Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P202  攻撃的な咬みつき

 ボールパイソンがおこなう咬みつきは、大きく分けて二種類ある。一つは攻撃的な咬みつきで、採食的な咬みつきとも呼ばれる。ボールパイソンの典型的な採食行動で一番最初に見られるのが、攻撃的な咬みつきである。このタイプの咬みつきの特徴は、獲物と接触した後、ヘビが咬みつきをやめるのではなく、咬みついた状態を保ったまま、その対象に体を巻きつけて締めつけようとするという点である。意識モードにあるパイソンが、刺激(視覚、温度、触覚、嗅覚など)を受けて採食行動を開始するのだが、通常、この行動は本能モードへの急激な転換をともなっている。

 ほとんどのパイソンにおける典型的な採食行動は、次のような一連の行動から成り立っている。パイソンが知覚した獲物に対して攻撃をはじめる。パイソンは長い前歯(牙)が奥深くまで突き刺さるように獲物に咬みつき、その状態を保って、しっかりと獲物をくわえ込む。その後、パイソンは頭を梃子(てこ)のように使って、首の部分を獲物に巻きつけ、さらに胴体を巻きつける。パイソンはとぐろ状になって獲物を締めつけ、獲物の呼吸と心臓の鼓動を停止させる。獲物が抵抗しなくなると、パイソンはとぐろと咬みつきをわずかに緩め、獲物が動くかどうか確かめる。獲物が動かないようなら、パイソンは締めつけるのを止めて、獲物を口から放して、とぐろの一部をほどく。この時点で、ほとんどのパイソンは意識モードへと戻り、それから獲物を飲み込みはじめる。また、餌を飲み込む前の時点で、パイソンは餌をよく調べて、その種類と向きを確認する。

 餌を締めつける習性を持ったヘビは、その本能的な採食行動により、死んだ餌を与えられた場合でも、それを締めつけようとする。多くのパイソン(及び餌を締めつける習性を持った他のヘビ)は、本能モードに入らないと採食行動ができないようである。五世代前(30年ほど前)から人工的な環境で飼育されている血統や、生まれてから一度も生きた獲物を見たことがない個体ですら、そうした行動を見せる。パイソンに条件付けをおこなって、餌を締めつけたり本能モードに転換することなく、餌に近寄ってそのまま食べさせることは可能だが、そうした場合でも、餌がほんの少し痙攣しただけで、すぐに本能モードに入ってしまうことがある。

 ボールパイソンに咬まれてしまう一番よくあるタイプは、的外れな攻撃的咬みつきである。言い換えると、ボールパイソンが飼い主を咬んだ場合、そのほとんどは間違いである。ボールパイソンが餌を狙ったのに、攻撃がはずれてしまい、唇鱗ピットが感知したもっとも温度の高い物体を、餌の代わりに咬んでしまったか、もしくは、ヘビが飼い主の体の温かい部分をネズミと勘違いして、意図的に咬みついて締めつけたかのどちらかである。いずれの場合にしろ、それは飼い主が避けることができ、また、避けるべき間違いである。

 

P203  防衛的な咬みつき

 パイソンの咬みつきの二番目のタイプは、防衛的な咬みつきである。この咬みつきの特徴は、パイソンがその対象にしがみつこうとはしないという点である。対象に向かって、口を開けたままぶつかるような感じで、打撃力も弱く、わざと当たらないようにしていることもある。こうした咬みつきをするパイソンは、意識モードの場合もあれば、本能モードの場合もあるようだ。

 本能モードの場合、その咬みつきは、恐怖に対する防衛反応の一部であると思われる。恐怖に対する防衛反応はヘビの種類によって異なり、個体によっても若干の差が見られる。ボールパイソンにおいて一番よく見られる防衛反応は、固くとぐろを巻いてボール状になることである。ほとんどのボールパイソンは防衛的な咬みつきをすることはなく、この特徴こそが、ボールパイソンと他のパイソン種(及び他のヘビ)を区別する大きな違いである。実際には、ボールパイソンは食べるために咬みつく。驚いたり、イライラした時にも咬みつくことがある。しかし、一般的に言って、ほとんどのボールパイソンは防衛的な咬みつきをすることはない。

 典型的なパイソンの防衛反応は、以下のような行動から成り立っている。恐怖の対象と接触することなく、激しく攻撃する。恐怖の対象を前にすると、頭を地面から持ち上げ、首をSの字に曲げて、後ろ向きに遠ざかろうとする。口を大きく開けて、シューッという大きな音を出す。尻尾を持ち上げ、排泄腔を開いて、恐怖の対象に向かって一対の臭い液体をスプレーする。腸及び尿管のなかにあるものを排泄する。その際には、尻尾を振り回して、汚物を周囲に撒き散らしたり、自分の胴体につけたりする。短い時間咬みついたままでいる。咬み傷に残された歯形は、切り傷のようになっていることも多い。

 こうした行動は、強い恐怖の刺激に対する本能的な反応から成り立っている。ボールパイソンにおいて、このような外向的な行動が見られることは稀である。ボールパイソンにとっては、これは大げさすぎる。ボールパイソンは単にボール状に丸くなるほうを好む。どんな種類であれ、ヘビが典型的な防衛反応を見せたとしたら、そのヘビは本能に強く支配されているということを理解することが大切である。そのヘビは怯えていて、自らの行動を意識的にコントロールすることができないのだ。

 

P203  意図的な咬みつき

 意識モードにあるヘビが、何らかの刺激によって苛立ち、急に咬みつく場合がある。これは多くの種類のパイソン(特に若い個体)がよくおこなうタイプの咬みつきである。飼い主に触られたくない(あるいは邪魔されたくない)パイソンは、シューッという音を出したり、激しく身をよじったり、体を弓なりに反らしたり、咬みついたりすれば、飼い主がむやみに手を出さなくなるということを学習することができる。こうした悪い学習行動は亜成体のパイソンにおいてよく見られ、特にビルマ・パイソンやアミメ・パイソンに多いが、ボールパイソンのなかにも、こうした行動を見せるものがいる。よく咬みつくボールパイソン(かなり珍しい個体)を飼っていたことがあったが、そのヘビが咬みつく理由は、こうした学習行動によるものがほとんどだった。

 こうしたことを説明しているのは、飼い主はヘビを訓練することができるということを示すためである。ヘビのなかには触られたくないと思っているものもいて、そこで、飼い主が手出しをしないように脅す方法として、咬んだり、あるいは咬みついたりしようとするのである。その方法がうまくいくと、ペットのパイソンはかなり不快な存在になることを学習するようになる。その咬みつきは単なる脅しであり、軽く咬みつく程度のものがほとんどであり、ずっと咬みついたままでいることはない。しかし、こうした行動がエスカレートして、何度も激しく咬むようになったパイソンもいる。こうした行動をとるパイソンは、完全に意識モードにあり、したがって、この悪い行動を止めるように訓練することも可能である。

 こうした意図的な咬みつきを止めさせるために、一番よく用いられるパイソンの訓練法は、ヘビが咬みついてきても、その行動を無視して、ヘビを触り続けることである。グローブをはめたり、ヘビを布袋に入れておこなうといいだろう。こうした学習行動を示すヘビの多くは、慣れた環境にいる時だけ咬みつくものである。そこで、スネークフックを使って素早くケージから出すと、急におとなしくなってしまうものである。ほとんどのヘビは、邪魔されたくないという願いが叶えられないことを悟ると、咬みつくのを止めるようになる。パイソンの多くは、飼い主が好きになって、手で触られるのも悪くないと思うようになるかもしれない。もちろん、こうした方法でヘビを馴れさせるのは、ヘビが小さい頃が一番良い。ある程度大きくなったボールパイソンの咬みつきを無視するのは、なかなか困難である。

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