Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P201  咬みつく可能性

 ボールパイソンは、あらゆる意味で無害なヘビである。ボールパイソンは獲物を締めつける無毒のヘビである。ボールパイソンの体は小さいので、締めつける力によって物理的な危険が発生するようなこともない。誰かがボールパイソンによって重傷を負わされたというような報告例もなければ、そういう話も聞いたことがない。

 実際、ボールパイソンが飼い主に咬みつくことはほとんどないので、そうしたことに関する章が必要かどうか検討したくらいである。しかし、咬みつく可能性はいつでも存在しているし、ボールパイソンの飼い主はその事実を忘れてはならない。ボールパイソンは積極的に咬みつくヘビではないが、それでも咬まれたら(害はないものの)痛いことは確かである。本書はボールパイソンだけでなく、ヘビ全般の飼い主にとってもできるだけ役立つような物にしたいと考えており、咬みつき行動を理解することは、ヘビを飼育するうえで重要なことであると思われる。

 無毒ヘビ(ボールパイソンを含む)の咬みつきに関する一般的な原則は、ほとんどのヘビは強く咬んだりしないということである。多くの人が、無害なヘビの咬みつきを、同じ大きさで馴染みのある哺乳類や鳥類の噛みつきと同じようなものだと考えてしまう。ハムスター、小型犬、人間の子供といった哺乳類、あるいは、オウムのような鳥類に強く噛まれた場合、その部分の細胞が損傷して傷となり、回復するのに数日〜数週間かかることがある。無害なヘビが咬みついた場合には、そうはならない。

 ボールパイソンの頭部は軽くてもろい骨でできていて、柔軟性のある関節部分が多くついている。ヘビの頭の筋肉は哺乳類に比べて少ないが、それはヘビが獲物を咬まないせいである。ボールパイソンが人を咬んだ場合、100本ほどある歯のなかの20〜30本が軽く刺さるぐらいである。ヘビに咬まれて痛みを感じるのは、サボテンを触った時に痛みを感じるのと同じ仕組みである。つまり、ヘビの歯が長いために、皮膚のなかにある痛覚受容体と接触して刺激を与えるからである。皮膚と筋肉が強く押しつけられたために、深いところにある細胞が損傷するようなことはない。

 ボールパイソンの顎と歯の基本的な構造は、ペットとして飼育されている無害なヘビの大半と同じである。ボールパイソンの口のなかには、歯を支えている骨が10個ある。下顎の左右にある一対の歯骨。上顎の外側にある一対の上顎骨。上顎骨の歯の内側にも二列の歯が並んでいる(それぞれの歯列の前部には長い歯が、後部の翼状突起部には短い歯が生えている)。そして、上顎の前部(上顎骨の前部先端)には切歯骨があって、左右の切歯骨が融合して、小さなT字形の切歯となって、数本の歯を支えている。

 ボールパイソンの歯は細くとがっていて、注射針のように鋭い。ボールパイソンの口を横断面で見てみると、歯が半円形に並んでいる。口の前部にある歯は、後部にある歯よりも長い。ボールパイソンの口にある一番長い歯は、上顎骨前部の歯である。我々が調べた体長1.3mの個体では、一番長い歯は4mmだった。

 

P201  なぜ咬みつくか

 世界には、身を守るために咬みつかないヘビの種類も数多く存在している。餌以外の物に対しては一切咬みつかないヘビも多い。こうした傾向は、地中で生活する習性をもった小型のヘビに多く見られる。とは言え、小型ヘビの多くや、ある程度の大きさ(たとえば0.4kg以上)に成長する大型ヘビのほとんどは、防衛のために咬みつこうとする傾向がある。ペットとして一般に飼育されているヘビのほとんどは、防衛のために咬みつく。ほとんど咬みつこうとしないというボールパイソンの性質は比較的珍しいものであり、それゆえにボールパイソンはペットとして他のヘビよりも優れていると言うことができる。

 どんな種類の大型ヘビのなかでも、ボールパイソンは飼い主に一番咬みつこうとしないヘビである。自然捕獲したボールパイソンは内気で引きこもりがちな場合もあるし、飼育繁殖されたボールパイソンは人見知りせず堂々としている場合もあるが、どちらも咬むようなことはない。一般的に言って、ボールパイソンはペットのヘビのなかで一番無害で好ましいヘビである。しかし、そのおとなしい性質にもかかわらず、ボールパイソンの口には鋭い歯が並んでいる。咬みつくことはできるし、実際に咬むこともある。通常、ヘビが咬みつく理由はいくつかある。我々は多くのパイソン種を扱ってきた経験を持っているが、それに基づいて、ボールパイソンが咬みつく場合とその理由について説明していこう。

 一般的に、ヘビは二つのモード(状態)で行動していると我々は考えている。それは意識モードと本能モードである。パイソンはどちらのモードでも咬みつく可能性があるが、その理由は異なっている。咬みつきのタイプと激しさは、咬みついた理由や、パイソンがどういう状態にあったのかによって異なる。

 通常、ヘビは意識モードから本能モードへと突然に、ほとんど一瞬のうちに変わることができる。また、そうした変化は外部からの刺激によって引き起こされるものである。本能モードから意識モードへの変化はそれほど急激ではなく、一つの精神状態から別の精神状態へとじわじわと移り変わっていくようなものであり、パイソンの意識が変化する様子を観察できる場合もある。それは、眠っていたヘビが目をさます時の様子に似ている。

 意識モードで活動している時のボールパイソンは、学習された行動を示し、意識的な決断をおこなう。動き回っている(徘徊している、探索している、ある場所へと移動している)ボールパイソンの脳は、通常は意識モードで活動している。何かに興味を示したボールパイソンも、意識モードで活動している。ペットのヘビが飼い主に触られてリラックスしている時も、意識モードにある。実際、ボールパイソンはほとんどの時間を意識モードで過ごしている。

 通常、本能モードで活動しているヘビは、予測可能な一連の行動様式を見せる。この一連の行動は、「本能行動」もしくは「常同行動」と呼ばれている。本能行動のなかには、防衛行動、採食行動、交尾、戦闘などが含まれており、これらはいずれも一連の行動様式である。こうした(一連の)行動は、深く根付いた遺伝的な本能によってコントロールされている。

 通常、本能行動がはじまってボールパイソンが本能モードに切り替わると、その一連の行動様式が終わるまで、ボールパイソンは本能行動を中断したり、本能モードからぬけ出すことはできなくなる。普通、本能行動が終わると、ボールパイソンは意識モードへと戻る。

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