Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

孵卵箱と孵卵用床材(続き)

結露の実験

 結露の様子を自分の目で確かめるために、次のような実験をしてみるといいだろう。プラスチック製のゴミ箱(サイズは何でもいい)を用意し、水を10cmほど入れ、ガラス板で蓋をする。それを孵卵器のなかに入れて、ゴミ箱と蓋を均等に温めて、32℃(ボールパイソンの卵が孵化するのに適した温度)にする。数時間後、ゴミ箱が均等に温まって周囲の温度と同じになった時、ゴミ箱のなかには結露は見られないだろう。ゴミ箱のなかに温度計のプローブを入れて温度を計ったら、どの部分も同じ温度になっているだろう。空気と水は同じ温度になっている。ゴミ箱の内面の温度と、外面の温度も同じになっている。何もかもが32℃であり、どこにも結露は見られない。ゴミ箱のなかの空気は均衡がとれて、湿度は基本的に100%の状態になっている。

 さて、32℃にセットされた孵卵器のなかには、ガラス板で蓋をされたゴミ箱が入っている。そのガラス板の上に、金属製の笠がついた15ワットの電球を、ゴミ箱のなかを照らすように設置する。すると、ゴミ箱の中央に入れた温度計は、空気の温度が先ほどよりも1〜2℃高くなり、その状態で安定していることを示すだろう。しかし、ヒートランプのない状態と比べると、ゴミ箱のなかはかなり様子が異なっている。今や、ゴミ箱のなかには、大量の結露が立て続けに発生している。ガラス板の一番温かい部分(ヒートランプの真下)は乾燥しているが、それ以外のガラス板の部分には大きな水滴ができて、ポトポトと滴り落ちている。ゴミ箱の内面にも、水滴が流れている。ゴミ箱は密閉されているので、湿気と水気はそこから外に出ることができない。しかし、水気はゴミ箱の内部でどんどん結露していく。

 よく観察すれば、空気よりも水のほうが少しだけ温度が低いことに気づくだろう。水分が蒸発すると、冷却効果が生まれるからだ。ゴミ箱の内面とガラス板の下面に結露ができるのは、ゴミ箱内の空気の温度が孵卵器の温度(32℃)よりも少し高くなっているせいである。ゴミ箱内の湿気はどんどん空気中から追い出され、ゴミ箱内の温度の低い表面で結露する。蒸発よりも結露のスピードのほうが速いため、ゴミ箱内の空気の湿度は100%以下になってしまう。常に結露が発生するような状況では、条件にもよるが、空気が非常に乾燥してしまう場合がある。

 

孵卵箱の結露

 時として、孵卵箱の一部が他の部分よりも温度が低くなってしまい、その結果、霧状の結露ができてしまうことがある。大きな水滴ができて、箱の内面や蓋の下面から滴り落ちるほどひどい状態ではなく、わずかに霧状の結露ができている程度ならば、特に問題はないかもしれない。

 しかし、湿ったバーミキュライトが半分入った温度ムラのある孵卵箱で、激しい結露がおきている場合は悲惨である。結露した水滴は孵卵箱の内面を滴り落ちて、バーミキュライトへと吸い込まれていく。その結果、外側部分にある(孵卵箱の内面に接している)バーミキュライトは完全に濡れてしまうが、中央部分にあるバーミキュライトは蒸発により水分を失う。こうして、中央のバーミキュライトは乾燥しているのに、外側のバーミキュライトはビショ濡れになっているという状態になってしまう。水分がバーミキュライトの濡れた外縁部に閉じ込められてしまうため、孵卵箱内の周辺湿度が急速に低下し、さらに、卵の上には水滴が落下し続ける。これはもう大惨事と呼ぶしかあるまい。

 飼い主は何年もの間、結露に悩まされてきた。ヘビの孵化の歴史の初期においては、飼い主はナミヘビの卵を、濡れた砂やバーミキュライトを敷いたガラス製の4リットル容器に入れて、母親ヘビを飼育しているケージの隣に並べて棚の上に置いておいたものである。日中の気温が高くなった時も、ガラス容器の内部は透き通っていた。日が暮れて気温が低くなると、ガラス容器のなかにうっすらと霧状の結露ができることもあった。卵が孵化する数週間前になると、ガラス容器のなかに常に霧状の結露ができるようになり、それは孵化が近いことを知らせるサインだった。結露はよいことを告げる前兆であり、当時の飼い主は結露のことを好ましく思っていた。

 多くの飼い主がパイソンの卵の孵化を手がけるようになる頃には、パイソンの卵を孵化させるには、たいていの室温よりも高い温度が必要だということを理解するようになっていた。飼い主はナミヘビの時と同じシンプルな手段(ガラス製の容器)を用いてパイソンの卵を孵化させようとしたが、そうした温度ムラのある孵卵箱ではうまくいかなかった。飼い主は結露ができたのを見て喜んだが、その結果を見て悲しんだ。ある飼い主は、結露ができたのを見て、孵卵箱のなかに水分が多すぎるのだと判断した。別の飼い主は、卵が乾燥しているのを見て、水分が足りないのだと考えた。水の量を変えたり、さまざまな床材を試したりして、数多くの実験がおこなわれたが、その結果はかんばしいものではなかった。初期の頃には、孵卵箱の温め方に問題があるということに気づいた飼い主は、ごく少数しかいなかった。

 実際には、1980年代後半から1990年代になるまで、パイソンの卵を扱った経験のある飼い主が少数しかいなかったということ自体が大きな問題だった。パイソンの卵を孵化させるためには、必要な温度環境を作り出す孵卵器が必要だと考えている飼い主はほとんどいなかった。たいていの飼い主は、メスのパイソンがクラッチの上でとぐろを巻いているのを発見してから、ようやく必要な温度環境を作りはじめるような有様だった。体温調節が可能なパイソン種の場合には、メスに卵を抱卵させておくのが一般的だった。飼い主は卵を濡らさないようにしながら湿度を最大限に上げる努力をする一方で、メスに温度を調節してもらおうと考えていたのだ。

 結露は現在でも多くの飼い主を悩ませている。現在の飼い主のなかには、「孵卵箱のなかに十分な水分があると、そのうちの一部が孵卵箱の内面に常に結露するのだ」と誤解している者もいる。そうした飼い主は、孵卵箱のなかに結露がないと、孵卵箱が乾燥していると考えてしまうのだ。大切なことなので、ここでもう一度繰り返しておこう。結露がおきるのは、湿気のある空気が、空気よりも冷たい表面と接触した場合である。孵卵箱のなかで結露ができるのは、孵卵箱の一部が、内部にある湿気を含んだ空気よりも冷たくなった時である。

 孵卵箱内に結露ができるのは、いつでも悪いわけではない。孵卵期間の最後のほうでは、自然に結露ができるものである。それは孵化が近いことを知らせる最初の兆候である。孵化の2〜3週間前になると、卵自体が熱を発するようになる。その時期、急速に成長しはじめた胎児が、熱を生成してしまうからである。温かくなった卵は、孵卵箱内の空気の温度をほんの少し後押しし、内部の空気は孵卵箱の内面よりもわずかに温かくなり、その結果、結露ができてしまうことになる。

 胎児が発達する段階において、ブルスネーク、キングスネーク、ラットスネークといったナミヘビの卵も、熱を発生させる。孵卵箱のなかに霧状の結露ができるのが、その証拠である。霧状の結露ができるためには、空気の温度がわずか0.1℃上昇するだけで十分である。ある種のパイソン(ボールパイソンを含む)の卵は、0.1℃どころではない。アフリカン・ロック・パイソンやビルマ・パイソンの大きなクラッチの場合、卵の生成した熱により、卵が集中したクラッチの中心部分の温度が6.1℃上昇したのを確認したことがある。

 ボールパイソンの卵の場合、孵卵期間の最後の2週間において、孵卵箱内の空気の温度は少なくとも2.2〜2.8℃上昇する。この時期には、多くの結露が発生する。しかし、以前にも述べたが、この時期の卵は重さが減少し、殻が窪んで張りを失うものである。孵卵箱の形と大きさによっては、バーミキュライトのような孵卵用床材の中心部分が乾燥して周辺部が濡れてしまうといったことがあり、そうした場合には、卵を持ち上げて床材をかき混ぜるのもいい方法である。「水分を補充しろ」と言っているのではない。床材をよくかき混ぜて、すでにそこに含まれている水分を再分配しろということである。

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