Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P225  ボールパイソンの卵に関する歴史

 20世紀の前半から1960年代頃までは、アフリカから輸出されたボールパイソンのほとんど全部が成体だった。アフリカの輸出業者やアメリカの輸入業者が、自然捕獲した妊娠中のメスと他のボールパイソンを区別して扱うことは稀だった。妊娠中のメスに気づくことはあっても、その卵の孵化に成功した例はほとんど(あるいは全く)なかったので、動物業者たちはそれを手元に残しておこうなどと考えもしなかった。結局のところ、卵は孵化しないだろうし、卵を産んだ後のメスは老いぼれ婆さんになってしまうので、客に売っても文句を言われるのがオチだったからだ。アメリカに輸入された妊娠中のメスは、妊娠していることに気づかれないまま、ペットショップの販売経路を流通していた。そのため、冬の季節にペットショップに行くと、妊娠中のボールパイソンを知らぬ間に買っていたということも十分ありうる話だった。

 その当時、アメリカ国内の飼い主は(プロも含めて)、ヘビの性別判定をすることが稀だった。ほとんどの場合、「オス」や「メス」と認定されたボールパイソンを購入することはできなかった。動物園の爬虫類担当の飼育係でさえ、自分たちが飼育しているヘビの性別を知らないことが多かった。ヘビに関して言えば、動物業者が扱っているのは、大きいヘビか小さいヘビのどちらかだった。ボア種やパイソン種の性別が判明した時でも、通常はそのヘビの骨棘の大きさにもとづいて判断されており、それはボールパイソンの性別を判定するのに信頼できる方法ではなかった。

 その当時は、ヘビの取り引きにおいて、ボールパイソンの数は多くなかった。1960年代以前の数はわからないが、それは記録そのものが残っていないためである。我々は当時のことをよく知っているが、当時のペット取り引きはアメリカ原産の動物で満ちあふれていた。大量に売買されていた動物種の多くは、フロリダか南テキサス原産のものだった。大小さまざまなボアや若いグリーン・アナコンダなどが、数多く輸入されていた。アジアやアフリカ産の爬虫類の輸入数は、アメリカ産の数には到底及ばなかった。送料も高かった。多くの場合、生体は船便で送られてきたが、その国からの距離が遠くなればなるほど、動物が死亡する率も高くなった。年をとった大型のヘビのほうが、長期間の輸送に耐えることができた。11月下旬から2月の間に購入した太ったボールパイソンが卵を産む確率も高かった。しかし、産卵したボールパイソンの卵が孵化しない確率もそれ以上に高かった。

 実際には、そうした卵のいくつかは、勤勉な(あるいは幸運な)飼い主の手によって孵化していた。それがどのくらいの数だったのか、孵化に成功したのは誰だったのかはわからない。そうした孵化が記録あるいは報告されることはほとんどなかったからだ。数少ないイベントで、こうした孵化に関する文献が出版されることはあったが、そうした情報が現在のように広く知れ渡ることはなかった。爬虫類繁殖に関する情報の多くは、個人的な経験から得られたものだった。そうした貴重な情報は、各自の経験を通して、それを手に入れることができた飼い主たちによって、門外不出とされることも多かった。情報が公開された場合でも、地方レベルにとどまっていた。国内及び世界各地と交流できる手段が少なかったからだ。

 1960年代後半から1970年代、爬虫類繁殖の黎明期において、飼い主たちはヘビの卵の孵化に成功しはじめた。動物の輸入業者たちはすぐに孵化に関する知識と経験をものにした。そうした人々は、ヘビと接触することで経験を積もうとしていた若い見習い飼育員たちから学ぶことも多かった。ボールパイソンの輸入数が毎年増えるにしたがい、輸入業者たちは妊娠中のメスを選り分けて手元に残し、自らの手で卵を収集・孵卵・孵化させはじめた。1980年代になると、主に輸入業者によってアメリカ国内で孵化したボールパイソンの赤ん坊が、ペット市場に広く出回るようになった。

 すると、アフリカの輸出業者がすぐにその噂を聞きつけた。彼らはヨーロッパやアメリカ向けの出荷分のなかから、妊娠中のボールパイソンを選り分けて、それを確保しはじめた。彼らはメスから採取した卵を孵化させて、赤ん坊を輸出するようになった(こうしたビジネスは、ボールパイソンの“農場”や“牧場”と呼ばれることもある。しかし、実際に建物内で孵化させることは稀である)。1990年代の半ばには、フロリダの輸入業者が妊娠中のボールパイソンを受け取ることはほとんどなくなっていた。

 それ以来、アフリカで自然採取した卵を現地で孵化させるというこの方法が、ボールパイソンの赤ん坊の最大の入手法となっている。こうした赤ん坊は正しくは「飼育孵化」されたボールパイソンと呼ぶべきであり、本当の意味で「飼育繁殖」されたボールパイソンとは異なる。しかし、毎年販売されている赤ん坊のうち、アメリカ国内で本当に飼育繁殖された赤ん坊の割合も着実に増加傾向にある。

ボールパイソン大百科 目次に戻る

トップページに戻る

inserted by FC2 system