Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P241  傷んだ卵

 殻に穴が開いたり、他の卵の液体によって汚染された卵が生き延びる可能性は、その問題が発生した時点で、孵卵(胎児の発達)がどの程度まで進行していたかということと、正比例の関係にある。問題が発生したのが孵卵期間の初期であればあるほど、卵が孵化する可能性は低くなる。しかし、問題発生のタイミングにかかわらず、希望を捨ててはならない。逆境をはねのけて生き延びる卵も存在している。

 前の項でも述べたが、他の卵の羊水と接触することは、きわめて深刻な危険となることがある。この問題の治療は困難である。市販されている石鹸や消毒薬の多くが、生きた卵の殻に対して使うには不向きだからだ。もし羊水と接触してしまったら、我々はクロルヘキシジン希釈液やBetadine希釈液を使って、汚染された卵の表面を完全に清潔にするよう全力を尽くす。通常、こうした洗浄をおこなえば被害を防ぐことができるが、洗浄処理は複数回おこなったほうがいいかもしれない。我々がどんなに努力をしても、この種の接触により卵が死んでしまうこともあった。

 卵に穴が開いた時、その卵自身の羊水によって、殻の表面が汚染されてしまうこともある。これは良くない事態である。卵を侵食する細菌が殻の表面で繁殖するだけでなく、ドアが開いているので、細菌が卵の内部に直接入り込んでしまう。こうした場合、細菌の進行度合よりも孵化の時期が早ければ、生き延びることができる。

 実際には、忍耐力のない飼い主が、卵のなかの赤ん坊の外見を知りたくて、孵化する1ヶ月も前に卵を切り開き、それでもちゃんと孵化したケースもある。孵化の44日前に卵を切開し、それでも無事に孵化したという報告例もある。これは信じられないほど非常識な行為である。本来なら、卵の殻に切れ目を入れれば、細菌やカビが繁殖する結果になるのが普通である。我々は、早く切開してしまったために孵化できなかった多くの卵を知っている。

 卵に穴が開いたら、ほとんどの場合、穴の周囲をできるかぎり清潔に消毒すべきである。場合によっては、テープで穴を塞ぐこともできる。穴の周囲はできるだけ乾燥させておくこと。Neosporin軟膏を塗っても、問題はないようだ。卵が孵卵期間の少なくとも半分以上に達していたら、うまく孵化できるチャンスはある。

 卵から液が漏れる場合がある。液漏れがおきる可能性があるのは、湿気の多い環境に置かれた卵が膨張した時である。さらに可能性が高いのは、卵の殻が先天的に薄かったり、弱い部分がある場合である。殻の部分に暗色の“窓”があると、実際には穴が開いていなくても、その“窓”を通して液体のしずくが漏れ出てしまうことがある。そうした場合は、しずくを拭きとって、“窓”の部分を乾燥させなければならない。我々は清潔なペーパータオルを使っている。

 稀なケースだが、有精卵の殻に微生物が繁殖・成長し、殻の部分に種種雑多な細菌やカビの群れが爆発的に増殖してしまうことがある。こうした卵を光に透かして見た時に、殻のなかに見える血管が赤い色をしていたら、その卵は生きている。はっきりわからない時でも、悪臭がしはじめるまでは、卵を見捨てないように。判断の基準となるのは、匂いである。我々は、ひどく変色した卵が美しいヘビを孵化させたのを見たことがある。我々は汚染された卵の表面を、クロルヘキシジン希釈液で拭いている。場合によっては、孵卵用床材のバーミキュライトに、水ではなく、低濃度(水1リットルに対しスプーン1杯)のクロルヘキシジン希釈液を混ぜて使用することもある。こうした処置をおこなうと、卵の底に細菌が繁殖するのを防ぐ作用があるようだ。

ボールパイソン大百科 目次に戻る

トップページに戻る

inserted by FC2 system