Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P264  生の終わり

 たいてい、飼い主のほうがペットよりも長生きするというのは、動物を飼う者の宿命である。一般的に飼育されているペットで、人間よりも寿命が長い動物と言えば、オウムとカメぐらいである。実際、ボールパイソンは40年ほど生きることもあるので、あなたの年齢によっては、あなたが高齢者になった時にも、現在と同じボールパイソンを飼っているという可能性も十分にあるだろう。

 ボールパイソンの“標準的な”寿命を決定するのは何だろうか? あるボールパイソンが成熟して40年以上生きたからと言っても、ボールパイソンの平均寿命が40年だということにはならない。自然界で孵化した何百万という赤ん坊のヘビのうち、生きて1歳を迎えることができるのは、全体の10%以下だろう。5歳まで生きるのは、ごく少数だろう。自然界において完全に成熟することができた(7〜10歳頃の)ボールパイソンは、餌が豊富にあって外敵から身を守れるような立派なテリトリーを見つけて、そこに定住している個体ではないかと考えられる。そうしたヘビはさらに10年か20年生きることができるかもしれない。しかし、そうやって生き残ることができたヘビは、同じ年に誕生した全てのヘビのなかのほんの一部にすぎない。

 飼育環境においても、同じようなものである。もしペットのボールパイソンの年齢調査をして、ボールパイソンの年齢をX軸に、飼育されている数をY軸にしてグラフを作ったとしたら、そのグラフは急激な右肩下がりになるだろう。1歳のヘビは数多くいるが、5歳のヘビはそれよりもはるかに少なく、10歳のヘビはさらに少なくなり、その先はゆっくりと減少していくだろう。この文章を書いている時点では、40歳を超えたボールパイソンは1匹しか知らない。

 一見したところ、何十年も生きているペットのボールパイソンの数が少ないのは、爬虫類繁殖の失敗が原因ではないかとも考えられる。しかし、成長するにしたがってボールパイソンの数が減少するのは、(人間を含め)あらゆる動物にあてはまることである。事故・病気・脱走・飼い主のミスなど、これら全てがペットのボールパイソンの死亡率に関わっている。自然界において、外敵・干ばつ・飢饉・寄生虫などが死亡率に関わっているのと同じである。ほとんど全ての動物にあてはまることだが、自然界であれ飼育環境であれ、ボールパイソンが老衰で死亡することは稀である。最高のケアをしていても、いつの日かあなたのボールパイソンは死んでしまう。

 我々に言わせると、ペットのボールパイソンの“標準的な”寿命は10〜20年の間である。これだけの年数があれば、肉体的にも性的にも十分成熟することができる。この文章を書いている時点では、飼育されているボールパイソンの成体のほとんどは、数歳の若い個体である。この結果は予想されたものである。と言うのも、ボールパイソンの飼育管理がうまくいくようになったのは比較的最近のことであり、ボールパイソンに人気が出てきたのもごく最近の風潮だからだ。将来的には、ペットのボールパイソンの平均年齢が上昇するだろうと予想している。

 治療不可能な病気や外傷の場合には、安楽死させるのが一番慈悲深い方法である。安楽死とは、人道的な方法で死を与える行為のことである。人道的な死とは、痛みや苦しみのない死ということである。爬虫類に一般的にほどこされる安楽死の方法はいくつかあるが、どれが一番効果的でどれが一番人道的かについては、意見が分かれている。

 広く受け入れられている安楽死の方法は、バルビツール酸塩の過剰投与である。バルビツール酸塩は通常はペントバルビタール(商品名Nembutal)の形で流通されており、体腔内注射や心臓注射によって過剰投与することができる。もちろん、ペントバルビタールを入手することが必要となる。獣医のなかには、バルビツール酸塩を入手するのに必要な認可や事務手続きを守っていないものもいる。あなたの獣医が使っているペントバルビタールやその他のバルビツール系薬物が、安楽死のために用意されたものであることをきちんと確認するように。

 我々はケタミンの過剰投与により安楽死させられたパイソンを見たことがある。しかし、ケタミンを大量に投与しても、パイソンを深く鎮静させるだけで、1〜2日後には目覚めてしまうといったケースもある。安楽死の薬物として、ガス麻酔薬を使用した場合にも同じことが言える。ハロタン、イソフルレン、クロロホルム、メトキシフルランなどは非常に効果があり、人道的な安楽死をもたらすガス麻酔薬である。しかし、麻酔をかけられたボールパイソンの呼吸がとても遅くなり、薬物の吸収が抑制される可能性があるので、長い間ガスにさらしておく必要がある。同様に、二酸化炭素ガスも急速に意識を失わせることはできるかもしれないが、呼吸数が低下するので、長い間ガスにさらしておく必要がある。エーテルはもっと効果があるかもしれないが、きわめて爆発性の高いガスなので、エーテルを取り扱う際には、細心の注意が必要である。

 安楽死には物理的な方法もあるが、ペットのヘビに対して使われることは稀である。頭部に打撃を加えて頭蓋を破壊するという方法は、一般に認められた安楽死の手段である。ほとんどの獣医学関係の文献には、爬虫類や哺乳類の場合、首を切り落とすのがふさわしい方法だと書いてある。しかし、首を切り落とした直後に、爬虫類の脳の中心部(脳髄)を破壊することが必要だとも述べている。こうした方法は、ペットのボールパイソンやその他のヘビを安楽死させる場合によく使われるものではないが、そういう方法もあるということを知っておくのは大切である。自動車に轢かれて致命傷を負ったヘビを安楽死させる場合には、頭部打撃法が特に使われることが多い。

 ボールパイソンを安楽死させる時に一番よく使われている方法は、ヘビを袋のなかに入れて、それを普通の冷凍庫に入れるやり方である。ヘビの体温が下がると、新陳代謝の速度が低下する。凍死する前のどこかの時点で、ヘビは冬眠状態になって感覚を失い、刺激に対して反応しなくなり、遂には凍死する。この方法は賛否両論ある。フライは安楽死の方法として認めているが、クーパーは、この方法は皮膚や細胞に氷が結晶して苦痛をともなうので非人道的だと主張している。

 我々は今までに何度か、温かい建物のなかから雪の降る外へと自分から脱走して、すぐに凍死してしまったパイソンの姿を目にしたことがある。そういう場合、ヘビは恐怖や苦痛を感じさせることなく、体をまっすぐに伸ばし、這っている格好のまま死んでいた。我々の観察結果から言わせてもらえば、ボールパイソンが凍死した場合は、安らかで人道的な死をすぐに迎えるものである。

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