Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P236  孵卵器

 パイソンの飼い主はこれまでに多くの種類の孵卵器を使用してきた。あまりにも多すぎて、くわしく説明しきれないほどである。その代わり、ここでは優れた孵卵器に共通している重要なポイントを説明していきたいと思う。孵卵器とは、ある限定された空間の空気の温度を一定に保つ装置である。通常、孵卵器を構成する要素は、密閉された空間、密閉された空間を温めるためのヒーター(暖房装置)、ヒーターを制御するためのサーモスタット(温度自動調節装置)である。

 孵卵器は完全に温度が一定になっているわけではない。孵卵器内の空間の温度が下がると、ヒーターが作動し、サーモスタットの「設定温度」に達するまで空気を温める。すると、サーモスタットがヒーターを停止させる。その後、孵卵器は徐々に温度が下がり、再びヒーターが作動する。あとは、設定温度の前後で温度が上昇したり下降したりを延々と繰り返すことになる。設定温度とはサーモスタットによって設定された温度であり、孵卵器内の平均温度のことである。孵卵器を選ぶ場合の重要なポイントの一つは、サーモスタットによって設定できる温度の変動幅がどれくらいあるかである。

 たいていのサーモスタットには、ケースのどこかに小さなタグがついていて、その装置の詳細が記してある。タグには、入力電圧、出力電圧、出力ワット量、計測・制御可能な最高温度と最低温度、制御可能な変動幅などが記載してある。

 こうした要素は全て重要なものである。特にあなたが自分で配線をする場合にはとても大切なことなので、こうした言葉の意味がわからないなら、電気技師に相談すること。変動幅というのはわかりやすいが、これはある意味、サーモスタットを選ぶ上で一番重要な要素である。

 変動幅とは、つまりこういうことである。変動幅が「±5℃」と記されている場合、あなたがサーモスタットの温度を25℃に設定したとしたら、温度が20℃に下がるまでサーモスタットはヒーターを作動させず、温度が30℃になるまでヒーターはつきっぱなしになる。結局、10℃の温度幅があることになり、±5℃の変動幅のサーモスタットは孵卵器としては良くないものだと言える。孵卵器用としては、±1℃(できれば±0.5℃)の変動幅のサーモスタットが望ましい。

 孵卵器とは基本的には空っぽの大きな箱であり、温度を制御するために、外側にサーモスタットが、内側にヒーターが設置されている。良い孵卵器はきちんと断熱処理をほどこされ、内部の温度変化の速度を落とし、暖房-冷却サイクルの回数を最小限にするのが望ましい。実際には、孵卵器内の温度が1〜2℃変化しても、孵卵箱内の変動幅はそれ以下である。

 問題は、温められた空気は上昇するということである。たとえ孵卵器が小型であっても、内部の空気が停滞していれば、孵卵器の下部よりも上部のほうが空気の温度が高い。そこで、うまく設計された孵卵器には、もう一つの電気器具…内部の扇風機が設置されている。温められた空間の空気を攪拌することで、温度を均一にすることができる。扇風機がないと、温度にムラができて、孵卵箱内に結露ができてしまう。大型の扇風機を用意する必要はない。ほとんどの場合、近くのパソコン用パーツショップで売っている安い冷却用ファンで十分である。

家庭内の孵卵器

 家のなかを見回してみれば、孵卵器にちょうどいい場所が見つかるかもしれない。家庭によっては、湯沸かし器が設置されている納戸が、パイソンの卵を孵化させる適温にかなり近い温度になっていることがある。温度が低いようなら、断熱用の安い発泡スチロールを納戸の周囲に張り巡らせれば、温度が均等になって、数℃上昇させることができるかもしれない。

 冷蔵庫の上にある戸棚をチェックしてみよう。冷蔵庫の熱変換コイルによって温められた空気が上昇するので、たいてい温かい空間になっているものである。こうした戸棚のなかには、パイソンの卵を孵化させる適温にかなり近い温度になっていることがある。

 あなたの家の場所と天気の状態にもよるが、家の奥の寝室やガレージなどが、ちょうどいい温度になっていることがある。時には、温度が高すぎる場合もあるが、小型のエアコンを使えば、適した温度域に調整することができるだろう。

 もちろん、こうした家庭内の“自然発生的”な場所に、ボールパイソンの卵を入れた孵卵箱をゆだねる前に、その場所が本当に均一で正しい温度を持っているのかどうか確かめる必要がある。そのためには、データを事前に集めなければならない。空っぽの孵卵箱に床材だけを詰めて、温度が正しいかどうか確かめたい場所にそれを置く。温度計を使えば温度がわかるし、孵卵箱内の結露の様子を見れば、その場所の温度が均一になっているかどうかわかるだろう。

孵卵器としての部屋

 パイソンの卵を孵化させるのに、一番効果的で、かつ、作るのが一番簡単なのは、部屋型の孵卵器である。つまり、部屋そのものを温めるという意味である。我々は16年以上、この方法を使っている。大きな卵、大きな孵卵箱、多数のクラッチ…それなら、孵卵器を大きくしてしまえばいいではないか。

 我々は小さな寝室ほどの広さの部屋を、孵卵専用として使っている。この部屋には特別なところはない。ごく普通の部屋で、5×30cmの板でできた木の棚が並んでいて、その上に孵卵箱を置いている。サーモスタットは、変動幅のレベルが調節できるJohnson Controls社製のものを使っていて、変動幅はもっとも精密な±0.5℃に合わせてある。これは家庭用のサーモスタットであり、爬虫類繁殖のための専門商品ではない。そのため、特に値段も高くなく、信頼できる品である。

 このサーモスタットは、我々が使用しているヒーターを直接制御できるほどの出力がないため、その代わりに、リレースイッチと呼ばれる中継回路を制御している。つまり、サーモスタットがリレーのON/OFFをおこない、リレーがヒーターのON/OFFをおこなうわけである。我々はヒーターを2つ使っていて、両方ともオイル式の電気放熱器である(一つのヒーターでは、我々の孵卵部屋を満足に温めることができない)。さらに、この孵卵部屋に欠かせない要素が、二つの扇風機である。一つは床に置いてある40cm角の扇風機であり、もう一つは棚の上の高い場所に置いてある30cmの首振り扇風機である(訳注:P238の写真参照)。これらの扇風機が常に室内の空気をかき混ぜているので、部屋全体を均一な温度にすることができる。

 我々が使っているサーモスタットの値段は約100ドル、リレーが25ドル、ヒーターが各50ドル、扇風機がそれぞれ15ドルである。つまり、税や諸経費を含んでも約300ドルの出費だけで、約11平方メートルの面積の立派な孵卵室ができることになる。もちろん、孵卵室として使用できる空き部屋があることが前提条件である。しかし、あなたの家にも、それに適した部屋がおそらくあるだろう。そこを31〜32℃に温めればいいだけである。服を入れたまま、大型のクローゼットを温めることもできる。バスルームを温めてもよい。シャワーの蒸気があっても、卵が傷つくことはないだろう。あるいは、自分の寝室を温めて、2ヶ月ほどソファの上で眠ることだってできる。

 何年も前、我々が結婚した最初の年、我々は住んでいた借家の寝室の真ん中に、仮の壁を作ったことがあった。壁を支えていたのは5×10cmの板枠で、板枠は部屋の壁に固定したわけではなく、押し込んだだけだったので、部屋に傷をつけることもなかった。我々は仮の壁に、安いドアとドア枠を取りつけ、安い断熱シートを使って壁に断熱処理をほどこした。そして、壁で仕切られた部屋の半分を暖房して、孵卵室として使っていた。見た目は良くないが、効果は十分だった。卵が孵化した後、壁を取り壊したが、大家は何も気づかなかった。

 部屋型の孵卵器の最大の長所は、卵と一緒の空間にいられるということである。好きなだけ卵を見ていることができる。孵卵箱を開ける時でも、多量の水分を外に逃がすのはよくないかもしれないが、温度変化に関しては心配しなくてもいい。孵卵箱から多少水分が失われたとしても、問題ないかもしれない。なぜなら、今使っている孵卵箱は大きく、湿った床材がたっぷり入っているので、不足した水分を補給することができるからだ。より大きな孵卵器、より大きな孵卵箱、より多くの孵卵用床材、飼い主の観察機会の増加…全ての要素がスケールアップすることで、卵が孵化する確率も増加することだろう。

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