Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P256  皮膚の問題

 ボールパイソンには皮膚のトラブルが驚くほど少ない。皮膚の傷も普通は完治する。ただし、同じような傷を受けた哺乳類に比べると、治るスピードは遅い。ヘビの組織生成機能は常に表皮細胞を作り出しているわけではないからだ。ボールパイソンが皮膚に傷害・損傷を受けると、たいていの場合、脱皮サイクルが開始され、それが必要な治療プロセスの始まりとなる。時々発生する皮膚の問題のいくつかを以下に記す。

飢餓

 ずっと飢えていたボールパイソンの皮膚は、とても薄くてもろく、簡単に破れてしまう。こうしたヘビが治療を受けて元の健康な状態に戻る場合もあるが、そうしたケースは稀である。通常、栄養失調の状態がひどく、皮膚に影響が出ているような場合は、回復する見込みは薄い。

水疱(火膨れ・水膨れ)

 水疱とは、液体のつまった袋が表皮にできることである。大型の水疱は“ブラ”と呼ばれるが、この名称はめったに使われない。その理由は、ボールパイソンにおいては大型の水疱はめったにないので、この言葉が使われる機会が少ないせいだろう。

 ほとんどの水疱には細菌はいないが、水疱が破れてなかの液体が外に出た場合には、感染する可能性もある。水疱が細菌感染や皮膚感染の症状として発生することもあるが、こうしたケースは稀である。もし乾燥したケージで飼育しているボールパイソンに水疱ができた場合、重い病気の兆候である可能性があるので、獣医の診察を受ける必要がある。

 どんな年齢のボールパイソンでも、“水膨れ”ができる可能性はある。この水膨れという単語は、「ヘビが水気の多すぎる環境にいた結果、表皮にできてしまった液体のつまった袋」を指す言葉として一般的に使われている。通常、水膨れは腹部もしくは側面下部にできるものである。たいていは小さく、腹部のうろこの間にはさまっている。ヘビが水気の多い状況に長期間さらされると、水膨れはヘビの腹部と側面下部の全体に広がってしまう可能性がある。

 通常、ヘビの飼育環境を乾燥させて、ヘビが脱皮するのを待っていれば、水膨れの症状は治るものである。普通は、こうした行動をするだけで十分である。しかし、水疱が広範囲の場合、あるいは水疱が破れて感染する危険性がある場合は、昔ながらの治療法が効果がある。市販されている医療用の洗浄薬を使って、ヘビを浅い風呂に浸け、それを1日30分、約1週間続ければよい。

 洗浄薬はこの目的のために市販されているわけではないが、軽度の皮膚問題の治療には、多くの点で理想的なものである。洗浄薬は抗菌・抗かび作用があり、皮膚を乾燥させ、ヘビにも安全である。通常、洗浄薬は粉末タイプで販売されている。パッケージの指示通りに水と混ぜ合わせ、深さが0.6〜1.3cmくらいになるように容器に注ぐ。そこに30分ほどヘビを浸けておき、水洗いせずにそのまま乾燥した清潔なケージに戻す。治療をおこなう際には、毎日新しい洗浄薬を使用すること。

すり傷

 すり傷は、表皮の一部がこすり取られた状態のことである。ボールパイソンが脱走しようとして、ケージのなかの小さすぎる穴に無理矢理入ろうとした時などに、すり傷が発生しやすい。ボールパイソンの鼻先にすり傷があるのに気づいたら、それはヘビを入れているケージが狭すぎて、ヘビが通風孔である網戸や穴の開いた金属板に鼻先をこすりつけているということを示すサインである。こうした場合には、ヘビを大型のケージに移すことが必要である。そうしないと、深刻なダメージが発生する可能性がある。

 一般的に、すり傷は「Neosporin」や「Triple B」のような応急用の傷薬で治療できる。通常は、1〜2回脱皮をする間に治る。

浮腫

 浮腫とは、腫れ物を意味する医学用語である。ヘビが抗生物質の注射を受けていたら、注射された場所に浮腫ができているのに気がつくかもしれない。こうした浮腫は時間とともに治まっていくものであり、治療を必要とするものではない。

 ヘビに寄生するダニが血を吸うと、その場所が小さく腫れる場合がある。乾いた手でヘビの胴体をなでると、そのヘビにダニがいる(あるいは、最近までいた)かどうかを判断できる場合もある。皮膚に小さなしこりがあれば、それはダニによってできたものかもしれない。

 呼吸器の感染症にかかっているボールパイソンは、鼻孔の周囲が膨らんでいることがある。鼻先の左右がわずかに膨らんでいる場合もある。時にはヘビの咽喉が腫れている場合もある(かなり大きいこともある)。咽喉に腫れ物ができる原因は、リンパ液の流れが抑制されるせいだと思われるが、こうした原因を正確に特定できることは稀である。パイソン種には、咽喉の部分に扁桃腺に似たリンパ組織体があることが知られているが、これが関係しているのかもしれない。呼吸器疾患が抗生物質で治療されると、この浮腫も治るのが普通である。時には、何の理由もなく咽喉が腫れることもあり、それが慢性的な状態になっているヘビもいる。

日焼け

 ペットのトカゲを飼育する際には、紫外線ライトを使用するのが一般的だが、ボールパイソンを紫外線ライトのもとで飼育すると、日焼けをおこしてしまう可能性がある。日焼けの重症度は、紫外線ランプのアンペア数・紫外線の出力量・光源からヘビまでの距離によって異なる。日焼けは、背中の表面全体に炎症をおこして浮腫をひきおこす場合もある。重度の日焼けの場合は、ひどい傷を作り、致命傷になることもある。ボールパイソンの体は紫外線を必要としていないことがわかっている。

膿瘍

 時々、刺し傷が感染した結果、皮膚に膿瘍ができる場合がある。ヘビは感染に対する免疫反応として、液状の膿を作らない。その代わりに、黄色っぽくてやわらかい、あまり匂いのしないチーズ状の物質を作る。チーズ状の物質は膿瘍から水分を排出するようなことはしないので、膿瘍が大きい場合には、膿瘍をメスで切り開いて、チーズ状の物質を取り除く必要があるかもしれない。

変色

 普通の色をしたボールパイソンの背中の皮膚の一部が明らかに変色するようなケースは、非常に稀である。ほとんどの場合、変色だと思われていた症状は、脱皮した皮がくっついていただけだったということが多い。しかし、皮膚が変色したのは、細菌やかびが感染したせいだという可能性もあるので、そうした場合には、獣医の診察を受けたほうがいいだろう。

 色の薄い腹部のうろこの間が、赤もしくはピンク色になって炎症をおこしているのに気がつくことがあるかもしれない。この原因は、ケージの床が汚れていること、もしくは、ダニに噛まれたせいである。気をつけて観察する必要があるが、通常は、大きな問題に発展することはない。

 我々は時々、アルビノのような色の薄いボールパイソン変異体の背中の皮膚の一部が変色しているのを目にすることがある。小さなかすり傷、細い血管が見えている場所、その他のささいな炎症部分といったものは、気をつけて観察する必要がある。もちろん、変色は、普通の色をしたボールパイソンにも同じ確率で発生するが、飼い主がそれに気づくことはないだろう。こうした変色部分のほとんどは、日常生活のなかでおきる磨耗にすぎず、深刻な健康問題となることはめったにない。

 リューシスティックのボールパイソンにおいては、不安を感じた時に、皮膚が紅潮して、かすかにピンク色になるという現象が見られる。この紅潮現象はおそらく全てのボールパイソンでおきていると考えられるが、リューシスティックの個体だけが目に見えるのだろう。

熱傷

 ボールパイソンの不幸な問題の一つは、熱い表面で腹部を火傷してしまうということである。ボールパイソンは明らかに、危険なほどの高温を腹部で感知するという能力を持っていない。飼育環境が涼しいと、日光浴をしようと考えたボールパイソンは、熱すぎるホットロック(電気で温められた人口岩)やヒートパッドの上にも自ら進んで座ろうとするだろう。とあるボールパイソンは、白熱電球の上にいたために腹部が焼かれてしまい、ケージのなかに肉の焦げた匂いが立ちこめてしまったこともあった。

 「ボールパイソンのために準備した暖房器具や日光浴用の場所の温度は40℃を超えないようにする」というのは、ボールパイソンの飼い主にとっての最大の義務の一つである。1分間ほど手に持ってみて、熱いと感じるような物は全て、ボールパイソンが寝そべるには熱すぎる物である。

 普通、典型的な熱傷は、火傷した腹部を触ると、硬い手触りを感じるものである。患部をくわしく調べると、色の薄いうろこが黄色くなっていて、うろこの間の皮膚が赤く炎症をおこしているのがわかる。火傷した部分が床材に触れないように、ヘビが胴体を弓なりに反らせていることもある。重度の熱傷の場合には、表皮が文字通り焼け爛れ、その下にある炎症して濡れた真皮がさらけ出されていることもある。我々は、真皮が溶かされてヘビの体腔が見えているようなひどい熱傷を見たことがある。

 腹部にひどい火傷を負ったボールパイソンは、もっとも哀れな生物の一つである。火傷した場所及び組織の損傷の深さによっては、熱傷は致命傷にもなりうる。はじめて火傷を調べる際には、損傷の程度を正確に判断することは難しいだろう。目で見ただけでは、腹部の厚い皮膚がどこまで火傷したのかを判断するのは困難である。脱皮をした後になってはじめて、火傷の程度が的確に判断できる場合もある。明らかに重傷の場合には、安楽死が必要なケースもある。ヘビが生き延びたとしても、熱傷が回復するのは時間がかかり、何ヶ月、時には1年以上もかかることもある。

 ボールパイソンの皮膚は、ほとんどの傷から回復できるという奇跡的な能力を持っている。火傷した部分や切り取られた部分ですら、失われたうろこが完全に再生することもある。傷が残るかもしれないし、傷が治った部分のうろこの並びが不規則になることもあるが、通常は、普通の色と模様が戻ってくる。

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