようとする飼い主もいる。ヘビが吐き戻しという行為をすると、ヘビの健康に関する飼い主の感覚も歪んでしまうようだ。そうなると、飼い主は一般常識とは逆の行動をとり、1回餌を食べなかったくらいで、ヘビが急に餓死するようなことはないにもかかわらず、急いでヘビに餌を与えなければという気になってしまうらしい。ヘビは吐き戻しをしても体は健康かもしれないが、吐き戻した後はあまり気分がよくないかもしれない。

 ボールパイソンが吐き戻しをした時には、新鮮な水を与えることをお薦めする。そして、3〜4週間は餌を与えないように。半分消化された大きな餌を吐き戻した場合には、さらに長い間餌を与えないように。ヘビが吐き戻しをするのは、肉体的に非常に難しいことなので、ヘビは体を“リセット”させて、消化管を元の状態に戻す必要がある。多くの場合、吐き戻しの原因は明らかになるが(餌が大きすぎたとか、温度が低すぎたとか)、もしも原因がわからない場合は、ヘビを注意深く観察するように。吐き戻しの原因を見つけ出す努力をし、それと同時に、吐き戻した液が原因で呼吸器疾患になる場合もあるので、その症状が出ていないかどうかもチェックすること。

 休息期間の後、ヘビが最初に食べる餌は、普段よりも小さいものでなければならない。2回目の餌を与える場合は、数日待って、最初の餌が消化されたことを確認してから与えるように。

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