Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P169  体温調節

 体温調節とは、一定の体温を維持することである。人間や他の温血動物のような内温動物は、おもに新陳代謝機能を使って体温を維持している。基本的に、我々人間は燃料(食物からのエネルギー)を燃焼することで、体温を一定の範囲内に保っている。この方法は体温を維持するのに大量のエネルギーが必要になるので、一般的に内温動物は体温を保つために、常に餌を食べ続けるか、高エネルギーの餌を食べなければならない。内温動物の長所は、多くの外温動物にとっては低すぎる温度環境のなかでも活動できることである。

 外温動物(いわゆる冷血動物)も一定の体温を維持しているが、その基礎体温の幅は広く、たいていの場合、体温を維持するのに新陳代謝機能ではなく、行動を用いている。つまり、外温動物は自分がこうありたいと願う体温と同じ温度の場所へと移動するのである。もし体温が高すぎるなら、外温動物は涼しい場所へと移動する。体温が低すぎるなら、温かい場所へと移動する。外温動物の長所は、内温動物に比べて、少ないエネルギーで生きていけるということである。一般的に爬虫類は外温動物だが、なかには内温性の体温調節能力をわずかながら持っているものもいる。

 

P169  温度の維持

 20世紀の中頃まで、ほとんどの爬虫類の飼い主が、爬虫類は暖かい環境でしか成長しないというふうに思い込んでいた。たいていの動物園はスチームボイラーで爬虫類館を暖房し、園長はスタッフに対し、爬虫類館をつねに高温多湿状態に保つように指示を出していた。やがて、いつのまにか、27〜34℃という爬虫類館の温度が、ほとんどの爬虫類にとって“普通”の温度だと見なされるようになった。爬虫類の種類が異なれば、それぞれに適した温度も異なるのではないかという当たり前の考え方は当時には存在しなかったようだ。我々は当時の資料を読み漁ったり、動物園の飼育者のOBから話を聞いたりしたのだが、そうした個体差は、「飼育しやすい動物もいれば、飼育しにくい動物もいる」という考え方のもとで、なかば強引に理屈づけをされた結果、見過ごされてしまったようだった。

 20世紀の終わりごろになって、飼い主たちの間に、爬虫類は日光浴をして体温を上昇させているという理解が広まってきた。実際には、爬虫類学者たちは以前からこのことを知っていた。しかし、ペットの爬虫類も温かい場所で日光浴をさせたほうがいいのではないかという考え方が新しく登場してきた。

 この時期(1965〜1985年頃)は、現在も続いている爬虫類学が誕生した黎明期でもあった。個人の飼い主やアマチュアの爬虫類学者などがみんな集まって組織を作り、世間への知名度が高まった。全国会議・出版・後にはインターネットなどを通じて、個人同士だけでなく動物園同士のコミュニケーションも大幅に活発になった。爬虫類の飼育法を向上させるアイデアが続々と登場し、こうしたアイデアが試され、その結果が最新の文献で報告されるようになった。この時期の大きな改善点の一つは、ペットの爬虫類の多くに(特に大型のトカゲやワニに対して)ヒートランプが与えられるようになったことだった。

 1970年代の後半になって、飼い主たちはヘビには補助熱源を与えるのが当たり前だと考えるようになった。飼い主の多くが、ヘビは哺乳類を“うらやましく”思っており、いつも温かくありたいと願っているのだと考えるようになった。しかし、ペットのヘビの繁殖が本格的に始まったのもこの頃だった。飼い主のなかには、多くの種の飼育繁殖がうまくいくようになったのは、補助熱源のおかげだと考えているものもいる。

 実際にその時代を生きてきた我々に言わせると、ヘビの飼育繁殖が成功をおさめるようになったのは、複数の要因が組み合わさった結果だと思う。繁殖が成功した要因として、ヘビの体温調節の嗜好が広く理解されるようになってきたことも確かだが、それ以外にも、備品の開発技術が向上して、小型ケージのなかにも小さな日光浴エリアを設定できるようになったことなども挙げられるだろう。これが一番重要な要因だとは我々自身も考えていない。とは言え、当時の飼育繁殖が成功したことで、「ヘビは(少なくともある種のヘビは)体温が高いほうがうまく成長する」という信念はさらに強化されることになった。

 1980年代から現在にかけての爬虫類繁殖業界における一般的な風潮は、周辺の温度を下げることなく、日光浴用の温かい場所を提供することで、ヘビを飼育しているケージの平均温度を上げようというものである。これはおそらく先ほど述べたような歴史から生まれた当然の結果であろう。おもしろいことに、過去数十年の間に、平均温度の低い環境におけるヘビの飼育実験に関する文献は、我々が探したかぎりではほとんど見当たらなかった。わずかに出版された文献のほとんどは、冬季の冬眠温度に関するものだった。その一方、あらゆるヘビについての飼育管理マニュアルにおいては、重要な要素として補助熱源がほとんど必ず紹介されていて、その種類や温度がくわしく解説されている。そのうち、我々はヘビの飼育温度を上げようという風潮が行き過ぎてしまったことはなかったのかと考えるようになった。

 同じ頃、野生のヘビの生態を観察する研究プロジェクトがいくつかおこなわれていた。そのプロジェクトには、遠隔測定法を用いて一日のあるいは季節ごとの体温変化を観察することも含まれていた。なかでも、シドニー大学のリチャード・シャイン教授とコーネル大学のハリー・グリーン教授は、大学院生や研究スタッフとともに観察を重ね、数多くの野生の大型ヘビについて、その体温変化のデータを手に入れた。その研究データ及び我々の飼育経験から得られた知識をもとにすると、野生で棲息しているほとんどのヘビは、ペットとして飼育されている同じ種類のヘビよりも、低い平均体温で生活していると言うことができる。

 我々が思うに、ヘビにとって一番大切なのはできるかぎり体を温かくすることではない。むしろ、野生のヘビの研究と我々の飼育観察から考えると、ほとんどのヘビはほとんどの時間を低い体温を維持して過ごし、餌の消化や交尾といった特定の生理的な行動をおこす場合のみ、体温を上げるようにしているのではないかと考えられる。

 この推論は、外温動物(特にヘビ)の長所に関する理論と合致しているように思われる。ヘビは低い体温を維持することによって、代謝機能を低下させ、理想的な体重を維持するために必要な餌の量を減らし、さらに、活動の機会を減らすことで、外敵に見つかる可能性も減らしているのだ。

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