Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P257  寄生虫

 寄生虫とは、他の生物(宿主)を食い物にして、その体表や体内で生きる生物のことである。寄生虫は強制的に宿主を犠牲にして、宿主から栄養を奪うこともあれば、その存在と活動によって宿主の肉体を傷つけることもある。

 もちろん、どんなパイソンの表面や体内にも、さまざまな生物が数多く群生している。それらは片利共生あるいは共生的な微生物で、その存在は宿主に対して無害もしくは有益なものである。ボールパイソンの体表面は、細菌やその他の微生物で覆われており(ボールパイソンの飼い主の体表面も同じことだが)、ボールパイソンの消化管には、さまざまな細菌や原生動物が詰まっている。それらの一部は、明らかにボールパイソンの消化能力を助けている。

 ボールパイソンと関連している正常かつ健康な微生物群の多くは、病気や疾病をひきおこす、あるいはその一因となる場合がある。それらは“日和見性を持っている”と呼ばれており、特別な場合(たいていは宿主の免疫反応が抑圧された場合)においては、健康問題をひきおこす可能性があるという意味である。病原体と寄生虫を区別する境界線はあいまいであり、単細胞の原生動物や球虫を病原体と見なしている人もいれば、それらを寄生虫と見なしている人もいる。

 ボールパイソンの寄生虫は、外部寄生虫と内部寄生虫に大きく分けることができる。外部寄生虫の二大種(ダニとマダニ)の発見法及び治療法については、本書の別の章で解説しているので、ここでは主に内部寄生虫(飼い主からは「ワーム」と呼ばれることが多い)について説明していこう。

 宿主のボールパイソンに寄生する一般的な外部寄生虫には、以下のような種類が含まれている。ボールパイソンにおいては、さまざまな線虫(鉤虫、蟯虫、円虫、蛔虫、回虫)が発見されている。自然捕獲されたボールパイソンには、条虫(いわゆるサナダムシ)が一般的に見られる。ボールパイソンに寄生する吸虫は、複数の種類が存在している。舌虫属の舌虫(別名:肺虫)も、自然捕獲されたボールパイソンで時々発見される。

 これらの寄生虫のうち、ヘビからヘビへ直接伝染するのは少数である。ごく稀に、ヘビが自分自身に再感染して、寄生虫が飽和状態になってしまうことがある。直接的な伝染力のある寄生虫は、「直接的な生命周期」と呼ばれるライフサイクルを持っている。このグループには鉤虫・蟯虫・円虫などが含まれる。一般的に言って、こうした寄生虫は重大な健康問題をひきおこすことはないが、その密度が高くなれば、さまざまな問題をひきおこすことがある。こうした寄生虫は、フェンベンダゾール(体重1kgにつき25mg)を1週間ごとに4回与えると、症状を緩和することができる。

 フェンベンダゾールの商品名はPanacurである。我々はなるべく、適切な分量を餌に注射して、治療が必要なヘビにそれを与えるようにしている。また、線虫を駆除する際には、ピランテル・パモエート(商品名Strongid T 体重1kgにつき0.1ml)を1週間ごとに2回与えることもある。クリンゲンバーグの報告によると、フェンベンダゾールの標準服用量の5000倍を投与しても、悪影響は見られないという。さらに、爬虫類がフェンベンダゾールの過剰摂取により死亡した例はないと述べている。Strongid Tを使用している我々の経験も、それを裏付けるものである。

 家ネズミ(マウスとラット)によく寄生している線虫は、蟯虫である。この蟯虫は哺乳類に寄生するタイプであり、ヘビには直接伝染しないが、ネズミの蟯虫の卵はヘビの消化管を通過してしまうので、糞便検査をした時に、ヘビの蟯虫の卵だと誤認されてしまうことがある。蟯虫がいると診断されたパイソンでも、実際には、餌のネズミについていた蟯虫が体内を通過しただけだったという場合も多い。

 寄生虫の多くは、ライフサイクルを完成させるために、異なる種の複数の宿主を必要としている。これは「間接的な生命周期」と呼ばれる。たとえば、感染段階にある未発達の蛔虫が、ネズミに寄生していて、それを食べたヘビが蛔虫に感染したとする。この場合、ネズミは「中間宿主」と呼ばれ、ヘビは「一次宿主」もしくは「固有宿主」と呼ばれる。ヘビの体内に入った蛔虫の幼虫は、性的に成熟して卵を産み、卵は宿主の糞便に混じって外部の環境へと送り出される。孵化した卵は感染段階の幼虫となって中間宿主を探す。こうして生命周期が完成する。

 ここで大事なことは、間接的な生命周期を持った寄生虫は、ヘビからヘビへ感染することはないということである。ボールパイソンの寄生虫のうち、間接的な生命周期を持っているのは、蛔虫・条虫・吸虫・舌虫である。自然捕獲したボールパイソンには、こうした寄生虫が何種類も寄生している場合があるが、飼育環境あるいは中間宿主がいない状況では、こうした寄生虫が他のヘビに感染することはない。

 蛔虫は他の線虫と同様に、フェンベンダゾールやピランテル・パモエートで治療することができる。吸虫や条虫の場合は、通常、プラジカンテル(商品名Droncit 体重1kgにつき5mg)を注射もしくは錠剤で投与することにより治療できる。我々は、条虫を駆除する場合には、錠剤(通常は錠剤のかけら)を餌の動物のなかに入れて、それをヘビに食べさせるという方法をとっている。吸虫の場合は、Droncitを注射するという方法をとっている。

 舌虫は治療するのが難しい。舌虫は大型の寄生虫で、パイソンの肺のなかにどれだけの数の成虫が寄生しているのか不明である。舌虫はイベルメクチン(体重1kgにつき0.2mg)を1週間ごとに数回注射することで治療できるが、問題は、肺のなかで大量の舌虫が突然死んでしまうと、ヘビにとっても致命的な結果をもたらしてしまうということである。治療を必要とするような症状が見られないのなら、舌虫はそのまま放っておくのが一番無難なのではないかと思う。我々の経験から言うと、飼育してしばらく経つと(普通は2年ほど)、舌虫は寿命が尽きて、宿主の体から絶滅してしまうようだ。

 ヘビのダニを退治するために作られたダニ避けテープ(ジクロルボスが沁みこんだ紙片型の害虫駆除薬)の匂いは、ヘビの肺に寄生している舌虫にとっては致命的になる場合があるので注意するように。舌虫は、飼育孵化及び飼育繁殖されたボールパイソンには寄生しておらず、自然捕獲されたボールパイソンにも広く存在しているものではない。

 ボールパイソンの腸には、さまざまな原生動物の寄生虫が見られる。そのなかには、アメーバ・球虫・鞭毛虫などが含まれている。これらの寄生虫は全て、下痢・体重減少・脱水症状をひきおこす原因となる。アメーバ症及びアメーバ赤痢の症状のなかには、粘液の混じった血便も含まれている。原生動物(特にアメーバ)の密度が高くなると、宿主のボールパイソンが早い周期で何度も脱皮を繰り返すようになる場合もある。

 鞭毛虫はボールパイソンの腸に普通に生息している生物であるが、その数が爆発的に増加することがある。鞭毛虫の数が多すぎるボールパイソンは、尿酸の小さな染みをケージのあちこちに残す場合がある。通常、ボールパイソンが一定量の尿酸を出すのは、排便の時だけで、それ以外の時に尿酸を排出することはない。注意深い飼い主なら、ボールパイソンがケージの床材の紙の上に、尿酸の小さな染みをいくつも残しているのに気がつくことだろう。

 全ての原生動物の寄生虫は直接的な生命周期を持っていて、ヘビからヘビへと感染することができる。なかには感染力の非常に強いものもいる。ほとんどは新鮮な糞便と接触することで感染するので、飼い主の飼育衛生管理が不十分だと、感染が拡大することになる。アメーバと鞭毛虫は、メトロニダゾール(商品名Flagyl)で治療することができる。何年もの間、メトロニダゾールの投薬量は体重1kgにつき25〜50mgを、1週間ごとに2回与えるというものだった。コルムステッターの最新の報告によると、理想的な投薬量は体重1kgにつき20mgを1日おきに与え、それを10回続けることだそうである。普通、メトロニダゾールは錠剤タイプで市販されている。我々はなるべく、錠剤を餌の動物に入れて、それをヘビに与えるようにしているが、1日おきに10回餌を与えるというのは、ボールパイソンの消化能力を超えてしまうかもしれない。

 球虫はスルファジメトキシン(商品名Albon)で治療できる。お薦めの投薬方法は、体重1kgにつき50mgを3日続けて与え、3日間中断してから、また3日続けて与えるというものである。

 一般的な事実として、野生のボールパイソン(特に1歳以上になってから自然捕獲された個体)は、多数の寄生虫を抱えていると考えたほうがよい。飼育孵化及び飼育繁殖されたボールパイソンが、内部寄生虫を持っていることは稀である。我々が自然捕獲されたボールパイソンを入手した時には、まずヘビを快適な状態にして餌を与える。それから、餌のなかに薬を仕込ませる。最初はメトロニダゾール(体重1kgにつき50mg)を与え、1週間後にはピランテル・パモエートを与え、三週目には再びメトロニダゾールを与え、四週目には再びピランテル・パモエートを与えて治療を終える。最初にこうした治療をおこなった後は、飼育しているボールパイソンに寄生虫治療をおこなうことはほとんどない。

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