Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P170  温度範囲の選び方

 当たり前の話だが、“冷たい”とか“温かい”という言葉は、相対的なものである。ボールパイソン(あるいは、他の種類のヘビ)にとっての“理想的な温度範囲”を正確な数値として表すことはできない。とは言え、我々は過去10年以上にわたって、一般的に考えられているボールパイソンの適正温度範囲から大きく逸脱することはないものの、自分たちの飼育しているボールパイソンのケージの平均温度を基本的に下げるようにしている。これは以下のような根拠にもとづいている。

 我々は、個々の状況における個々のボールパイソンにとって最適な温度がいくつなのか、正確にはわからないということを認めることにした。我々は冷たい部分(周囲の温度と同じ部分)と温かい部分をヘビ自身に選ばせるようにして、ヘビがどちらを選んだのかに注目するようになった。我々は、ボールパイソンがほとんどの時間をケージの冷たい部分で過ごし、時々は温かい部分で数時間ほど過ごすのが、正しい温度環境だと考えている。ヘビがケージの冷たい部分ばかりにいるのなら、ケージの温度が高すぎると判断する。逆に、ヘビがほとんど(あるいは、いつも)日光浴用の場所で過ごしているなら、冷たい部分が冷たすぎるか、温かい部分の温度が十分ではないと判断している。

 ボールパイソンや他のパイソン種で数年ほど研究を続けた結果、彼らの体温調節の嗜好が一定ではないことに気がつき始めた(ヘビが日光浴の行動をとった時、ヘビはそれを好んでいるという仮定にもとづいている)。ボールパイソンの行動は、年齢・性別・繁殖期の有無によって違いが見られた。それぞれのヘビの好み(個体差)も存在しているようだった。こうなると、ボールパイソンの“正しい”温度範囲について、包括的な結論を出すことが難しくなってしまった。

 しかし、ある程度の一般化をすることはできる。ボールパイソンは28〜29℃の温度を一定に保てば、長生きできるだろう。22〜26℃の環境でも、個人のペットや学校のマスコットとして長年飼育されていたボールパイソンも知っている。これよりも低い温度だと、うまく成長することができないようだ。

 ボールパイソンの体温調節機能をさらに向上させようと思ったら、ケージの温度を26〜27℃に設定して、日光浴の場所の温度を30℃にすることをお薦めする。この温度設定を24時間維持している飼い主もいるが、夜間には日光浴用のライト(やヒーター)のスイッチを切って、平均温度が数度下がるようにしている飼い主もいる。

 飼い主(特にブリーダー)にとって一番いい方法は、ヘビの行動をよく観察し、その行動にしたがってケージの温度や日光浴用の温度を調整することである。言いかえると、ヘビをよく見て、今の温度で快適にしているか、時々日光浴をしているかどうかを見なさい、ということである。もしボールパイソンがずっと同じ場所にいて、ケージ内の冷たい部分と温かい部分を行ったり来たりしないようなら、温度を調整すること。急激な温度変化を必要とすることはほとんどないが、時には日光浴用の場所の温度を1〜2℃上げたり、ほんの少し周辺温度を下げたりするだけで、餌を消化しているヘビや卵胞を抱えているメスにとっては、大きな違いを生み出すことがある。

 我々は、ヘビの行動にかかわらず、超えてはならない温度限界があると思っている。我々はボールパイソンのケージを意図的に24℃以下に冷やしたり、32℃以上に温めたりすることは絶対にない。時に冬の嵐がやって来て、ヘビ飼育室の室温が20〜23℃まで低下することがあるが、それは1〜2日続くだけである。

 通常、胃のなかに食べ物がないヘビであれば、13℃の低温や38℃の高温にも数日間であれば耐えられるだろう。

 我々はたいてい、亜成体と成長期のボールパイソンは27〜28℃に保ち、補助熱源は使用していない。生まれたばかりのヘビは日光浴用の場所のない小さなケージのなかで飼育しているが、そのケージが置いてある部屋の室温は昼は27℃、夜は26℃に設定してある。

 

P171  温度勾配・日光浴用の場所

 ボールパイソンや他のパイソンの飼育について書かれた文献には、「温度勾配」を作りなさいと書いてあることが多い。実際のところ、研究室以外で本物の「温度勾配」を見たことは一度もない。「温度勾配」とは、温度が距離とともに一定の率で変化するという意味であり、我々飼い主がヘビに与えているものとは異なるものである。

 我々がペットのヘビに与えているのは、ケージの他の部分よりも温かい場所、日光浴用の場所である。これを作るためには、温かいライトかセラミック製の加熱器を使ってケージを上から照らせばいい。こうすると、ヘビがその熱源の下に来た時に、放射熱でヘビの背中を温めることができる。これとは別に、ケージの下にヒーターを設置して、底面の一部だけを温めることによって、日光浴用の場所を作ることもできる。こうすると、ヘビが温められた床面に来た時に、腹部を温めることができる。

 ケージの温かい部分が31℃で冷たい部分が26℃だったとしても、そのケージのなかにいるボールパイソンは29℃の核体温を簡単かつ意図的に作り出すことができる。ヘビは胴体の一部だけを温かい部分に置いて、皮膚のなかの毛細血管を流れる血流を生理的に分散させることにより、こうしたことが可能になるのである。

 

P171  過熱・過冷

 飼育しているボールパイソンが、今のケージの温度に不満を抱えているかどうかを判断するコツを教えよう。日光浴用の場所のあるケージにおいては、温度調整が必要かどうかを見分ける第一のポイントは、ヘビがどこにいるかに注目することである。もしヘビがいつも冷たい部分にいるようなら、そのケージは温かすぎるということになる。逆に、いつも温かい日光浴用の場所にいれば、そのケージは冷たすぎるということになる。

 ボールパイソンの体温が低すぎる場合、そのヘビはたいてい餌を食べなくなる。体温が高すぎると、落ち着きをなくして常に動き回るようになる。また、体温の高いヘビは、水の入ったボウルに浸かったり、餌を食べなくなることもある。温度環境が悪くてストレスを感じているヘビも餌を口にすることはあるが、温度が高すぎたり低すぎたりすると、餌を食べてから数日後に吐き戻しをする場合もある。

 極端な過熱・過冷にさらされたボールパイソンは、重度の神経症状を示すことがある。極端な低温にさらされたボールパイソンのことを、CSS(Cold Shock Syndrome 低温ショック症候群)と呼び、普通の体温に温めなおしても、ちょっと触れただけで、体のコントロールがきかずにとぐろを巻いてしまうことがある。一方、極端な高温にさらされたボールパイソンは、HSS(Heat Shock Syndrome 高温ショック症候群)にかかることがある。こちらもまた、触れただけで、痙攣をおこしたようにのたうち回るようになってしまう。我々の観察によると、CSSあるいはHSSにかかったヘビは普通の体温に戻ってから48時間以内に死亡するか、たとえ回復したとしても、普通の動きができるようになるまでには1年以上かかる。

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