Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P245  卵に切れ目を入れる場合

 まず最初に言っておきたいことがある。孵化の時に飼い主が卵の殻に切れ目を入れるのは、よくおこなわれていることではあるが、本来は不必要な行為である。自然界の赤ん坊ヘビは、誰かに卵に切れ目を入れてもらわなくても、ちゃんと孵化するものであり、飼育されている赤ん坊ヘビだって、飼い主が卵に切れ目を入れなくても、ちゃんと孵化できるはずである。しかし、赤ん坊のヘビが孵化をはじめて、殻の内側にある膜の処理に失敗してしまった場合、胎児の呼吸手段が奪われることになり、ヘビは外に鼻先を出して、空気を呼吸しはじめなければならない。何か手を打たないと、ヘビの命が失われてしまう。

 そこで、孵化の際の生存率を上げるために、飼い主は卵の上の部分に切れ目を入れるという方法を使うようになった。これは実際に卵を孵化させることとは別物である。これはただ単に、孵化の時に卵の上の部分に切れ目を入れるというだけである。切れ目を入れた卵のなかのヘビは、孵化する時にその切れ目を利用するかもしれないが、たいていの場合、それよりも先に自分で切れ目を作るものである。

 たいていの飼い主は、なかにいる赤ん坊をできるだけ邪魔しないように、卵の上の部分に2.5cm強の切れ目を入れる。我々が卵に切れ目を入れる場合、内部の膜が殻から分離していたら(もうすぐ孵化がはじまること、あるいは孵化が進行中であることを意味する)、2.5cmの切れ目を入れる。膜が殻にくっついていたら、卵の上の部分に0.6cmほどの小さな切れ目だけを入れておく。それは出入り口というよりも、緊急用の通気孔のようなものである。切れ目を入れた時に、卵が内部の水圧で膨れていたら、なかの液体を少し搾り出し、卵の上部に空気の泡ができる状態にしてから、孵卵箱に戻すようにしている。

 卵の上の部分に切れ目を入れることで、飼い主は卵のなかの赤ん坊に安全な孵化を約束したことになる。理由が何であれ、呼吸が必要になった赤ん坊は、空気を求めて卵の上部へと顔を向ける。卵の上部に切れ目があれば、そこには赤ん坊が呼吸できる空気があるだろう。

 1匹の赤ん坊が卵に切れ目を入れた時、あるいは、孵卵期間の55日目、そのどちらが先に来るかはわからないが、その時点で我々はクラッチの全ての卵の上の部分に切れ目を入れることにしている。卵が大きく膨れるようなことはほとんどないが、そういうことがおきた場合には、孵卵期間の48日目から、切れ目ができるかどうか注意深く観察している。孵卵期間の52日目には、膨れた卵の上の部分を切り裂いて、なかの液体を少し搾り出して、孵化が失敗しないように早めに手を打っている。

 

P246  孵化から幼体まで

 孵化の初期段階では、卵に切れ目が入り、赤ん坊は卵のなかで動かないまま、我々が見つめていても、じっと見つめ返してくる。この時点では、特にするべきことはない。赤ん坊が臍帯膜と分離できる時がきたら、赤ん坊は殻から出てきて、孵卵箱のなかを這い回るようになるだろう。ふっくらとしてかわいいボールパイソンである。この時、ヘビを取り出して、流し台のところに運び、ぬるま湯で洗い流すのが一番いいだろう。その後、我々は、濡れたペーパータオルを何枚か重ねて敷いた小型のケージに赤ん坊を移している。このはじめてのケージは孵卵器のなかに入れておく。そうすれば、孵卵の時と同じ温度で過ごせるからだ。ペーパータオルは毎日(時には1日2回)交換する。赤ん坊は1匹1匹分けてもいいのだが、我々はたいてい、最初の脱皮が終わるまで、2〜3匹を一緒にして小型のケージに入れている。

 赤ん坊が最初の脱皮を終える頃(通常は孵化後7〜10日以内)、我々は赤ん坊を別々のケージに移している。1匹1匹にケージを与え、孵卵器から出して、通常の飼育場所へと移動させる。

孵化専用箱

 時として、孵卵器のなかのスペースが足りなくなることがある。そうした場合、新しい卵と孵卵箱を入れるために、今までの孵卵箱を取り出す必要がある。我々の場合、赤ん坊が鼻先を出して呼吸をはじめるようになったら、孵卵箱から卵を取り出して、それをプラスチックの箱に入れている。箱のなかには濡れたペーパータオルと、水の入ったボウルが設置してあり、箱の四辺には数個の小さな空気穴を開けておく。この時、卵同士はくっついていないので、一つの箱に2〜3個の卵を入れておく。また、赤ん坊の出自がきちんとわかるように、箱にラベルを貼っておく。そして、その孵化専用箱を孵卵器内の棚の上に置いておく。1〜2日後には、その箱のなかで赤ん坊が孵化を完了している。

早すぎる卵の切開

 ヘビの状態について、好奇心を抑えきれない飼い主もいる。多くの飼い主が、クラッチのなかの赤ん坊がレアな外見をしているかどうか確かめようとして、孵化途中の卵を早い段階で切開してしまう。これは危険な行為であり、絶対にしないように忠告しておく。辛抱して待つことだ。時が来たら、赤ん坊は産まれるべくして産まれるものである。

早期孵化

 時々、孵化の際に問題が発生して、臍孔から大きな卵黄の塊を引きずったままの赤ん坊が、殻のなかから外に出てきてしまうことがある。また、孵卵の間にカビや菌によって傷んでしまった悪い卵から、飼い主が赤ん坊を取り出して早期孵化させてしまう場合もある。その際には、卵の上半分をハサミで注意深く切断し、卵から赤ん坊を持ち上げるようにする。もし赤ん坊に大きな卵黄がくっついている場合は、濡れた手で扱うのが一番良いだろう。

 また、写真を撮ろうとしたり、どんな模様をしているのか見ようとして、孵化したばかりの赤ん坊にストレスを与えてしまう飼い主もいる。そうした場合、赤ん坊はそこから逃げようとして、早い段階で殻から外に出てしまう。赤ん坊が臍孔から膜や卵黄を引きずっている状態は、非常に危険である。卵黄が破裂して、死亡してしまう可能性がある。赤ん坊が早期孵化した(あるいは、させられた)場合は、そのヘビを、深さ数ミリの水を入れた清潔なプラスチックの小型ケージに入れるようにお薦めする。そして、それを孵卵器に入れて、孵卵時と同じ温度にする。ケージのなかの水は清潔に保つこと。こうすれば、臍から飛び出した部分が臍孔に引きずられないですむ。

 我々はこうした「早産児」を注意深く観察して、卵黄を吸収するかどうか様子を見る。卵から外に出る1〜2日前に吸収された卵黄は、赤ん坊がはじめての餌を食べるまでの栄養補給源となる。もし早産児が卵黄を吸収するようなら、半日後には、体外にある卵黄の塊が明らかに小さくなっているのが確認できるだろう。

 仕方のないことだが、こうした早産児は普通の赤ん坊に比べて体が小さい。しかし、おもしろいことに、同じクラッチのなかで一番最初に脱皮して、一番最初に餌を食べるのは、こうした早産児である(そうしなければ生きていけないからであろう)。数ヶ月もしないうちに、早産児と普通の赤ん坊は区別がつかなくなる。

 我々が対外に出た卵黄を除去するのは、以下のような場合である。赤ん坊が卵黄を吸収する兆候が見られない場合。卵黄が固まってきたように見える場合。卵から出てきた赤ん坊が、卵黄をつけたまま丸2日経過した場合。

 こうした状況における我々の対処法は、年を追うごとに進歩してきた。最初の頃は、飛び出した卵黄と膜を糸でしばっていた。蝋を塗った無香料のデンタルフロス(糸タイプの歯間清掃用ようじ)を用いて、臍孔に近い場所で、飛び出した卵黄と膜をきつく縛り、それから、飛び出した部分を切り落とす。実際には、我々がこの処置をした後でヘビが死亡することもあり、はっきりとした死因は特定できないものの、それが卵黄を切除した結果だという可能性も否定できない。そこで、我々は方法を変えることにした。卵黄を縛った後、卵黄嚢に穴を開けて、残っていた卵黄を搾り出し、膜はそのまま残すことにした。そして、濡れたペーパータオルを敷いた湿った小型ケージに赤ん坊を入れた。すると、1〜2日で、膜はしぼんで剥がれ落ち、臍孔も塞がった。膜がしぼんで剥がれ落ちたらすぐに、その赤ん坊は他のヘビと一緒の場所に置いておく。

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