Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P259  重病

 ボールパイソンの命を奪うような恐ろしい病気も存在している。あなたが飼っているヘビたちの間に、恐ろしい流行性の伝染病が広まれば、空っぽのケージだけが残るといったことにもなりかねない。幸いなことに、そうした病気は稀である。ヘビのコレクションを全滅させるような病気を目撃した飼い主や獣医は少なく、実際にそれを体験した人はさらに少ない。よくある日和見性の細菌ならば、こまごまとした問題をひきおこしても、飼育管理法を改善したり、市販されている抗生物質を使えば、簡単に治療できる。しかし、ここで言う重病とは、そうした細菌とは異なる恐ろしい病原体であり、ひとたび感染すれば、完全に健康で幸福なボールパイソンでも殺してしまうようなもののことである。我々が耳にした流行病のほとんどの事例、及び我々自身が経験した少数例においては、その原因となった病原体は適切な治療薬も治療法もないウイルスか、もしくは特定すらできなかった。

 我々が耳にした流行病のほとんどのケースにおいて、ヘビのコレクションのなかにダニが発生していて、明らかに病気の拡大に一役買っていた。これもまた、ヘビのコレクションのなかにダニを蔓延させてはならない理由の一つだろう。

 重病はある日突然やって来るものではない。普通は、ヘビ(たち)がどうやって感染したのかが、後になってから判明するものである。重病の場合には、飼い主がヘビを購入した時には、すでに病気に感染していて、その症状が出るのにしばらく時間がかかっただけかもしれない。あるいは、病原体を抱えた別のヘビと接触していたのかもしれない。

 ボールパイソンの健康に関する最大の保証は、そのヘビの健康の経歴である。つまり、そのヘビの健康状態に関する個体情報を少なくとも3ヶ月(できれば1年)持っているというのが理想的である。ボールパイソンのブリーダーは、ヘビを感染の危険にさらしてしまうことが多い。大切なヘビのために交尾相手を買ってきたブリーダーは、交尾するのを期待して、すぐにヘビを一緒のケージに入れてしまうことがある。こうした場合、後で後悔することになる場合もある。

封入体疾患

 封入体疾患(Inclusion Body Disease)は、もっとも恐ろしい病気の一つである。ボールパイソンにおいては、急性かつ致命的である。飼い主や獣医はイニシャルをとって、IBDと呼ぶことが多い。IBDはレトロウイルスによってひきおこされると考えられている。IBDは普通はダニを介してヘビからヘビへと伝染するが、直接的な接触によっても感染する。IBDに感染する可能性があるのは、ボア種やパイソン種である。IBDは必ず命取りになる。パイソン種の場合は、IBDは急速に進行して脳に感染し、通常は2〜4ヶ月で死に至る。ボア種の場合は、IBDは体内の全ての器官に感染してから、最終的に脳へと感染する傾向にある。そのため、IBDに感染したボアは、病気の症状を示すことなく2年以上生きる場合もある。

 IBDの症状はそれぞれのヘビによって異なり、ボア種とパイソン種によっても異なる。ボア種の場合は、慢性的な吐き戻し・拒食・衰弱といった症状を長期に渡って示すことが多い。パイソン種の場合は、すぐに神経症状を示しやすく、運動機能障害・方向感覚異常・平衡感覚異常・スターゲイジングといった行動が見られる。IBDに感染したヘビのなかには、死ぬ直前まで元気そうに見えていたものもいれば、感染直後からおかしくなるものもいる。ボールパイソンは、感染するとすぐに死んでしまう傾向にある。IBDの対処法は隔離するか、病状が進行した場合には、安楽死させるしかない。

パラミクソ・ウイルス

 ヘビのパラミクソ・ウイルス(OPMV)に感染したパイソンは、呼吸器疾患と神経症状を組み合わせた症状を示すことがある。急性の場合には、何の症状もなかったのに、1週間以内に死亡してしまうケースもある。急性の場合は、たいてい口呼吸から始まり、やがて血のついた粘液や痰を排出するようになる。神経症状が出ることもあり、運動機能障害・平衡感覚異常・痙攣を伴うとぐろなどが見られる。

 OPMVに慢性的に感染しているヘビもいる。こうしたヘビはうまく成長することができず、いつまでも呼吸器疾患を抱えていたり、何度も再発したりする場合がある。こうしたヘビは多くの細菌に対して免疫反応が弱まっているようだ。こうしたヘビが呼吸器疾患になると、原因菌を培養・特定して治療をおこない、ヘビが回復するように思えても、また病気になるといった具合である。慢性的なOPMVにかかっているヘビは数ヶ月〜数年生きるかもしれないが、その間ずっと感染していることに変わりはない。そうしたヘビのほとんどは、肺に二次感染をひきおこして死亡してしまう。

 パラミクソ・ウイルスに関して特に注意すべき事実は、明らかに感染しているにもかかわらず、その症状を示さない動物がいるということである。我々の知る限り、ボールパイソンでは、こうした事例は発生していないが、他のヘビ種(特にピットバイパー)においては、実際に観察されている。症状を見せないヘビでも、ウイルスのついた皮を脱皮して、他のヘビに伝染させることは可能である。病気が進行すると、拒食や呼吸器疾患の症状を示して、やがては死んでしまうヘビもいるが、自らの力でウイルスを駆逐して回復するヘビもいる。

 パラミクソ・ウイルスに関するもう一つの注意点は、ウイルスがエアゾール化して空気中を漂い、空気感染するかもしれないということである。クランフィールド&グラジックの報告によると、パラミクソ・ウイルスの主要感染経路は空気感染だそうである。実際には、空気中の微粒子で感染するヘビの病気は、ごく少数である。ほとんどの病気は、ダニ、感染したヘビとの直接接触、ヘビの排出物(乾燥した痰や糞など)との直接接触、飼い主の管理ミスなどによって感染が拡大する。そのため、パラミクソ・ウイルスが空気感染するとは考えにくい。とは言え、我々自身もパイソン種においてパラミクソ・ウイルスを経験したことはないので、断言はできない。幸いなことに、パラミクソ・ウイルスはボールパイソンにおいて頻発する病気ではない。

 もしヘビがOPMVに感染したら、感染から6〜10週以内に症状が現れるだろう。OPMVの診断は、病気の(疑いがある)ヘビの血漿のなかにOPMVの抗体があるかどうかを検査するか、もしくは死後の検死によっておこなう。ヘビから採取された血液は、検査のために研究施設へと送られる。OPMVの治療法は、病気の(疑いがある)ヘビを隔離し、それと同時に、OPMVによる免疫力低下からくる二次疾病を治療することである。ちゃんと回復するヘビもなかには存在する。

その他のウイルス

 今までにボールパイソンにおいて発見されたウイルスには、レオウイルス、パルボウイルス、アデノウイルスなどが存在する。これらのウイルスについては、ほとんど知られていない。ボールパイソンにおいて、深刻な伝染病をひきおこしたという報告は今のところないが、可能性は捨てきれない。

 ウイルスが明確に特定されることは稀である。大抵の場合、ほとんどのウイルスを識別できるのは、特別な研究所や研究者だけである。通常、ウイルスの可能性が疑われるのは、ある病状が抗生物質・寄生虫駆除薬・抗真菌剤に反応しなかった場合である。ボールパイソンにおいて、今後も新たなウイルスが発見されることは間違いないだろう。

クリプトスポリジウム症

 クリプトスポリジウム症はかなり感染力の強い病気で、命取りになる場合もある。その原因は、Cryptospordium serpentisという球菌である。クリプトスポリジウムのライフサイクルはよくわかっておらず、この病気の効果的な診断法や治療法に関しては、獣医の間でも意見が大きく分かれている。Cryptospordium serpentisには複数の菌株が存在していることがわかっており、異なる菌株が異なるヘビ種に影響を与えて、さまざまな症状と度合をもたらしているとも考えられる。

 クリプトスポリジウム症の症状には、採食の数日後に未消化の(あるいは少しだけ消化された)ネズミを慢性的に吐き戻すこと、食欲減退、衰弱、胃壁の硬質化などがある。胃壁の硬質化は実際に確認することができる。ヘビの胴体の中央部分が硬くなって、健康なヘビのように簡単に曲がらなくなってしまうのだ。

 クリプトスポリジウム症は、感染したヘビの糞便と接触することにより伝染される。ヘビのなかには、何年も症状を示さないものもいる。通常、クリプトスポリジウム症の診断は、糞便標本のなかにクリプトスポリジウムの卵母細胞があるかどうかを顕微鏡で調べることによっておこなうが、卵母細胞を脱皮しないヘビもいれば、卵母細胞を周期的に脱皮するヘビもいる。ネズミのクリプトスポリジウム種の卵母細胞がヘビの体内を通過して、糞便標本のなかで見つかることもある。ネズミのクリプトスポリジウムとヘビのクリプトスポリジウムを区別することは難しいが、ネズミのクリプトスポリジウムはヘビに感染しないことがわかっている。

 我々はクリプトスポリジウム症にかかったボールパイソンを見たことがないが、飼育されているボールパイソンで感染したという報告例もある。どんなヘビ種においても、クリプトスポリジウム症の治療に成功したという事例はない。

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