Hebidas ヘビダス  ボールパイソン大百科

P229  孵卵箱と孵卵用床材

 孵卵箱は卵のために高湿度の状態を作り出す。我々は大型の孵卵箱を使用している。通常、我々が使っているボールパイソン用の孵卵箱は、容積42リットルのプラスチック製のゴミ箱(値段の安い円筒型のもの)で、そこに三分の二ほど湿ったバーミキュライト(蛭石)を入れて、ガラス板で蓋をしている(訳注:VPIのウェブサイトで販売しているDVDで、この様子をくわしく見ることができる)。

 我々がボールパイソンの卵を孵化させるのに使ったことがある孵卵用床材は、バーミキュライトだけである。バーミキュライトを使用していると、ボールパイソンの有精卵を100%孵化させることができるので、他の素材で実験してみようという気にならない。ボールパイソンの卵と他のパイソン種の卵を比較してみても、ボールパイソンに特有の問題点や相違点があるとは思えない。我々は湿ったバーミキュライトだけを使って、多くのパイソン類の卵の孵化に成功してきた。そのなかには、チルドレン・パイソン(Antaresia childreni)の小さな卵から、グリーン・パイソン(Morelia viridis)の壊れやすい卵や、アミメ・パイソン(Python reticulatus)の大きな卵なども含む。

 ヘビの卵を孵化させる場合、さまざまな種類の床材を使用することができる。我々は長年にわたって、さまざまな種類のヘビの卵を孵化させてきたが、その際に使用したのは次のような素材である。湿った砂、パーライト(真珠岩)、鉢植え用土、玉砂利、朽ちた木、ペーパータオル、スポンジ、ミズゴケ、泥炭ゴケ、バーミキュライト。水槽のなかに水を2.5cmほど入れ、そこにレンガを置き、その上に卵を置いて孵化させたこともある。また、密閉した空間に水をいれ、卵を入れたナイロンメッシュの袋をその上につるして孵化させたこともある。

 理想的な孵卵用床材の特性の一つは、2ヶ月の孵卵期間に耐えうる耐久性を持っていることである。それは酸化したり、腐ったり、腐食したり、卵に悪影響を与えるような汚染源となってはならない。バーミキュライトやパーライトがよく使われる理由がここにある。この二つは無機物で、比較的不活性で、細菌・かび・菌類の生成や成長を促すようなことは稀である。

 大ざっぱな目安としては、卵のクラッチの重量と、少なくとも同じ乾燥重量のバーミキュライトを使うのがいいだろう。実際には、我々はクラッチの重量の約2〜3倍のバーミキュライトを使用するようにしている。それ以下の量でも孵化に成功している飼い主はいるが、孵卵床材の量が少ないと、卵を孵化に導くために必要な水分を蓄えておくことができないので、孵卵期間のどこかの時点で、飼い主が容器に水分を補充してやる必要がある。後の項で説明するが、水分を補充する機会はできるかぎり控えるようにしたほうが、より安全で堅実な方法である。

 プラスチック製の食品保存容器から、ビニール製のジップロックの大きな袋まで、さまざまな物が孵卵箱として使用できる。我々が知っているプロのブリーダーは、ヘビを輸送するのに使う発泡スチロールの箱を利用して、その上にガラス板で蓋をして孵卵箱として使っている。孵卵箱は密閉状態かそれに近い状態がいい。完全に空気を閉じ込めることが必須というわけではないが、空気中に含まれる水分を外部に逃してはならない。卵のクラッチ(卵が1個のこともあれば数個のこともあるが)、適切な量の孵卵床材と水分、一定量の空気…理想的な孵卵箱は、これら全てを内包できる大きさでなければならない。また、卵は孵卵箱の内壁と接触させてはならない。

 6個の卵を持ったボールパイソンのクラッチを孵化させる場合には、最低でも6000立方cmの容積の孵卵箱を使うことをお薦めする。これ以下のサイズでも孵化に成功することはあるが、容器が小さくなればなるほど、卵の孵化にともなう問題が発生する確率が高くなる。6000立方cmでも、ボールパイソンの立派なクラッチにとっては小さすぎるくらいである。我々が使用している最小の孵卵箱は約9290立方cmの容積を持っているが、これは高さ41cmのプラスチック製のゴミ箱である。

 小さい孵卵器しか持っていないので、孵卵箱も小さく、孵卵用の床材も少ししか使っていないという飼い主の話をよく聞く。これでは、よい繁殖計画とは言えない。孵卵箱を収容できるような十分な大きさを持った孵卵器を作るというふうに、発想を逆転させたほうがよい。どれだけのクラッチを持つ予定なのか(あるいは、持ちたいと願っているのか)を考え、それから、必要な孵卵器のサイズを決めなければならない。

 実際のところ、ボールパイソンの卵は成長にともなって呼吸をしており、酸素を取り入れて、二酸化炭素を吐き出している。孵卵の初期段階においては呼吸は最小限だが、孵卵期の大半においてゆっくりと増加し、孵化の1〜2週間前になると、急激に上昇する。小さくて密閉状態になった孵卵箱の場合、時々容器の蓋を開けてやらないと、卵が窒息してしまうことがある。とは言え、容器が密閉されていないと、水分が逃げ出していってしまうし、そもそも床材の量が少ししかなかったら、致命的に乾燥してしまう場合もある。

 つまり、次のような結論が導き出される。もしあなたがボールパイソンの繁殖と卵の孵化を真剣に考えているなら、小さな孵卵器と小さな孵卵箱を使って安上がりに済ませようなどと、ケチな考え方をするべきではない。4リットルの容器に湿ったバーミキュライトを半分詰めて、コーンスネークのクラッチを孵化させる場合を想像してみてほしい。ヘビの繁殖経験を持つ飼い主のほとんどが、実際に目にしたり、自分でやったことがあるだろう。これ以上はないくらいシンプルで、小さな卵を孵化させるにはとても効果のある方法である。ボールパイソンの卵を孵化させるのに我々がお薦めする方法は、要するに、そのシンプルな方法をボールパイソンのサイズに合わせて巨大化させたものである。ボールパイソンの大きなクラッチを孵化させる際に、小さなコーンスネークのクラッチを孵化させるのと基本的に同じ容量の空間と床材を使用している飼い主があまりにも多すぎる。孵化が成功する可能性を最大限に高めて、最高の仕事をするためには、その計画に見合った最大限の努力をしなければならない。

 我々は週に数回、大きな孵卵箱の蓋を開ける。その主な目的は、卵の状態を検査・確認することだが、もし全く蓋を開けなかったとしても、容器のなかにはボールパイソンのクラッチが孵化するには十分な空気が入っていると思う。卵の表面に切れ目ができて、なかの赤ん坊が呼吸をはじめたらすぐに、そのサイズに関係なく、孵卵箱の通気性をよくする必要がある。

 我々が使用している大きな孵卵箱の場合、卵の孵化がはじまると、ガラス板の蓋を横にずらして、数ミリ幅の細い空気の通り道を作ることにしている。こうすると、ゴミ箱のなかから水分が逃げることになるが、我々の孵卵箱は大きくて、十分湿ったバーミキュライトが入っているので、この程度の水分蒸発は無視してもよい。

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