Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

孵卵箱と孵卵用床材(続き)

卵の重量変化

 卵の重量が増えたり減ったりするのは外部の要因による受動的なものであり、その外部の要因とは孵卵箱の水分量、及び、卵と水分の接触形態であると思われる。意図的に実験をおこなったわけではないのだが、我々の観察したところ、重量の増加・減少は、卵と接触している床材に含まれる水分量が大きく影響を与えていると考えられる。

 我々の観察によると、湿度100%の環境で、卵を孵卵用床材と接触させることなく空中に宙吊り状態にしておくと、孵卵期間の最後の数週間になるまで、卵の重さはほとんど変わらない。最後の数週間になると、卵が微熱を発して、水分を失って窪みができ、重さが軽くなる。

 空気の湿度が100%以下の環境で、卵が孵卵用床材と接触している場合、卵が置いてある床材の表面は、その保水能力の限界に達していない。この場合、卵は床材の乾燥の度合いに応じて重さが減少する。蒸発した水分が孵卵箱から外に出ていくような状態になっていたら、床材は徐々に乾燥していくだろう。ある種の孵卵用床材(特にバーミキュライト)は吸水性が強いので、空気中の蒸発した水分を吸収してしまう。乾燥状態が進行すると、卵の真下にあるバーミキュライトが水分を欲するあまり、殻を通して蒸発させるという形で卵の中の水分を吸収してしまう。こうして、卵の重さが減少することになる。卵の下の部分に窪みができて、へこんでしまうだろう。

 逆に、孵卵用床材が濡れすぎていると、床材の保水能力が限界を超え、余った水分が床材から簡単にあふれ出してくるだろう。こうした場合、浸透作用によって、卵が水分を取り込んでしまう傾向がある。浸透作用とは、水分が半透膜(この場合は卵殻膜)を通して、低濃度の溶液から高濃度の溶液へと移動する現象のことである。卵が濡れた孵卵用床材や表面と接触していると、卵はその水分を吸収し、サイズが大きくなって重さが増すことがある。ひどい場合には、肥大化した卵から水分があふれ出すこともある。このような肥大化した卵が実際に破裂したという報告も寄せられている。

 数年前、我々はパイソンの卵を使って小さな実験をおこない、孵卵環境で過度の水分にさらされた卵をうまく孵化させるための実用的な方法を調べたことがある。その結果、卵はさまざまな環境条件に適応できるということが明らかになった。我々はビルマ・パイソンの卵30個とスポット・パイソンの卵12個を使って、それらを半分ずつに分け、半数の卵をなんとか孵化できる最大限の高湿度状態のなかに置き、残りの半数をなんとか生存できる最大限の乾燥状態のなかに置いてみた。

 これが当初の実験だった。我々の目的は、発達にともなう卵の相違点を記録し、そこから産まれた赤ん坊を比較することだった。予想どおり、最初の1〜2週間で、濡れた孵卵箱のなかの卵は膨らみ、ほとんど球形になって重さが2倍になった。一方、乾いた孵卵箱のなかの卵は窪みができて平たくなり、元々の重さが半減してしまった。その後、卵は安定したようだった。と言うより、安定したか、それ以上変化することができないかのどちらかだった。

 孵卵期間が一ヶ月を過ぎ、我々は実験を少し変更することにした。乾燥した卵はどれも孵化できるとは思えなかったので、チャンスを与えてみることにした。我々は濡れた環境のなかにあるビルマ・パイソンの卵6個を取り出して、乾燥した環境のなかに移し、乾燥したビルマ・パイソンの卵6個を濡れた環境に移動させた。スポット・パイソンにも同様の処置をおこない、3個の卵を交換した。

 この交換をおこなった結果、元々の環境に残された卵の全てが、健康な赤ん坊を孵化させた。我々の驚いたことに、交換した卵の全てが、2週間以内に死滅してしまった。

 こうした観察の結果から言えるのは、卵は何らかの方法で環境に適応する、少なくとも当初の段階で接触した水分量に関して適応するということである。また、孵卵箱内のバーミキュライトの水分を増加・減少させる必要がある場合は、大きく変化させないことが大切だということもわかった。水分との接触が大きく変わると、卵は悪い方向に反応してしまうようだ。

 何年もの間、我々は孵卵期間中に重さが激変した多くのパイソン種(ボールパイソンを含む)の卵を見てきた。大きな卵と小さな卵において、赤ん坊の雌雄の比率が異なっているとは思えない。正確な数値データで示したことはないが、大きな卵や小さな卵から産まれた赤ん坊の大きさにも、明確な違いがあるとは思えない。大きく膨らんだ卵には、透明な液体が詰まっており、胎児は室内プールにいる時のようにそのなかで泳ぎまわっている。つぶれた卵には、胎児が孵化した時にも、透明な液体はほとんど入っていない。その二つのケースを比べると、大きく肥大化した卵のほうが、孵化する際には、より危険である。

 

バーミキュライトの配合

 もしバーミキュライトに孵卵用床材としての欠点があるとすれば、それは、完璧な床材を作るためには、どれくらいの水をバーミキュライトに加えればよいのかわからないという点であろう。つまり、問題はこういうことである。バーミキュライトは吸水性が高いので、店から購入した時点で、非常に乾燥していることもあれば、少し水を加えるだけでボールパイソンの卵を孵化させられるくらいの水分を含んでいることもある。購入した店の場所、商品の保管期間や保管場所といった条件にもよるが、バーミキュライトを購入した時点で、すでにかなり湿っている場合がある。我々は大きな茶色の袋(100リットル用)入りのバーミキュライトを、地元の園芸店からまとめ買いしている。袋の表示によると、6.6kgのバーミキュライトが入っていることになっているが、家に帰って重さを量ってみると、7.3kgの袋もあれば、10.4kgの袋まであった。重量が増えているのは、それだけの水分を空気中から吸収したということである。

 もしあなたが北部の州に住んでいるなら、あなたが購入したバーミキュライトは、南部の州で買ったものよりも乾燥しているだろう。北部の州においては、バーミキュライトやその他の園芸用消耗品は空調のきいた屋内で保管されていることが多いのに対し、南部の州においては、屋外の倉庫で保管されていることが多いからだ。地元のスーパーで小さなビニール袋入りのバーミキュライトを買ったとしたら、大きな茶色の紙袋で大量に買った場合よりも、乾燥していることだろう。

 我々が使うバーミキュライトの量は、卵のクラッチの重さの約2倍である。そして、一定量のぬるま湯を注ぎ込んで、その二つを両手でよくかき混ぜる。目標は、湿ったバーミキュライトを握りしめると塊になるけれど、それを突つけば簡単に壊れるような混合状態を作り出すことである。

 もし湿ったバーミキュライトを握りしめて手を開いた時に、塊がくずれてしまうようなら、それは水分が足りない。湿ったバーミキュライトを握りしめて、そこから水がしぼり出されてきた場合には、水分が多すぎる。バーミキュライトを握ってできた塊がなかなか壊れないようなら、それもまた水分が多すぎる。

 実際には、我々は孵卵箱のなかに1.8kgのバーミキュライトを入れ、そこに460mlのぬるま湯を入れて、手でよくかき混ぜ、“握りテスト”をして配合が正しいかどうか確認している。我々の住んでいるテキサス中央部では、バーミキュライトを購入した時点ですでに水分が含まれているので、この配合比率でうまくいっている。

 我々が現在使用しているバーミキュライトと水の配合比率は、1994年に出版した『Ball Python Manual』のなかで紹介した配合比率よりも、乾燥度が高いということを指摘しておく。当時の比率はバーミキュライト1.8kgに対し、ぬるま湯960mlだった。しかし、同書にも書いてあるが、これはバーミキュライトが乾燥している場合である。この比率で配合すると、我々が現在好んでいる床材よりも湿ったものになってしまうが、これでも別に問題はない。『Ball Python Manual』を出版した後、我々は多くの種において(ボールパイソンを含む)、より乾燥した配合比率の床材を意図的に使っている。

 バーミキュライトに含まれる水分量が変化するだけでなく、バーミキュライトと水の理想的な配合比率も、それぞれのパイソン種によって、明らかに違いが見られる。アフリカン・パイソンとグリーン・パイソンの場合、我々はボールパイソンよりも乾燥した配合をしている。一方、ブラッド・パイソンとボルネオ・ショートテイル・パイソンの場合は、ボールパイソンよりも湿った配合が必要となる。

 では、配合比率が正しいかどうか、どうやったらわかるのだろうか? 答えは簡単。卵の重さを量ればよい。1〜2週間後、卵の重さが増えているようなら、現在の床材に乾燥したバーミキュライトを混ぜ合わせ、さらに、卵を孵卵箱に戻す前に、卵の下に乾燥したバーミキュライトを薄く敷き詰めるのもいいだろう。また、卵の重さが減っているようなら、卵を孵卵箱の外に出し、孵卵箱の内側とバーミキュライトの上に霧吹きで水をスプレーする。その後、バーミキュライトの表面部分だけをかき混ぜてから、卵を戻すようにするといいだろう。数日後、再び卵の重さを量って、重さの減少が止まったかどうか確認すること。もし卵の重さが減り続けているようなら、同じ作業を繰り返すように。卵は最初に置かれた環境に適応するらしいということを忘れないように。だから、床材の変更は最小限にとどめること。

ボールパイソン大百科 目次に戻る

トップページに戻る

inserted by FC2 system