Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P242  孵化

 産まれた時のボールパイソンの卵は、硬くて丸々とした卵形の球体である。孵卵期間中、卵はその環境内にある水分量に応じて、重さが増えたり減ったりすることがある。孵化する時点で、重さが50%に減少したり、200%に増加した卵を見たことがある。言い換えると、重さが半減する卵もあれば、倍増する卵もあるということである。それでも、どちらの卵もちゃんと孵化する。

 もちろん、そうした極端な変化をする卵においては、うまく孵化できない卵の割合も多い。別の項でも述べたが、孵化の2〜3週間前の時点で、元々の重さの90〜140%ぐらいになっているのが一番良いように思われる。その後、孵卵期間の最後の3週間で、卵は水分を失って重さが減少するものである。

 マニュアル通りの完璧な孵化の場合、赤ん坊のボールパイソンは飼い主の手助けを必要としていない。卵が理想的な状態で孵卵されていたのなら、あなたは手を出さずにゆっくりと見ていればいい。卵に最初の切れ目が入り、赤ん坊がはじめて呼吸をして、はじめて卵の外に顔を出し、卵から出てくるまで…指1本動かすことなく、その全てを見ていればいい。とは言え、赤ん坊がうまく孵化するために手助けが必要かどうかをきちんと判断できるためには、孵化の仕組みを理解しておくことが参考になるだろう。

 孵卵の最後の数週間において、胎児は急速に発達し、卵の内部に熱が発生し、卵から水分が蒸発する。卵は周囲の環境よりもわずかに温かくなり、それが浸透作用をひきおこして、卵のなかの水分が外へと吸い取られる。この時、卵の温度が上昇して重さが減少している証拠として、孵卵箱の内部に霧状の結露ができているのが観察できる。卵の殻に張りがなくなったのに気づく飼い主も多い。孵卵期間の終わりが近づくにつれ、卵の殻はより薄く柔らかくなる。その理由の一つは、水分を失ったことで、卵の内圧が減少したからである。孵化の時点では、手入れの行きとどいた健康なクラッチの卵は、窪みができ、時には“つぶれて”いることもある。

 孵卵期間中、胎児は、漿膜と尿膜(薄い半透明の胚体外の膜)につながっている毛細血管床を使って、殻を通して外気を呼吸している(酸素を取り入れて二酸化炭素を放出している)。これらの膜は殻の内面にしっかりとくっついている。つまり、孵卵期間における殻の機能の一つは、肺の役割を果たすことだと言える。

 水分及び酸素は、殻を通して、殻の内面にある血管のなかへと取り込まれる。こうした呼吸用の血管は臍孔を通してヘビとつながっており、臍血管と呼ばれている。

 赤ん坊のヘビにとって、孵化はちょっとした問題をはらんでいる。小さくて鋭い卵歯を使って、殻を内側から切り裂くということは、その時点で酸素を供給している殻の内面にある膜や血管を傷つけることを意味するからである。一旦赤ん坊が孵化を始めたら、後戻りすることはできない。

 孵化の際に、漿膜と尿膜(殻の内面にしっかりとくっついていた膜)は殻の内面から離れる。これはおそらく、赤ん坊のヘビが卵歯を使って殻を切り裂きやすいようにするためであろう。この時、卵のなかの赤ん坊が孵化を始めたものの、まだ殻を切り裂いていない段階で卵を切開してみると、卵の上半分にある漿膜が動かされ、また、外に出ようとする赤ん坊が卵歯を動かしたことで、膜や血管が切断されているのを確認することができる。

 

孵化過程の順序

 卵が孵化する時におきる出来事を以下に記す。

 孵化の2〜3週間前、卵は熱を発生するようになる。その証拠に、孵卵箱の内側に結露ができる。

 孵化の1週間前、卵の殻が柔らかくなって変形しやすくなる。卵の内圧が減少することや、実際に殻の一部が胎児によって吸収されてしまうことなどが、その原因である。

 孵化の数日前、胎児は“孵化姿勢”をとるようになる。これは、顔を上げ、頭部を中心にして、卵の殻に沿ってとぐろを巻く姿勢のことである。

 孵化の1〜2日前、クラッチのなかでくっついていた卵が、接着力を失ってバラバラになる。

 孵化の1〜2日前、卵は土のような(あるいはトイレのような)匂いを明らかに発するようになる。この時、まだ孵卵箱の蓋を閉めていたら、通気性を良くするといいだろう。ただし、蓋を開けすぎると、多くの水分を失ってしまうことになる。1〜2ミリの細い隙間を開けるだけで十分である。しかし、一旦赤ん坊が卵に切れ目を入れたら、空気交換の度合は劇的に上昇する。赤ん坊が孵化しはじめた時に、あなたがそばにいるとはかぎらないので、孵卵箱の通気性が十分あることを確認しておくほうがいいだろう。水分が蒸発して、卵の殻が乾いて硬くなっているように感じられる場合は、一日に数回ほど、霧吹きで軽く水をスプレーするとよい。

 孵化の直前、漿膜と尿膜(殻の内部にある血管の通っている膜)が、殻から離れる。それ以前の段階で卵を切開したら、これらの膜を切り裂いて、膜のなかにある血管も一緒に切ってしまうことになる。すると、少量の出血がおきて、透明な羊水のなかに血液が混じってしまうことになる。しかし、心配はいらない。出血しても特に問題はない。孵化の直前であれば、殻に切れ目を入れて、そこから卵のなかを覗くことも可能である。そうした場合、内部の膜が無傷のまま分離して、そのなかに少し粘り気のある羊水が含まれているのが観察できるだろう。

 赤ん坊が孵化を始めて、まだ殻に切れ目を入れていない段階で、卵を切開してみると、今まで赤ん坊と卵黄を包み込んでいた膜と血管の残骸があるのがわかる。赤ん坊の切断動作(鼻先を殻に押しつけて、頭部を左右に動かす)によって、尿嚢が切り裂かれ、膜と血管が周囲に押しやられている。おもしろいことに、繊細な血管構造を持つ膜をこのように乱暴に扱っても、それによって出血したという事例はない。通常、殻の内面には、外まで貫通できなかった切り傷の痕跡が見られる。

 最初の切れ目は、卵の上半分の下寄りの部分にあることが多い。通常、切断動作は約2.5cmだが、実際に穴が開くのは、その一部分だけである。赤ん坊が鼻先を突き出せるくらいの大きさの切れ目が完成すると、ヘビは空気を呼吸しはじめるようになり、その時以降、ヘビは空気が呼吸できないと、窒息してしまうことになる。

 クラッチのなかのほとんど、あるいは全部の卵に切れ目が入り、孵卵箱のなかで赤ん坊が呼吸をしはじめたら、どんなに孵卵箱が大きくても、孵卵箱の通気性を良くしないと、赤ん坊が窒息してしまうことになる。呼吸に必要な新鮮な空気を取り入れるために、大きな通気孔をつける必要はないが、孵卵箱を密閉状態にしてはいけない。

 呼吸開始から1〜2時間後、赤ん坊は再び卵のなかに戻って、卵の殻の別の箇所に新たな切れ目を作る。その後の数時間で、赤ん坊は多くの切れ目を作ることがある。

 卵に切れ目が入ったら、我々は一日に数回、霧吹きで軽く水をスプレーしている。

 赤ん坊のボールパイソンは切れ目を入れた後、卵のなかに戻り、再び外に出てくるまで、通常24〜48時間ほど過ごしている。この時、ほとんどの赤ん坊は卵のなかでじっとしているが、時には殻のなかで動き回ったり、殻の外に首を伸ばして周囲の様子を観察したりすることもある。また、この時、赤ん坊は卵黄嚢に残っていた卵黄を吸収し、臍血管から分離する。

 

孵化の仕組み

 通常、ボールパイソンの赤ん坊が最初の切れ目を作るのは、卵の側面のどこかであり、卵の上面や底面ではない。あまり広く認知されていないのだが、この時、卵がつぶれた状態になっていることが、重要な役割を果たしている。鳥の卵の場合とは異なり、ヘビの卵の内部には空気の入った部分(エアポケット)がない。ほとんどの場合、赤ん坊が殻に切れ目を入れると、そこから空気がなかに入る。この時、卵はつぶれた状態になっていて、赤ん坊が殻の内側から外に向かって押し上げているため、卵の上の部分にエアポケットが作られることになる。

 我々は、孵化する瞬間の卵を両手で抱えていたことがある。卵の殻が卵歯によって穴を開けられたまさにその時、空気が卵のなかに吸い込まれて卵が膨らむのを、実際に目で見て感じることができる。

 一般的に言って、孵化した赤ん坊のヘビは、一番最初に開けた穴から顔を出して、はじめての呼吸をするものである。その時以降、赤ん坊は生きのびるために呼吸をしなければならない。この時、赤ん坊は卵から外に出ないが、その理由は出れないからである。この時まで、赤ん坊は臍の緒を通じて、卵黄や酸素を供給する血管とつながっていなければならなかった。赤ん坊が呼吸をはじめるとすぐに、臍の緒がしぼんで、臍孔も塞がりはじめる。赤ん坊は、臍の緒が完全に分離されるまで、卵のなかでじっとしていなければならない。たいていの場合、ボールパイソンの赤ん坊が最初に呼吸をしてから、臍の緒が分離して卵の外へ出られるようにまるまで、24〜48時間かかる。

 この待ち時間の間、ほとんどの赤ん坊は多くの時間を費やして、さらに多くの切れ目を作る。赤ん坊のなかには卵歯の達人がいて、そうしたヘビは殻の各所に切れ目を作る。しかし、もっとも危険なのは、この二回目の切れ目を作る場合である。赤ん坊のヘビはしばらく呼吸した後、殻のなかに頭を戻し、そして、さらに切れ目を作ろうとして、鼻先を殻に押しつけはじめる。この動作により、さらに空気が入り込んで、殻が“膨らむ”ことになる。新たな切れ目を作るのに失敗して、呼吸するための空気が必要になってくると、たいていの赤ん坊は本能的に鼻先を卵の上部に向けて、そこにあるはずのエアポケットから空気を呼吸しようとする。

 ヘビと飼い主に悲劇が訪れるのは、この時である。もしヘビの卵が湿気の多すぎる環境に置かれていたら、その卵は孵卵期間中に重さとサイズが劇的に増大している可能性が高い。そのこと自体は、卵のなかの胎児の成長や健康に影響を与えることはないだろう。赤ん坊にとって危険なのは、孵卵期間の最後まで、卵の重さが減らなかったり、卵に窪みができなかった場合である。孵化の時点で大きく膨れたままの卵のなかにいた赤ん坊が、最初の切れ目を入れると、卵から液体が漏れる(噴き出すこともある)だけで、卵のなかに空気が入らず、したがって、卵の上部にエアポケットができない。赤ん坊は外に顔を出し、しばらく呼吸をしてから、やがて頭を元に戻して、新しい切れ目を入れようとする。ここでトラブルが発生する。赤ん坊は最後の息が続く間に、切れ目を作らなければならない。最初の挑戦で切れ目がうまくできないと(一呼吸の間で切れ目ができることはまずない)、赤ん坊はエアポケットを求めて本能的に卵の上部へと行くが、そこにエアポケットはない。こうした状況に陥った赤ん坊が最初の切れ目を探すことはないようだ。こうした状況に陥った赤ん坊のほとんどは溺死してしまう。

 幸いなことに、ほとんどのボールパイソンの赤ん坊は、何の問題もなく孵化をなし遂げる。しかし、ほんの一握りの赤ん坊は孵化の際に問題をおこす。卵から出ようとした時に、何かがうまくいかなくて駄目になってしまうヘビもいる。また、体が弱くて、必要な切れ目をうまく作ることができないヘビもいる。

 卵が大きく膨れるという問題は、自然界ではきわめて稀なことだろう。しかし、孵化の際における主要な死因でもあるようだ。こうした事実とその原因を理解していれば、あなたと赤ん坊ヘビは不幸な結末から逃れることができるだろう。

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