Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P227  孵卵

 同業者や先輩の人と話をしていてわかったのだが、1960〜1970年代当時には、多くの飼い主がナミヘビの場合と同じ温度で、パイソンの卵を孵化させようとしていたそうだ。無論、その温度ではパイソンの卵はうまく孵化しなかった。ほとんどのナミヘビの卵と比較すると、パイソンの卵はサイズが大きくて、より大きな赤ん坊が産まれ、より短い時間で孵化する傾向にある。こうしたことを考慮すると、大型のパイソンの卵は、ほとんどのナミヘビの卵よりも高い温度で孵化させるのがよいというのは驚くべきことではない。パイソンの卵を孵化させようと試みていた最初の頃は、成功よりも失敗の報告のほうが多かった。後になってわかったことだが、失敗の原因は孵化の温度が低いせいだった。

 その後、一般的にパイソンの卵は孵化するのに高い温度を必要としているということを飼い主が理解するようになり、卵を温める方法としてさまざまな実験をおこない、その結果、さまざまな問題と直面することになった。そうした試行錯誤を繰り返した結果、現在では、パイソンの卵の孵化に関する知識ははるかに深まっており、初期の頃に発生していた問題に対する実用的な解決法も用意されている。

 我々の孵化方法を簡単に説明すると、次のようになる。メスからクラッチを取り上げて、孵卵箱のなかに入れる。孵卵箱のなかには、孵卵用の床材が部分的に詰めてある。孵卵箱の蓋を閉めて、それを孵卵器に入れる。これだけである。では、くわしく説明していこう。

人工孵化と自然孵化

 「人工孵化」という言葉は、母親から卵を隔離して孵化させる全ての方法を指す。一方、「自然孵化(母体孵化)」という言葉は、母親が卵のそばにいる状態で、卵を孵化させる全ての方法を指している。抱卵中に体温調節ができるパイソン種の場合には、どちらの方法がいいのか、飼い主の間でも意見が分かれている。自然孵化の最大の利点は、孵卵器を使うよりも、メスのほうがクラッチの温度をうまく調節できることだと語る飼い主もいる。孵卵器を持っていないという単純な理由から、自然孵化を支持している飼い主もいる。そうした飼い主は、母親が孵卵器の役割を果たしてくれるのを期待しているのだ。

 我々の経験と観察にもとづいた意見を述べるなら、我々は、飼育環境で抱卵しているメスのパイソンよりも、はるかに優れた仕事をしている。我々は決してメスのパイソンに抱卵させるようなことはしない。その理由は、卵の成長を観察することができない場合が多いからである。ボールパイソンの場合においては、我々が卵を調べようとしても、抱卵中のメスが派手に騒ぎたてるようなことはめったにない。とは言え、孵卵器のなかに入れておいたほうが、卵の状態と成長具合をもっと簡単・手軽に観察することができる。

 ボールパイソンのメスは、クラッチの抱卵中に熱を発しない(体温調節をしない)ことがわかっているので、産卵の後、メスと卵を一緒にしておく必要性はない。ボールパイソンのメスがクラッチをうまく抱卵するためには、基本的に、メスが卵と一緒にいるために必要な温度と湿度を作り出す孵卵器を作らなければならない。そこで、合理的な結論はこうなる。母親なしで、卵専用の孵卵器を作ったほうが手っ取り早いのではないか?

自然孵化

 もしあなたがボールパイソンのメスをクラッチと一緒にしておく方法を選ぶのなら、いくつかの重要な点を考えておかなければならない。もちろん、考慮すべきポイントは、温度、湿度、卵を濡れないようにすることの三つである。

 メスが卵の上でとぐろを巻いている休息エリアの温度は、32℃(±1〜2℃)にしなければならない。実際には、自然採取した卵に関する情報や、卵を孵化させているアフリカの輸出業者の話などから判断すると、休息エリアの温度があと数℃高くても大丈夫だと思われるが、個人的な経験はないので、その件に関してはコメントを控えておく。

 最大限の湿度のある抱卵環境を作る必要がある。メスが抱卵しているようなオープンな状況で、100%の相対湿度を作り出すことは、おそらく不可能だろう。しかし、密閉状態を作り出す必要はない。メスがクラッチの周囲にとぐろを巻いて、卵からの水分蒸発を防いでいるからだ。

 卵の重さを量っておくと便利である。そうすれば、あなたとメスが作り出している環境のなかで、卵がどういう状態にあるかについて客観的な考えを持つことができる。心配する必要はない。あなたが卵を戻せば、すぐにメスは元通り卵のまわりでとぐろを巻くだろう。メスと卵の重さを一緒に量ることも可能だが、ボールパイソンのメスは抱卵中にも水を飲んだり(飼い主が与えれば)餌を食べたりすることもあるので、体重が変化しやすく、卵だけを量った時に比べて正確ではないだろう。

 長年の間、我々は、自然孵化でクラッチを育てていて、その一部や全部を失ってしまった多くの飼い主と話をしてきた。彼らは、クラッチが濡れた床材の上に置かれていることに気づいていなかったのだ。これが自然孵化の問題点の一つである。卵の様子がチェックしにくく、何か問題がおきても、それに気づくのが遅れてしまい、問題を改善して卵を救うことができなくなってしまうのだ。湿度を上げるために休息エリアに霧吹きで水をスプレーする際には、水分が床材に染みこまないように注意すること。卵は、基本的に乾燥した表面の上に置かなければならない。

 ビルマ・パイソン種(Python molurus bivitattus)やグリーン・パイソン種(Morelia viridis)は、メスが卵につきっきりになる代表的な例である。この種のメスのほとんどは、抱卵している間は決してクラッチを離れようとしない。メスの多くは餌を与えても食べようとせず、ほとんどは抱卵している間はほんの少ししか水を飲まない。こうした卵につきっきりになるタイプのヘビは体温調節が可能であり、卵を温めるために体温を上昇させることができる。ボールパイソンは抱卵中に体温を調節できるタイプではないことがわかっている。ボールパイソンのメスのなかには、どちらかと言えば抱卵に無頓着なものもいる。そうしたメスは抱卵中にクラッチを離れて、日光浴をしたり、徘徊したり、餌を食べたり、水を飲んだり、脱皮することもある。

 ボールパイソンに自然孵化をさせる場合、飼い主には強い精神力が必要である。なぜなら、自然孵化をさせた場合、通常、卵が安定する前の初期の段階で、卵の重さが減少して、窪んだり、一部がつぶれたりすることが多いからだ。また、卵が黄色っぽくなることもあるが、それはおそらくミズゴケやその他の床材の色がうつってしまったせいだろう。自然孵化させた卵のほとんどは、人工孵化させた卵のように、しっかりとした純白の卵ではない。けれど、条件が正しいなら、母親に任せていた卵は問題なく孵化するものである。

 オーブレットは2005年の報告のなかで、「人工孵化よりも、自然孵化で誕生した赤ん坊のほうが、より大型で、より活動的である」と結論づけているが、これは我々の経験とは異なる。我々は人工孵化の方法を用いて、全ての有精卵を基本的に100%孵化させている。その結果誕生した赤ん坊は、自然孵化で誕生した赤ん坊と比べて、あらゆる点においてほぼ同じだとしか思えない。そこで、我々はオーブレットの結論が正しいとは考えておらず、むしろこのデータは「(最高とは呼べないような)準理想的な孵化の環境においては、抱卵するメスがいるほうが、卵がうまく孵化して、赤ん坊が生き延びる確率が増加する」と解釈すべきではないかと思っている。また、もう一つ指摘しておきたいのは、彼らのデータによると、孵化の失敗と抱卵中の卵からの水分蒸発との間には、強い相関関係が明らかに見られるということである。これはヘビのブリーダーにとっては何十年も前から常識になっていたことだが、この事実をきちんと数字で示した文献は他には知らない。

孵卵器(孵化器)と孵卵箱

 孵卵器と孵卵箱は、別個の物である。孵卵器は密閉した空間に均一の温度を作り出す装置である。孵卵箱は孵卵器のなかにあって、必要な湿度を内部に保っている保存容器である。

 多くの飼い主がその二つをまとめて、卵を直接入れるタイプの孵卵器を作ろうと努力を重ねてきた。一見いいアイデアのように思えるのだが、それを成功させるのはかなり難しい。問題は、孵卵器の目的は内部の温度を均一に保つことであるにもかかわらず、実際には孵卵器自体の内部温度が均一ではないというところにある。

 孵卵器のどこかには暖房装置があって、温度を調節するために作動・停止を繰り返している。こうしたシステムは結露や湿度の問題をひきおこす可能性があり、実際に問題をひきおこすことが多い(後の項で、くわしく解説する)。孵卵器内の空気は、内部に設置された扇風機によってかき回され、均質な温度になるかもしれないが、卵の周囲を流動する空気が問題をひきおこして、孵化が失敗してしまうこともある。

 初期の頃には、飼い主たちは、多くの大型のパイソンの大型の卵を孵化させるためには、孵卵器を使わなければならないことを知っていた。しかし、多くの飼い主が、湿度管理や結露といった深刻な問題に悩まされていた。1980〜1990年代において、飼育しているパイソンの孵化の成功例が着実に増加するようになった原因は、飼い主が孵卵箱を使用しはじめたことによるものだった。

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