Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P239  卵の分離法

 パイソン(及びほとんどの卵生型のヘビ)の卵は、産まれた直後に互いにくっついてしまう。もちろん、卵は一個ずつ産まれるのだが、母親の排泄腔から出る時には、少しベトベトした粘液状の物質で覆われている。その後、卵は急速に乾く。産卵から1〜2時間後には、卵は白くなって乾燥している。接触したまま乾燥した卵同士は、しっかりとくっついている。

 クラッチのなかで卵同士がくっつく理由は明らかになっていないが、偶然の産物でないことは確かである。一説によると、卵を食べる種類のヘビがクラッチを見つけても、卵が飲み込めない(飲み込みにくい)ように、互いにくっついているのではないかという。別の説としては、互いにくっついていることで、周囲へ水分が蒸発するスピードを遅くできる、あるいは、床材に対する接触面を少なくできるからではないかというものもある。我々は、卵がくっついている最大の理由は安定性ではないかと考えている。卵が1個だと転がってしまうが、互いにくっついて塊になっていれば、とても安定するし、孵卵している間、クラッチのなかの卵がその方向(上下の向き)を変えることもない。

 たいていの鳥類は孵卵している間に卵を回転させる。しかし、爬虫類においては、卵を安定させて、その方向を維持することが重要であるらしい。他の爬虫類の卵は、ヘビのようにくっついていることはない。多くのヤモリ種の卵は床材にくっついている。ほとんどのトカゲ・カメ・ワニの卵は地中に埋められるので、孵卵中に回転することはない。通常、ヘビが卵を地中に埋めることはなく、むしろ開けた空間で産卵する。卵が互いにくっついてクラッチを形成しているので、孵卵している間も同じ方向を保っていられるのだろう。

 我々はパイソン種の卵を分離させたことが何度もあるが、それらのほとんどは、我々が毎年数百匹のビルマ・パイソン、アフリカン・パイソン、アミメ・パイソンを孵化させていた頃の話である。40〜50個の卵があるクラッチのなかで1個の有精卵が駄目になり、それを取り除かなければならなくなるというのは、珍しいことではなかった。ボールパイソンの場合は、1クラッチあたりの卵の数がはるかに少ない。卵を取り除くような機会は稀だが、普通、その方法は単純なものである。通常、ボールパイソンのクラッチでは、一つの卵にくっついている他の卵の数は、最大でも2〜3個である。一方、ビルマ・パイソンの大きなクラッチの中央にある卵の場合、触れることすら難しく、6〜7個の他の卵とくっついている場合がある。

 我々が新しいクラッチを扱う際、一番最初にすることは、それぞれの卵の上の部分に、黒鉛筆で小さな×印を書くことである。そうしておけば、後でクラッチを別々にしなければならなくなったとしても、それぞれの卵を本来の方向に戻しておくことができるからだ。

 ボールパイソンの卵はクラッチのなかでお互いにとてもしっかりとくっついているが、簡単に分離できる時が、孵卵期間中に3回ある。まず、産卵から最初の数時間以内ならば、簡単にクラッチから卵を分離できる。我々が新しいクラッチを扱う際は、この時点で明かりに透かし、異常卵を取り除き、それと同時に無精卵だと判断した卵も取り除く。異常卵は孵化することはないので、そのまま始末する。無精卵だと判断した卵が後になって有精卵だと判明するケースは稀なので、明かりに透かして血管が確認できなかった卵はクラッチから取り除くことにしている。しかし、それが大きくて健康そうな卵だったら、孵卵箱に入れて、数日間孵卵させて様子を見ることにしている。

 次に、孵化の直前になると、卵は接着力を失って、自然に離れるようになる。通常は、このような孵卵期の最終段階で、卵を分離させる必要はない。しかし、カビの生えた異常卵や無精卵がこの段階まで残っていたら、この時点で孵卵箱から取り除くこともできる。通常、我々はこの時点で全ての卵を分離させて、卵を少し離して並べ、孵化する赤ん坊が他の邪魔にならないようにしている。

 卵を簡単に分離できる第三の時期は、卵にカビが生えて、ベトベトしはじめた時である。普通は、指で強く押せば、周囲の卵からはがすことができる。低濃度クロルヘキシジンの消毒液を染みこませた綿や綿棒を使って、残された卵の表面(カビと接触していた部分)を拭いておくといいだろう。

 実際には、クラッチのなかの卵同士の接着力は全て同じではない。卵のなかには、軽くくっついているだけで、簡単にはがせるものもある。しっかりとくっついた卵でも、引っ張るだけではがせる場合もあるかもしれない。時には、卵をはがした時に、卵の表面が引きちぎられてしまう場合もある。こうしたことがおきた場合でも、他に問題がおきていなければ、卵に残された擦り傷は、孵化に何の影響も与えないだろう。しかし、殻がむけ始めると、ほんの小さな破片でも卵の内部を傷つけてしまう可能性があるので、状況はまったく変わってくる。本当に卵を分離すべきかどうかよく吟味し、作業を続行する場合には、細心の注意を払うこと。

 生きた卵であれ死んだ卵であれ、卵に切り傷をつくるのは大きなミスである。その卵から出た液体(羊水)が、クラッチの他の卵の殻に漏れてしまうためである。卵はさまざまな悪条件に耐えることができるが、他の卵の内容物に汚染されることには耐えられない。感染した箇所には、即座に細菌が繁殖するようになる。それは良性の細菌ではなく、ヘビの卵の内容物を特に好んで餌とするような細菌である。そうした細菌は殻を通って侵入し、内部を汚染して、卵を殺してしまう。

 卵から出た液体で、他の卵を汚染しないように最大限の注意を払うこと。もし汚染させてしまったら、あなたにできるのは、低濃度クロルヘキシジンの消毒液で汚染箇所をこすって、あとは祈るだけである。汚染箇所が小さい場合は、Betadine希釈液(providone-iodine消毒液)で拭いて、うまくいったことがある。アルコールやQAC消毒液を使わないように。

 しっかりとくっついている卵を分離しなければならない時、我々は二つの方法を使って、うまく卵を分離している。もっとも単純な方法は、蝋を塗ったデンタルフロス(歯間掃除用の糸)を使って、卵と卵の接着部分を“切る”というものである。この作業には二人の人間が必要である。一人が二つの卵を軽く左右に引っ張って、卵の間の接着部分をピンと張る。もう一人が卵と卵の間(切り離すべき接着部分の周囲)に糸をくぐらせて、糸の両端をそれぞれの手で持つ。そして、(のこぎりを使うように)糸を前後にやさしく動かして、卵の間の接着部分を慎重に切断していく。どちらかの卵を切ってしまう場合があるので、十分に注意していなければならない。

 隣の卵に害を与えている死んだ卵を取り除かなければならない時もある。卵が非常にしっかりとくっついている場合には、これは困難かつ危険な作業となる。しかし、このまま放っておいて、クラッチの全ての卵を全滅させてしまうくらいなら、危険を冒す価値はある。有毒な卵を分離するしかない。

 こうした場合には、クラッチを孵卵箱から取り出して、清潔で明るい場所に置く。そして、12口径の針と60ccの注射器を使って、卵の中身をできるだけ多く吸い出す。悪い卵の殻に注意深く針を突き刺して、吸引すること。できるだけ多く吸い出すように。注射器が一杯になったら、針は卵に突き刺したまま、注射器だけをはずす。注射器を空っぽにしたら、再び針とつなぎ、できるだけ中身を吸い取る。卵が(ほとんど)空っぽになったら、卵や注射器の中身がこぼれ落ちないように気をつけながら、慎重に針を抜く。もし液体がこぼれたら、健康な卵を汚染させてしまうことになる。

 次に、切っ先の鋭いハサミを使って、卵に小さな穴を開ける。その穴に20ccの注射器を入れて、残りの液体を吸い取る。その後、ピンセットでつまんだ綿棒を使って、卵の内側を拭き取る。ここでも、卵の内容物が、他の健康な卵と接触しないように。その次には、低濃度クロルヘキシジンの消毒液を染みこませた綿棒を使って、卵の内側を拭く。この作業が済んだら、周囲の卵とくっついている小さな部分だけを残して、それ以外の殻を全て切り取る。

 最後は、さらにクロルヘキシジンの希釈液を使って、周囲の卵にくっついている小さな殻のかけらを取り除く。それが済んだら、クラッチを孵卵箱に戻す。死んだ卵と、それがクラッチにもたらしていた危険は去った。これは面倒くさい手法だが、難しいものではない。

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